黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

紅白歌無TOP40・第13幕

歌無歌謡に於ける一種の「リトマス試験紙」と化した感もある一曲。さて、どのような反応を見せるのか?

 

25位 (タイ)

哀愁のページ

歌: 南沙織

作曲/編曲: 筒美京平

作詞: 有馬三恵子

72年9月21日発売/オリコン最高位3位

 

🅰ツゥイン・ギターズ/ワーナー・ビートニックス (編曲: 原田良一) 21/4/25、21/12/10

原曲のカラーに囚われないさわやかなイントロからさりげなく引き込んで行く。若干アップテンポ気味ながら落ち着いた柔らかなサウンド作りで、随所にツゥイン・ギターズらしいマジックが効いている。

🅱ジャパン・シンフォニー・オーケストラ (編曲: ?) 21/5/22

冒頭2秒でダメダメヴァージョンの烙印がくっきり。地方のダンスバンドが必死でオリジナルの雰囲気を出そうと奮闘しながら、腐った塩化ビニールの海に飲まれていくのが見える。ピアノの人とか、可哀想としか言えない。これをシンフォニーオーケストラ呼ばわりするなんて…エンディングも工夫を出そうとアレンジされているのに、浮かんでくるのは地元水商売娘がはりきって歌い終える光景だけ。滑稽すぎてかえってやる気が出るヴァージョン。歌入りではあるが、『ティーンエイジャー編全集 最新歌謡界速報!!』(22年2月15日)に収録されている「早春の港」はこれを遥かに凌ぐ(!!!)。また聴いてしまったではないか!

『日本歌謡全集❺ 瀬戸の花嫁喝采

🅲宇都宮積善、ビクター・オーケストラ (編曲: 舩木謙一) 21/6/13

ダメダメと見せかけておいて大胆に攻めに出ているヴァージョン。洗練のかけらもないイントロもよく聴くと勢いづけの感があるし、大正琴による音の壁(よく聴くと宇都宮氏のもう一つの得意楽器、マンドリンも混じっている)は虚無感を加速している。同じアルバムに収録されている「雨」ほどの衝撃はないながら、これはかなり凄い。山内さんの盤もあるならめちゃ恋焦がれる…

🅳三笠輝彦/ブリリアント・ポップス77 (編曲: 小谷充) 21/7/1、21/11/25 

こちらもイントロを大胆に再構築、テンポを落としてソフト&メロウ化。バリトンサックスかと思わせる太い音色が魅惑する。三笠ヴァージョンが散々たる出来に終わった「夢でいいから」もこの程度にしてくれていたらと思わずにいられない。

🅴伊部晴美オールスターズ (編曲: 伊部晴美) 21/8/18 

イントロのキーボード類は噛み合っていない印象だが、堅実なギター演奏によりこちらも落ち着いた境地に誘ってくれる。原田寛治だと解りやすいドラムも控えめなサポートぶり。

🅵奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ (編曲: 岩井直溥) 21/9/11

語りの部分は端折り、いきなりメロウな雰囲気で舞踏の世界に誘うブルースカイ色しかない解釈。若干テンポは上げているものの、チークには最適。踊るより口説く方に熱が入りそう(汗)。最後は思いっきり繋いだ手を空に向かって上げてしまいそうだ。

🅶ありたしんたろうとニュービート (編曲: 青木望) 21/10/2、22/11/5

ありしんの看板を意識的に降ろしての超メロウヴァージョン。キーボード類の絡みで夢心地ムードに誘ってくれるが、やはり屋台骨がしっかりしているし、Bメロでははっきりバスドラの自己主張が聴こえる。

🅷市原明彦/ワーナー・ビートニックス (編曲: 原田良一) 21/10/18、21/12/4

こちらのドラマーはどう打って出たかと思ったら、やはりメロウな屋台骨に徹している。ギロを使って不思議なムードを作り出しているところがユニークだし、2番に行く前にちゃんとドラムの見せ所を作っているのもいかにも。

🅸小泉幸雄とクインテット (編曲: 小泉幸雄) 22/1/6

テンポダウン率はこのヴァージョンが一番でかい。イントロにも控えめに入る例のチージーなオルガンが不思議と催眠効果を催す。それ以外もキーボードを中心に分厚いサウンド作りで、意外と通俗感を匂わせない。

🅹ブルーナイト・オールスターズ (編曲: 土持城夫) 22/3/14

チェレスタを中心にこちらもキーボード類で重厚な音作り。2年後だったらフルートのパートもメロトロンでやりそうだ(汗)。やはり自ずから場末感が消えて行くのだろうか、この曲を前にすると。

🅺コロムビア・ニュー・ビート (編曲: 荒川康男) 22/5/1  

やはり荒川ヴァージョン、オリジナルのアレンジを大胆に逸脱…しながら、メロウ度をしっかり保っているし、洋楽的カラーは他のどのヴァージョンにも勝っている。やはりベースが主役。間奏には稲垣カラー充満のフルートが顔を出す。なぜかお嬢様っぽいんですよねこの人の笛は…

🅻ゴールデン・サウンズ (編曲: 荒木圭男) 22/5/2

ゴールデン・サウンズ故に普通すぎて負けてるんじゃないかと思いきや、ストリングスに力を入れて他のヴァージョンと一味違う境地に。やはりこの曲の持つ魔力には、どのアレンジャーも負けたくない思いがあったのでしょうか。

🅼宮沢昭/ミラクル・サウンズ・オーケストラ (編曲: 福井利雄) 22/5/10

イントロがちょっとこけ気味なのは他のヴァージョンにもあるあるだけど、これもなかなかがんばっている。サックスがやはり職人芸だし、バスドラがよく聴こえて曲の安定感をしっかり引っ張っている。フルートも宮沢氏のプレイか、結構太い音だ。

🅽キャニオン・ポップ・サウンズ (編曲: 小杉仁三) 22/5/19

なぜかロック色が強いイントロから、夢心地に誘う女性コーラスに導かれてやはり安定の境地へ。ここまで聴いて、木村好夫の4文字が珍しく出てこなかったが、このぶっとい音色のギターはもしかしたら好夫かも、という響き。2コーラスのBメロなどちょっぴりそう思わせる。

 

以上、14ヴァージョン (18枚収録)。終わってみれば🅱対他の全ヴァージョン、という感じになりましたが(爆)、やはり酷い解釈を許さない楽曲というイメージですね。