黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

紅白歌無TOP40・第19幕

これは実は絶望的感情に溢れた歌だというのを意外にも歌無ヴァージョンのいくつかがあぶり出してくれる…

 

21位 (タイ)

花嫁

歌: はしだのりひことクライマックス

作曲: 端田宣彦

作詞: 北山修

編曲: 青木望

71年1月10日発売/オリコン最高位1位 (2週)

 

🅰Dovecot Sounds (編曲: 柳刀太) 21/6/26

イトーヨーカドーのカラオケアルバムより。平均的に清楚気味の女子が歌いやすそうなキーにアレンジされており、音の方も78年録音らしく整頓されているが、当時三十路寸前だった元(汗)乙女が青春時代を振り返るに適した曲とは決して思えない…「バラが咲いた」とか「若者たち」に混ぜちゃいけないんだよね。

🅱石丸元、田中清司/ユニオン・オール・スターズ (編曲: 鈴木邦彦) 21/8/11

この曲に秘められている絶望的感情を最も極端にあぶり出しているのがこのヴァージョン。イントロから破壊的なディストーションギターが炸裂し、オリジナルよりハイペースで飛ばす。脱線寸前の勢いで飛ばしまくる夜汽車。1コーラス終わった後は暴走の極みへ。そしてエンディングではまじで脱線してしまう…まさに悪夢としか思えないヴァージョン。初出は「鈴木邦彦とヴィーナス」名義で出た洋楽インストアルバムであった。

🅲まぶち・ゆうじろう’68オールスターズ (編曲: 福山峯夫) 21/9/17

場末感というより牧歌的響きとさえ思える長閑なヴァージョン。🅱の後だと、大抵そんな感じであるが、よく聴くとベースもドラムも暴れ気味。クラウン故にトーンを落としているだけだ。2コーラスの出だしがおかしなことになっている。

🅳猪俣猛オールスターズ (編曲: 小泉猛、八木正生) 21/10/16

恐らく🅲でも叩いていると思われるありたしんたろうの中の人が本性を発揮したジェントルなヴァージョン。テンポ的にはオリジナルの1.5倍近くなっているが、ビート感は半分になっており、幸せなはずの歌に「恋よさようなら」的タッチを加味している。明確に本人クレジットがある寺川ベースは抑え気味。

🅴ザ・フォーク・ライダーズ/ザ・サウンズ・エース (編曲: ?) 21/10/22

これも75年頃録音の回顧ヴァージョン。故に迷いのないサウンドに仕上がっている。さりげなく顔を覗かせるオカリナが乙女の涙みたいだ。

🅵木村好夫とオーケストラ (編曲: ?) 21/11/26

イントロから好夫ギターがかなりの張り切り。RCA特有の匿名性高いオーケストラの演奏は完成度が高いが、誰の仕業なのだろう。巧みに音色を使い分ける職人芸はさすが。2番は笛に音色を近づけたオルガンで印象が上のヴァージョンに近い。

🅶ニュー・サン・ポップス・オーケストラ (編曲: K.Kono、T.Ito) 21/12/2

『フォーク・ムード』らしく意表を突いたアレンジ、スケールがでかくダイナミックな音作りの中をハーモニカが孤独にすすり泣く。2コーラスからドラマティックに転調を繰り返す。オリジナルのブラス・アレンジは完全に排除している。「神田川」や「岬めぐり」ほどの破壊力はないが、70年代中期のムードを感じさせるサウンドだ。

🅷ありたしんたろうとニュービート (編曲: 福山峯夫) 21/12/22

77年のフォーク回顧アルバムにクラウン・オーケストラ名義で収録されているが、聴いてみれば初出が明確すぎるサウンド。🅳に比べると完璧にありたモードに入っている暴走列車だ。71年の卓の性能だと、ドラムの響きが全体に調和していないのが露呈してしまうし、77年のマスタリング技術のせいでそれが余計はっきり聴こえる。71年のプロダクトで聴いたら、印象も変わるのかも。

🅸グリーンポップス・オーケストラ (編曲: 無記名) 21/1/12

ギターを引っ込めて躍動感を高めているヴァージョン。フォーク色を後退させるとヒップ度が増す、とは思わないのだけど。一部ブラスのフレーズに毒が秘められている。ベースは相当暴れ気味だが、前には出ていない。

🅹田辺信一とアルフレッド・ザ・グレイト・ブラス+琴 (編曲: 田辺信一) 22/2/8

イントロからジャパネスクモード全開ながら、メインメロは琴で奏でていず、幸せな花嫁を虚な表情で見送る和装女子3人組の姿が思い浮かぶ。山内さん以外にも二人、別の奏者がいそうだ。竹田喬アレンジと違い、一人多重録音はしていないのでは。

『ヒット・スタジオ・ベスト10 止めないで』

🅺稲垣次郎、木村好夫/新室内楽協会 (編曲: 河村利夫) 22/3/22

イントロは完全に再構築。オールディーズの何かの曲に似たのがあったような…手堅く派手ではない演奏に名手二人の色がくっきり浮かび上がる。

🅻奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ (編曲: 岩井直溥) 22/4/2

「今宵踊らん」らしく派手に踊れる。あいつらより俺らの方がずっとリア充だろと勝ち誇る上流ピーポーの喜びが伝わってくるような仕上がり。ディストーションによる「荒らし」の介入など想像できない。珍しくオリジナルの尺を超えての演奏。

🅼バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ (編曲: バッキー白片) 22/4/15

こちらはハワイ流結婚式のイメージが伝わってくる予想通りの演奏。なのに、ちょっぴりメランコリックなムードもある。チージーなオルガンが不吉な様子で忍び寄り、ハッピーな感じをある程度抑えつける。

🅽石川鷹彦とそのグループ (編曲: 青木望) 23/6/16

オリジナルアレンジャーの仕事らしく、無難にまとめているが、ロック色は完全に排除。小室等の達人的ギターが安定の境地に誘う。

🅾シンギング・ブラス (編曲: 池田孝) 23/11/8

3つの「BEST and BEST」ヴァージョンの中では最もオリジナルに近く、ゴージャスなブラスアレンジもしっかりはまっている。オルガンの孤高な響きはいたずらっぽく、雨のように降ってくる鉄琴もユニークな味付け。

 

以上、15ヴァージョン (15枚収録)。やはり🅱の衝撃を凌ぐものはないが、様々な風景が見えてくるヴァージョン揃い。