黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その41: 「サーフズ・アップ」がもし入っていたら…

ハーベスト YC-5020

シーズ・ア・レディ/最新ポピュラー・ヒット情報

発売: 1971年7月  

ジャケット

A1 ナオミの夢 (ヘドバとダビデ) 🅲

A2 ローズ・ガーデン (リン・アンダーソン) 🅲

A3 この胸のときめきを (エルヴィス・プレスリー) 🅱

A4 ぼくのリズムを聞いとくれ (サンタナ)

A5 ハロー・リヴァプール (カプリコーン)

A6 悲しきヤング・ラヴ (レターメン)

B1 パッチ・イット・アップ (エルヴィス・プレスリー)

B2 ノックは3回 (ドーン) 🅲

B3 マッドレー (フランシス・レイ)

B4 流れ者のテーマ (フランシス・レイ)

B5 シーズ・ア・レディ (トム・ジョーンズ)

B6 ロンリー・デイ (ビー・ジーズ)

 

演奏: テディ・ウィズ・ブレイズン・ブラス

編曲: 今泉俊昭

定価: 1,700円

 

1971年という年は、歌謡曲と洋楽ポップスの間の段差が最も低かった年なのかもしれない。歌詞を引っ剥がして演奏だけの姿にされたレコードを聴くと、余計そう思う。「歌謡フリー火曜日」で71年の洋楽ヒットに焦点を当てたアルバムを紹介するのは、これで4枚目。歌無歌謡のレコードを聴くのと同じ気分で、当時のポップス界のカラフルさを振り返れる。ロック史を振り返る立場として、やたら名盤アルバムが世に出された年というイメージもあるけれど、まず「楽曲の強さ」に関しては国境なんてなかったんだなと思う。幅広い曲調を図太いブラス・サウンドで、次々に畳みかけてくる。「あなたと夜とミュージック」でおなじみテディ池谷氏の小粋なピアノがはじけ、テイチクの69年問題作『恋の奴隷』でアレンジを手掛けた元ノーチェ・クバーナの今泉俊昭氏の手腕が冴え渡る。リズムセクションには、ギターに川崎僚、ドラムに田中清司を迎えており、特に後者が与える疾走感が当時ならではの「ナウさ」を生々しく刻み込んでいる。そしてただひたすら、金管勢が吠えまくる。おしゃれな小技なんかない、音の塊に圧倒される。

謡曲と洋楽の段差のなさを語る上では、象徴的な1曲になったと思われる「ナオミの夢」。確かに、どっちの歌無盤に入っても違和感ないし、ここでも見事なペースセッターぶり。ローズ・ガーデンはどうしても他の曲と絡めて語りたくなる曲だけど(汗)、そういう見方をすればこれも歌謡曲だし。この胸のときめきをはエルヴィスが再びポピュラーにする前に、はつみ・かんながカヴァーしていたし。いきなりロック色が現出して「ぼくのリズムを聞いてくれ」に至るが、川崎僚一人で気合入れすぎたギターを、爆走するドラムが煽りまくる。決してフリーキーにならないけれど、熱い演奏そのものだ。「ハロー・リヴァプールもポップにこなす。

この胸のときめきを」のB面になった「パッチ・イット・アップ」は意外な選曲だが、こちらもロック色強めでめちゃ攻めた演奏。さらに凄いのが「シーズ・ア・レディ」。弾けまくったドラムにブラスも挑発されているが、原田政長によるベースが暴れまくり。意外にこの人、歌無歌謡レコードでも暗躍してる可能性あるな…日本のコーデル・モッソンかもしれない存在か。76年亡くなったとはあまりに早すぎる。ラスト、「ロンリー・デイ」がまったり始まったと思いきや、ギターが攻めまくるアグレッシヴな展開に収束し、絶妙のエンディング。この華やかさ、今時のポップスを素材にそう簡単に発揮できるもんじゃない。