黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は大橋純子さんの誕生日なので

キャニオン C18R-0009 

愛のエレクトーン 江川マスミ

発売: 1979年5月

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ジャケット



A1 夢一夜 (南こうせつ)

A2 季節の中で (松山千春)

A3 精霊流し (グレープ)

A4 「いちご白書」をもう一度 (バンバン) 🅱

A5 神田川 (かぐや姫) 🅱

A6少しは私に愛を下さい (小椋佳)

A7 わかって下さい (因幡晃)

A8 帰らざる日々 (アリス)

B1 たそがれマイ・ラブ (大橋純子) 🅱

B2 思い出は美しすぎて (八神純子)

B3 どうぞこのまま (丸山圭子)

B4 心もよう (井上陽水) 🅱

B5 なごり雪 (イルカ)

B6 あの日にかえりたい (荒井由実) 🅱

B7 シクラメンのかほり (布施明) 🅱

B8 さらば青春 (小椋佳)

 

演奏: 江川マスミ

編曲: 付属品欠落につき調査不能

定価: 1,800円

 

歌無歌謡のレコードを集め始める前から、エレクトーンのレコードは大好物だった。小学生~中学生時代、学校の音楽室にあったその楽器を触ることは恐れ多くてできず、クラスメイトの家にアップライトピアノはあれど、電子オルガンがある家はほぼ皆無。そんな身で、ヤマハ音楽教室の「ジュニアオリジナルコンサート」の生徒さん達の作品が放送される「若き音楽家たちの世界」を聴いて歯ぎしりする思春期を過ごした反動で、今世紀に入ってからそういったレコードが手許に集まり始めるのである。もっとも、決め手になったのはネット友経由で聞かせていただいた、南ア出身の全盲少年ニコール・ヴィルジョアンが演奏する、大胆に解体・再構築されたビーチ・ボーイズ「グッド・ヴァイブレーション」の衝撃だったのだが(『第7回エレクトーン・コンクール 栄光のグランプリ・アルバム』の2枚組版に収録されている。同作は完全に骨抜きされた「ホールド・オン・アイム・カミン」も必聴)。

当ブログでも相当数紹介する予定の歌無歌謡、ないしイージーリスニング系のエレクトーンレコード(カテゴリーはヤマハ社以外への配慮も兼ね、「電子オルガン」で統一。その他の特殊キーボードは別途まとめ予定)には、そうした冒険性は皆無。とはいえ、それぞれに憎めない響きがあり、青春の甘酸っぱさを脳裏に甦らせてみせる。

70年代全般のフォーク~ニューミュージックの名曲を取り上げたこの『愛のエレクトーン』は、「女性が選ぶ女性のためのエレクトーン」と銘打たれ、楽器演奏の乙女の嗜みとしての側面を強調した1枚。たとえ神田川とか「帰らざる日々」とか、そうした主題に不釣り合いな曲が入ってようがだ。手許にある盤からは残念ながら欠落しているが、全曲の譜面が付けられており、淑女たちの実践精神を湧き立たせたはずである。演奏者の江川マスミさんは、60年代中期よりレコード活動を開始。女流奏者としては先駆者的存在。なにせ、斉藤英美さんの例もあるし、実際写真を拝見(ネット上で)するまで不覚にも性別を存じ上げませんでした(汗)。70年代末期らしく、音色にカラフルなバリエーションが出てきて、特に減衰音系が曲のリリカルさにマッチしている。手堅いリズムセクションのバッキング入り。続いて、もう少し上の年齢層を狙った『愛のエレクトーンII』も発売されているが、いつ紹介されるか、それはお楽しみということで。やはり、自分で実践してなんぼでもあります、「歌のない歌謡曲」は。

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『第7回エレクトーン・コンクール 栄光のグランプリ・アルバム』

 

今日はアル・パチーノの誕生日なので

アトランティック QL-6064A 

華麗なるミラクルギター・ベストヒット20 虹をわたって/夜汽車の女

発売: 1972年9月

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ジャケット



A1 虹をわたって (天地真理)

A2 京のにわか雨 (小柳ルミ子)

A3 夜汽車 (欧陽菲菲)

A4 朝まで待って (朝丘雪路)

A5 旅路の果てに (森進一)

A6 こころの炎燃やしただけで (尾崎紀世彦)

A7 どうにもとまらない (山本リンダ)

A8 恋唄 (内山田洋とクール・ファイブ)

A9 途はひとつ (黛ジュン)

A10 ゴッドファーザー愛のテーマ (尾崎紀世彦) 🅱

B1 夜汽車の女 (五木ひろし)

B2 哀愁のページ (南沙織)

B3 旅の宿 (吉田拓郎)

B4 花は流れて (藤圭子)

B5 芽ばえ (麻丘めぐみ)

B6 夢ならさめて (にしきのあきら)

B7 ひとりじゃないの (天地真理) 🅲

B8 純潔 (南沙織) 🅲

B9 あなただけでいい (沢田研二)

B10 BABY (平田隆夫とセルスターズ)

 

演奏: ツゥイン・ギターズ/ワーナー・ビートニックス

編曲: 原田良一

制作: 大野良治/ミキサー: 島雄一

備考: SQ方式4チャンネル・レコード

定価: 1,800円

 

遂にやってきました、我が歌無歌謡愛の核心、ワーナー・ビートニックスについて語る時が!とにかく、あらゆる情報網を駆使して、ワーナーの『華麗なる~』シリーズで71~73年にリリースされた歌無歌謡のアルバム全45作(内11作は2枚組)の曲目含むディスコグラフィーを、なんとか組み上げることができました(他にも『ロック・クリスマス・ロック』など重要作がいくつかありますが)。とにかく、このシリーズには一貫した美学があります。窓開き仕様を採用した1枚もののジャケットはその象徴。今所持している音盤は残念ながら、その全てではないけれど、いくつも重要作があるので、機会を得る度にじっくり語っていきたいと思います。

今日紹介するのは、「ツゥイン・ギターズ」名義で出された3作目にあたるもので、1972年のヒット曲をずらり20曲フィーチャー。片面に10曲も突っ込んでいるのに、アレンジをコンパクトにまとめ、1曲あたりの演奏時間を2分台に抑えているおかげで、適度にダイナミックレンジを保持しているところがワーナー最大の魅力。原曲に忠実によりも、いかに独自のカラーを加えるか、それに於いてこのシリーズは圧勝だと思います。そしてこちらは、ソニーが提唱したSQ方式を採用した4チャンネルミックス。通常のステレオとの互換性が高いため、最も普及した方式となったが、何故か後期のリリースではRM方式に鞍替え。同じQL規格を品番に採用してるので、実にややこしい。

さて「ツゥイン・ギターズ」の魅力は、文字通り独自に編み上げられたギターアンサンブル。それこそ、3本以上のギターでないと再現できない演奏もあるが、単にギタリストが二人いるのでこの名義になったと思われます…詳しい話はいつか、当事者に伺いたいということで(汗)、その魅力は1曲目「虹をわたって」から全開。両サイドから畳み掛けるギターのカスケイド、軽やかに支えるチェンバロやヴァイブ、地味に自己主張するベース(Bメロでは4拍目と6拍目を強調した「ミレニウムベース」が!)など、やっつけ仕事ではあり得ない繊細なサウンドが、四方から押し寄せる(当然、脳内でデコードしています)。「京のにわか雨」は繊細に8分音符を刻むギターに、マイルドなディストーション気味でメロディが乗る。「どうにもとまらない」はオリジナルと一味違う疾走感が溢れ出たロッキンな解釈。いずれも独自の和声感覚がユニークな個性になっており、これこそが「ツゥイン・ギターズ」の決め手である。

B面トップはグルーヴ演歌として再評価の著しい「夜汽車の女」。勢いが止まらなかった五木さんの新曲だからこそ、歌無歌謡解釈も多岐に及んでおりそれぞれに楽しめる。ここではハーモニーも控えめにハードにロックしているが、同じワーナー・ビートニックス名義でもドラムを主役に据えたヴァージョンはより過激な出来になっており、同一名義で聴き比べができるのもこのシリーズの醍醐味(時々音源使い回しもあるのだが)。この辺も今後の音盤語りの課題にしたいところ。続く「哀愁のページ」との温度差もまた格別で、ここでのギターのハーモニーは脇役に徹している。さわやかに加速してみせた「芽ばえ」、一瞬「銀色のグラス」かと思えてしまう、ベースも派手に暴れ回る「夢ならさめて」など、他にも聴きどころ満載。ギターの美学を多角的に伝えてくれる好アルバムだ。

今日は「日本ダービー記念日」なのですが

コロムビア ALS-4559 

ギターの秘密 この広い野原いっぱい/初恋の人に似ている

発売: 1971年3月

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ジャケット

 

A1 この広い野原いっぱい (森山良子)

A2 白いブランコ (ビリー・バンバン)

A3 空よ (トワ・エ・モア)

A4 希望 (岸洋子)

A5 夏よおまえは (ベッツイ&クリス)

A6 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🅱

A7 別れのサンバ (長谷川きよし)

B1 初恋の人に似ている (トワ・エ・モア)

B2 小さな日記 (ザ・フォー・セインツ) 

B3 走れコウタロー (ソルティー・シュガー)

B4 恋人 (森山良子)

B5 白い色は恋人の色 (ベッツイ&クリス)

B6 或る日突然 (トワ・エ・モア) 🅱

B7 若者たち (ザ・ブロードサイド・フォー)

 

演奏: ロス・ガートス

編曲: 甲斐靖文

定価: 1,500円

 

ど演歌の翌日にどフォーク!この急展開がたまりませんね。歌無歌謡的に目ぼしい出来事がない(オリコン1位曲「夜明けの停車場」と「サウスポー」は、他の日に割当て済)今日ですが、「日本ダービー記念日」ということで、ちょっと無茶ながら競馬をテーマにした走れコウタローを収録したこのアルバムを紹介。大好きな1枚です。思い入れが強過ぎて、2017年に宗内の母体監修・選曲でリリースした、コロムビアの女性フォークを中心としたコンピレーションCD『コロムビア・ガールズ伝説 FOLKY & ELEGANCE』のジャケットデザインをイラストレーターのキタサコさんにお願いした際、コロムビアの偉大なる遺産にリスペクトを表するため、このアルバムのジャケットの要素をどこかに滑り込ませて欲しいと提案。ちゃんと、さりげなくも実現していただきました。さて、どこにあるでしょう?お持ちの方は探してみて下さいね。

ギター主体のアルバムを他にも幾つかリリースしている謎のユニット、ロス・ガートスの演奏で、66~70年のフォーク黎明期の名曲を集めたアルバム。シンプルなサウンドでまとめられ、耳に入ってくる音は各種アコースティック・ギターとパーカッション、さりげないベースのみ。それでいて、エコー処理により独特の心地よい音像を作り、聴いていて落ち着ける流れが形成されている。ギター演奏そのものもここぞとばかり暴走してしまうような要素が一切なく、それでいて妥協を許さないストイックな響き。「空よ」「希望」などで使用されているタブラが、余計に孤高の雰囲気を高めている。問題の「走れコウタロー」は無茶に奇をてらったところを狙わず、ノヴェルティ感を適度に保ったアレンジで全体の流れから浮いていない。終盤、超絶に加速していく演奏は見事としか言えない。一切無駄を省いた地球に優しい響きのアルバムは、そう簡単に作れるものではありません。かと言って、単なるニューエイジに堕ちてしまわないのは、さすがに楽曲の強さのおかげですね。

 

探してみて下さいねと言いつつ、貼ってしまう(汗)

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コロムビア・ガールズ伝説 FOLKY & ELEGANCE』

 

今日は河島英五さんの誕生日なので

ユピテル YL-2109~10 

夜の盛り場演歌全曲集

発売: 1978年

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ジャケット



A1 あしたも小雨 (五木ひろし) 🅱

A2 哀歌 (八代亜紀)

A3 私の名前が変わります (小林旭)

A4 お店ばなし (増位山太志郎) 🅱

A5 そんな女のひとりごと (増位山太志郎) 🅱

A6 花街の母 (金田たつえ) 🅱

A7 旅の終りに (冠二郎)

A8 津軽海峡冬景色 (石川さゆり)

B1 北国の春 (千昌夫) 🅱

B2 時には娼婦のように (黒沢年男) 🅱

B3 ウナ・セラ・ディ東京 (ザ・ピーナッツ)

B4 兄弟仁義 (北島三郎)

B5 わたし祈ってます (敏いとうとハッピー&ブルー) 🅰→4/9

B6 ほおずき (渡哲也)

B7 おゆき (内藤国雄)

B8 君こそ我が命 (水原弘)

C1 夢追い酒 (渥美二郎) 🅱

C2 そんな夕子に惚れました (増位山大志郎)

C3 すきま風 (杉良太郎)

C4 カスマプゲ (李成愛)

C5 黒い花びら (水原弘)

C6 もう一度一から出なおします (小林旭)

C7 くちなしの花 (渡哲也) 🅱

C8 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ) 🅱

D1 熱海の夜 (箱崎晋一郎)

D2 円山・花町・母の町 (三善英史)

D3 ラブユー東京 (黒沢明ロス・プリモス)

D4 ひとり (渡哲也)

D5 コモエスタ赤坂 (ロス・インディオス)

D6 暖流 (石川さゆり)

D7 酒と泪と男と女 (河島英五)

D8 愛ひとすじ (八代亜紀)

 

演奏: ユピテル・グランド・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 2,500円

 

フォーク歌手として名を成した故・河島英五さんの誕生日なのに、唐突にど演歌のコンピ。逆説的スタンスに入ってしまうのも宗内の悪いところなんです…と言いつつ、安い飲み屋モードに切り替え、このレコードに耳を傾ける。しみじみ聴ける、そんな世代になってしまいました…と言えども、リアルタイムで親しんだ曲もいくつも入っていて、パンクだニューウェイブだと意固地になっていた中学生の頃の自分の素直な部分がフィードバックしてくるんです。いくら演歌と言えども、流行り歌として耳に入れ、時々口をついて出てきたりしてましたからね。当時の最新ヒット曲に限らず、10数年前に至るスタンダード曲も織り交ぜ、手堅く聴かせる。さすがに豊富に歌無歌謡音源のリリースを積み重ねてきたユピテルだけあって、全ての曲が最新録音で統一されているわけではなく、「わたし祈ってます」は4月9日紹介の通称『ポストアルバム』に収録されていたのと同じテイク(演奏者名義は違うが、よくあることさ)だが、それほど違和感を感じさせない。どうせならメロトロン全開の「襟裳岬」も入れて欲しかったところだが、何故か森進一の曲はここには選曲されていない。

それぞれの曲の聴きどころを探すのは野暮ったいけれど、津軽海峡冬景色」は場末感が強い割にエンディングの盛り上げ方が尋常でなかったり、「君こそ我が命」はツウィン・ギターズ的演奏の割に好夫ギター全開(他の曲にも明らかに好夫ギターがフィーチャーされているものがあるが、個別クレジットは一切無し)で、おまけに低音鍵ハモにトレモロをかけてたり、「ほおずき」の飲み屋のねーちゃん達のような女性コーラスなど、時折ハッとさせる瞬間が訪れる。そして、やっぱ酒と泪と男と女は唱和してしまいます…殆ど縁のないライフスタイルを送ってきたけれどね…(汗)。こんな「夜の盛り場」が廃墟と化した今だからこそ、染みるアルバムです。ジャケットは矛盾してるが…

1974年、今日の1位は「なみだの操」(6週目)

コロムビア KW-7025~26 

‘74ヒット曲要覧=前半編=

発売: 1974年5月

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裏ジャケット(一部)



A1 あなた (小坂明子)Ⓐ

A2 突然の愛 (あべ静江)Ⓑ

A3 バラのかげり (南沙織)Ⓑ

A4 恋の風車 (チェリッシュ)Ⓐ

A5 しあわせの一番星 (浅田美代子) Ⓑ

A6 花物語 (桜田淳子)Ⓑ

B1 恋のダイアル6700 (フィンガー5)Ⓑ

B2 恋は邪魔もの (沢田研二)Ⓑ

B3 ときめき (麻丘めぐみ)Ⓑ

B4 積木の部屋 (布施明)Ⓑ

B5 愛の十字架 (西城秀樹)Ⓐ

B6 神田川 (かぐや姫)Ⓒ

C1 赤ちょうちん (かぐや姫)Ⓐ

C2 なみだの操 (殿さまキングス)

C3 くちなしの花 (渡哲也)Ⓐ

C4 恋の雪別れ (小柳ルミ子)Ⓐ

C5 円舞曲 (ちあきなおみ)Ⓑ

C6 襟裳岬 (森進一)Ⓐ 🅱

D1 魅せられた夜 (沢田研二)Ⓐ

D2 学園天国 (フィンガー5)Ⓑ

D3 ひとかけらの純情 (南沙織)Ⓐ

D4 一枚の楽譜 (ガロ)Ⓑ

D5 花とみつばち (郷ひろみ)Ⓑ

D6 心もよう (井上陽水)Ⓒ

 

演奏: 稲垣次郎 (テナー・サックス、フルート)/ゴールデン・ポップス

編曲: 山屋清Ⓐ、河村利夫Ⓑ、小谷充Ⓒ

定価: 3,000円

 

石油ショック」を経て、レコード業界全体が慎重さを増し始めた1974年。ワーナーの歌無歌謡からの撤退、クラウンのスタンス変更など、歌無歌謡周辺にもいくつか象徴的動きがあったものの、依然として大衆歌謡界は活発に動き、歴史に残るヒット曲はいくつも残されたし(本日のテーマ「なみだの操」は3月から5月にかけ、1位を9週間も独走)、アルバム界にも井上陽水『氷の世界』、かぐや姫『三階建の詩』といったランドマーク作がいくつか生まれた。そんな74年の前半を、LPレコード2枚で振り返ろうという企画。

名手・稲垣次郎氏の名前がフルート奏者としてもクレジットされており、冒頭の「あなた」に針が降りた瞬間から鮮やかなフルートの音が…と思いきやその正体はメロトロン!メロトロンマニア歓喜の一瞬が、この淡白な音の隙間を埋め尽くす。Bメロではサポートに回り、想像を絶する速いパッセージを奏でる。1枚目の残り全曲では鳴りを潜めるものの、2枚目の冒頭赤ちょうちんで再登場。貧相な安酒場の雰囲気に幽玄に食い込む戦慄の男声コーラス。さらに続く「なみだの操」もメロトロンフルート全開。ど演歌を体現するテナーサックスにラブリーに寄り添う。もう一つおまけに「くちなしの花」(もちろん渡哲也の方)にもダメ押しのように登場。この4曲だけでまじでお腹いっぱい。手堅い歌謡曲仕事のやっつけ感にぶつけるようにメロトロンをここぞとばかりぶち込みまくる、山屋清って人の執念を思い知らされる。

折角なのでメロトロン不使用曲からも聴きどころをいくつか紹介したいのだが(爆)。「しあわせの一番星」は本物のフルートをフィーチャーしている(笑)が、エコーのせいで不自然なサイケ感が。それとやはり、奏者の顔が見えてしまったため、乙女感が希薄に聴こえる(謝)。ロック色の濃い曲はそれなりにノれるヴァージョン以上の印象は抱けないし、神田川も女性コーラスでフレッシュな印象を残すけれど、直後に「赤ちょうちん」が来るせいでそれもかき消されてしまう。襟裳岬ユピテルヴァージョン(4月9日参照)の凄さを前にすると何も感じさせない。いくら本物のフルートが生きたアレンジでも、あのメロトロンコーラスを幻聴してしまう(汗)。「学園天国」「心もよう」も、最強ヴァージョンと呼べるものが今後紹介する中にあって、それらに比べるといまいち。やはり、メロトロンっていいねという印象が全てを支配する、そんなアルバム。

 

コロムビアにはこちらの「くちなしの花」もありますからね。4年早いリリースですが。

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川崎幸子・敏子「くちなしの花」

 

今日は畑中葉子さんの誕生日なので

クラウン GW-5425

ダーリング 魅惑のヒット歌謡ベスト16 

発売: 1978年6月

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ジャケット



A1 林檎抄 (森進一)🅰→4/3

A2 サムライ (沢田研二)

A3 サウスポー (ピンク・レディー)🅰→4/3

A4 ゴー・ウエスト (ザ・ドリフターズ)🅰→4/3

A5 エーゲ海の旅 (平尾昌晃・畑中葉子)

A6 泣き上手 (野口五郎)🅰→4/3

A7 迷い道 (渡辺真知子)🅰→4/3

A8 愛なき世代 (南沙織)

B1 ダーリング (沢田研二)🅰→4/3

B2 時には娼婦のように (黒沢年雄)🅰→4/3

B3 微笑がえし (キャンディーズ)🅰→4/3

B4 プレイバックPart 2 (山口百恵)🅰→4/3

B5 かもめはかもめ (研ナオコ)🅰→4/3

B6 カナダからの手紙 (平尾昌晃・畑中葉子)

B7 あざやかな場面 (岩崎宏美)🅰→4/3

B8 与作 (北島三郎)🅰→4/3

 

演奏: クラウン・オーケストラ

編曲: 神山純Ⓐ、井上忠也Ⓑ、久富ひろむⒸ

定価: 1,800円

 

4月3日のエントリで『絶体絶命・ヤマトより愛をこめて』を取り上げた際、クラウンの歌無歌謡レコード、特に75年以降のリリースがいかに厄介かにちょっとだけ触れましたが、その理由を説明する機会が早くもやってまいりました。

これは『絶体絶命~』に約3ヶ月先立って発売された盤。クラウンはずっと歌無歌謡アルバムの中軸に2枚組を置いていたが、78年には久々に1枚もののリリースにも手をつけており、そんな中の1枚がこれ。何せ当時のクラウンが歌無歌謡を「生もの」として位置付けていたせいか、ほぼ1ヶ月ごとに内容をリニューアルして新譜をリリースし、旬を過ぎたアルバムは早々とカタログから削除しており、そのため完全なるカタログを追うのは至難の技であるが、確かなのは収録曲が重なっている場合、同じ録音をリサイクルしていたことである(この風習はそれこそ70年代前半に既に始まっていたのである)。なので、安いからとついつい手を出しても、完全なる満足感に襲われるということはまずない。録音が同じでも盤によって音質が違うとか、偏執狂的に検証しているマニアがいるとは思えないし…

この『ダーリング』にしても、後に出た『絶体絶命・ヤマトより愛をこめて』にご覧の通り、16曲中12曲が流用されており(🅰マークは、無印で初回紹介されたアルバムのヴァージョンと同一を示す)、恐らくその他のアルバムにも転用された曲があるはずである。逆に、このアルバムが初出ではない音源も確実にあると思われ、この辺の真相は恐らく当時の関係者でさえ正確に把握しているとは思えない(何せ40年以上時間が経過してますからね…)。転用されていない4曲のうち半分が今日誕生日の畑中葉子さん絡みということで、こちらを後に紹介ということになりましたが。

タイトル曲「ダーリング」はオリジナル発売が78年5月21日で、翌月にはこのアルバムが早々と出ている。よって、電光石火の如き早技でアレンジ・レコーディングが行われたのは確実。故に、イントロ全体を間奏とエンディングにも転用した慌ただしいアレンジになったと推測される。ジュリーの当時の新曲に対するとてつもない期待度が、これだけでも解るというものだ。20日早くリリースされた「プレイバックPart2」は、そこまで危なっかしいアレンジにはなっていないのだが、シンセのシーケンスに近いものを必死に弾いているクラヴィネットの健闘ぶりを讃えたい。

「サムライ」はオリジナルが長い曲故、1コーラス端折っているが、それはやはり仕方ないところ(そこを強行突破したのがクリスタル・サウンズであるが)。ギターアンプのマイキングが無茶気味で、ミックスに悪影響を及ぼしているのが気になる。平尾・畑中コンビの2曲は、楽器の使い分けにデュエット感を活かしたアレンジ。しかし橋本淳さん、エーゲ海の旅」の出だしの歌詞は挑発してるとしか思えませんよ…そして、リピート使用されなかった「愛なき世代」が本盤の中で最も聴きものなのが皮肉。オリジナルは最高順位74位と地味なヒットに終わった、シンシアの最後から3番目のシングル(復帰後は除く)だが、宗内が「ミレニウムベース」と呼ぶ躍動感の高いベースとドラムに引っ張られ、女性コーラスが爽快感を盛り上げる好ヴァージョン。鍵盤ハーモニカや、時折妙なアクセントを入れるギターなど、全てが光り輝く末期クラウン歌無歌謡屈指の名演だ。

歌謡フリー火曜日その3: Fab Four

国文社 SKS-109

ビートルズサウンド

発売: 1976年

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ジャケット



A1 ゲット・バック

A2 ヘルプ

A3 オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ

A4 ガール

A5 涙の乗車券

A6 ヘイ・ジュード

B1 イエスタデイ

B2 ア・ハード・デイズ・ナイト

B3 カム・トゥゲザー

B4 抱きしめたい

B5 シー・ラヴズ・ユー 

B6 レット・イット・ビー 🅱

 

演奏: ニュー・サン・ポップス・オーケストラ

編曲: T. Akano、K. Ichihara

定価(全巻予約特価): 1,600円

 

歌謡非歌謡問わず、インストカヴァー盤ではど定番に位置すると思しきザ・ビートルズ。この「歌謡フリー火曜日」でも、ビートルズに的を絞ったアルバムを数枚取り上げる予定だが、国文社の「ニュームードミュージック」シリーズ第2回にラインナップされた本盤は、むしろ異端に位置する方。解散から6年を経ての制作(76年には全アルバムがリイシューされるなど、ビートルズルネッサンス活動が本格化し、宗内が本格的に没入し始めたのもその年のことである)らしく、当時の最新サウンド・モードに忠実な、エッジの強い解釈が全面で行われている。まさに「ニュームードミュージック」のカラーに合致した1枚。

1曲目「ゲット・バック」から気合充分。たっぷり油を注がれたリズムセクションに応えるブラスの響き、何故かお茶目な印象を残す笛の音(フレージングから判断して、フルートやピッコロではなく、簡素化されたファイフの音ではないだろうか)。踊れる音楽からは程遠いけどかっこいい。クラシカルに始まりながら、ディスコ的解釈を加えて過去のムード音楽と違うムードに染まってみせる「ヘルプ」。ハードなギターをフィーチャーして原曲のお気楽さから逸脱した「オブラディ・オブラダ」。『フォーク・ムード』から逃れてきたような「ガール」には、トリッピーな雰囲気を強調するような不思議なストリングスも入る。こんな感じで進みながら、今作最大の衝撃「カム・トゥゲザー」が中盤に待ち受ける。「ガール」で聴けたトリッピーなストリングス再びに加え、「Shoot me」と声高らかに叫んでみせるピッコロ、無心に打ち鳴らされるタブラなどが織りなすイントロの異様さ。この曲がティモシー・レアリーの州知事選キャンペーンソングとして書かれかけた事実へのオマージュのつもりだったのだろうか?(当時、その事実に気づいていた人がいたとは思えないが)。既にシカゴ11の「明日への願い」に「数あるビートルズ絡みの和ものインストの中でも、確実に最凶度上位2位に入るのでは」という言葉を寄せたが、それらに続く3位こそこれではないだろうか。続く2曲も王道曲ながら、適度にモダンな解釈が加えられていて、現実世界に引き戻してくれる。もっと大胆な選曲をと望みたい気持も芽生えないほどの気合が伝わってくる1枚。アレンジャーの二人は市原宏祐・あかのたちお両氏と断定していいだろうか。ナイスジョブである。ちなみにこの盤は分売は行われなかった模様。やはり厳しい括りがあったんだろうか…ジャケは国文社第2回の中ではソフトな方だが、これでいいのか…