黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

師走だなぁ…僕はクラを聴くと師走を感じるんだ

キング SKK-265

ムード歌謡ベスト・ヒッツ Volume 3

発売: 1966年

ジャケット

A1 夜空の星 (加山雄三) 🅳

A2 恍惚のブルース (青江三奈) 🅶

A3 やさしい雨 (園まり)

A4 青い瞳 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅳

A5 はてしなき恋 (西田佐知子)

A6 恋心 (岸洋子)

A7 君といつまでも (加山雄三) 🅶

B1 蒼い星くず (加山雄三) 🅱

B2 バラが咲いた (マイク真木) 🅷

B3 さいはての湖 (日野てる子) 🅱

B4 ここがいいのよ (和田弘とマヒナ・スターズ)

B5 涙のギター (尾藤イサオ)

B6 口笛だけが (坂本九)

B7 おもいで (布施明) 🅲

 

演奏: 鈴木敏夫とディジー・フィンガーズ/瀬上養之助と彼のラテン・リズムス、鈴木章治 (クラリネット)

編曲: 鈴木敏夫鈴木章治

定価: 1,500円

 

特に69年までのキングの歌無歌謡は、独特のスタイリッシュさというか高貴さがあって、なかなか近寄れるものじゃなかった。もっと正確に言えば、ジャンクコーナーに滅多に現れなかった(汗)。なので、集まった枚数も老舗メジャーにしては多くないし。そんな事態が、今回の復活月間でちょっとだけ解消されました。ほんのちょっとですけどね。

これも例外ではなく、ジャケットの娘が着ている服だけでも大合格というか、庶民的でありつつ浮世離れした感覚がたまりません。そして音の方も。ムード歌謡と謳っていながら、強烈にモダン感覚を漂わせたジャジーでラウンジっぽさ全開のアルバム。ディジー・フィンガーズ名義のアルバムは、68年に至るまでキングの歌無歌謡の主流だったけど、やっと1枚手に入って感無量。

とにかく1曲目からやられる。こんな「夜空の星」があっていいのか…小粋なスウィング感覚に揺れまくるクラリネットの調べ、魅了するピアノ。北村英治の「ちいさな恋」の暴走ぶりとも違う、ガチジャズ野郎の心意気。原曲がいいから余計伝わりやすいのだ。続く、ヴァイブが先導するラブリーなイントロから、始まる曲が「恍惚のブルース」であることを誰が予測できるか。場末感充満の原曲がおしゃべり娘の語らいの場に大変身。加速してピアノが暴れ始めると、さらにダンモ感覚が倍増する。ジャケットの服が言い表さんとしていた光景が、ここに凝結しているのだ。しっとりと聴かせる「やさしい雨」は、園まりさんの追悼回を設けられなかった懺悔として、ここで改めて捧げさせていただきます。B面ながらヒットもした「何んでもないわ」が大好きなんです…

GSの夜明けを伝える「青い瞳」は、ボサノヴァ感覚で全く別の曲のように生まれ変わり、一部メロディーで遊んでるところが心憎い。いかにもムード歌謡な2曲が続いた後で、「君といつまでも」はクラのメロウな調べにハートがとろけまくり。これで夜通し彼女と踊りたいところです…「蒼い星くず」ボサノヴァとスウィングの合わせ技で斬新に料理し、「バラが咲いた」はフォークっぽさを生かしつつ、ピアノの音が恥じらいがちの乙女のような感触を持ち込んでいる。かと思えば「ここがいいのよ」はファニーさ全開。曲の前半と終盤は高音部の楽器だけで奏でるという実験的試みを見せている。こういうのは新鮮ですね。67年以降のポップ革命をチラ見させるモダンな息吹が、かえって歌謡曲と不釣り合いとなる未来は予想できたか?