黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は西田佐知子さんの誕生日なので

マイパック DR-0038

ゴールデン・ギター歌謡

発売: 1974年?

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ジャケット

 

A1 年上の女 (森進一) 🅶

A2 知りすぎたのね (ロス・インディオス) 🅴

A3 坊や大きくならないで (マイケルズ) 🅴

A4 ウナ・セラ・ディ東京 (ザ・ピーナッツ) 🅲

A5 禁じられた恋 (森山良子) 🅷

A6 涙のかわくまで (西田佐知子) 🅳

B1 唐獅子牡丹 (高倉健) 🅲

B2 国際線待合室 (青江三奈) 🅴

B3 恋のときめき (小川知子) 🅴

B4 大阪の夜 (美川憲一) 🅱

B5 恋のしずく (伊東ゆかり) 🅳

B6 おんな (森進一) 🅱

 

演奏: 木村好夫とザ・ビアーズ・ウィズ・ストリングス

編曲: 無記名

定価: 890円

 

手元にあるダイエー・マイパックのアルバムの中で、最も新しい番号の盤がこれ。恐らくこの次は発売されていないと思われます…そこまでディープに研究してる人はいないと思いますが、いずれにせよどの盤もジャンク箱に頻繁に出てくるし、勇気があれば完全ディスコグラフィー編纂も夢ではありません。当ブログの対象外ではありますが、英国アヴェニュー原盤を使った『THE WORLD HIT POPS』(DR-0023)に収録されている「朝日のあたる家」の狂気じみたヴァージョン(歌入り)など、興味深い音源はまだまだありますので。

最後のリリースではあれど、恐らく録音は69~70年あたりと思われる好夫ギターの真髄アルバムで、例によってテープ・レーベルに供給するため録音された音源を借りたものと推測されます。ステレオ・ミックスの定位からして、異なるソースを集め上げた感じはせず、元々一つのセッションで録られたものから厳選したのでしょうか。多分この手のテープ発売前提セッションでは、8トラックのそれぞれのチャンネルに分散しやすいように、16曲ないし20曲一気に録るのが普通だったはず。コスパを考えると、12曲というケースはあまりないと思われます(廉価LPレコードに比べると、テープの価格は当時の水準では結構高かったので)。

安定の好夫ギターが1曲目の「ダメよ、ダメダメ」から炸裂しまくり、脇を固めるのは左にリズムギター、フルートとパーカッション、右に別のリズムギター、オルガン、中央にベースといったシンプルな布陣。「坊や大きくならないで」は怒り炸裂の横内ヴァージョンに比べると優しい印象だし、「禁じられた恋」はキハーダが来るところで自ら、キューンとギターを走らせてみせる荒技も。「涙のかわくまで」はさりげない場末グルーヴ感があって、69年型のサウンド。やはり基本的にテクニシャンですな、このプレイは。

A面をポップな感じで突き進んだ後、B面ではいきなり「唐獅子牡丹」で任侠世界へ。ここでもチージーなオルガンや慎重なフルートのおかげで、まだポップな感触が保たれている。どんな曲調にもマイルドな味わいを加えるフルートの偉さったら。自分ももっと極めてみなきゃ、って思わされますね。そんなフルートが何故か「恋のときめき」には登場せず、レキントギターのむせび泣きにより他の曲と異なるカラーが醸し出される。ラストは好夫ギターといえばこの曲「おんな」。さりげないアレンジながら、いつも以上にフレージングを炸裂させまくる余裕ヴァージョンになっている。山倉テイストなストリングスも色を添え、ダイエー・マイパックの最期(?)に奇遇にも花を飾っている。

今日は荒木一郎さんの誕生日なので

キャニオン C18R-0013 

愛のエレクトーンII 江川マスミ

発売: 1979年6月

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ジャケット

 

A1 あの素晴しい愛をもう一度 (加藤和彦北山修)Ⓐ 🅴

A2 白いブランコ (ビリー・バンバン)Ⓑ 🅻

A3 この広い野原いっぱい (森山良子)Ⓒ 🅷

A4 空に星があるように (荒木一郎) 🅳

A5 想い出の渚 (ザ・ワイルド・ワンズ)Ⓐ 🅴

A6 遠い世界に (五つの赤い風船)Ⓑ 🅳

A7 小さな日記 (フォー・セインツ)Ⓒ 🅵

A8 翼をください (赤い鳥)Ⓐ

B1 あなたの心に (中山千夏)Ⓑ 🅴

B2 誰もいない海 (トワ・エ・モア)Ⓒ 🅵

B3 この手のひらに愛を (ザ・サベージ)Ⓐ

B4 あなたのすべてを (佐々木勉)Ⓒ 🅲

B5 サルビアの花 (もとまろ)Ⓐ 🅴

B6 秋でもないのに (本田路津子)Ⓑ 🅲

B7 涙をおふき (布施明)Ⓐ 🅱

B8 今日の日はさようなら (森山良子)Ⓒ 🅲

 

演奏: 江川マスミ

編曲: 高田弘Ⓐ、土持城夫Ⓑ、江川マスミⒸ

定価: 1,800円

 

昨年4月26日取り上げた第1弾に続く、「女性が選ぶ女性のためのエレクトーン」シリーズ第2弾。曲目を見れば一目瞭然、リアルタイムでJKやJDとしてこれらの曲に親しんだ方々が30代に達したかそろそろか、という層をターゲットにしており、良き家庭生活の潤いとしての楽器演奏を推進するような、そんなハイソなタッチの1枚。確かに、いいとこのお嬢さんが「バイバイバイ…」とか口ずさみながら、せわしなく手足を動かすシュールな光景を想像させる前作に比べると、遥かにヘルシーなアルバム。しかしまぁ、実際この辺の曲にノスタルジアを感じながら、家事育児をこなしていた奥様方の姿も想像できません。ハイソな少女たちは、ずっとハイソなまま大人になっていくのですから。そんで、いけない道に足を突っ込んだりしてね。

そんな生活観を忘れて素直に聴いていると、楽器屋さんの店頭で優しいお姉さんがこの辺りの曲を弾きながら、周りを行き交う一般人たちの熱い眼差しを浴びている様だけが想像できるのです。それでいいじゃないですか。誰でも知ってる曲に素直に頷きながら、時々一緒に歌ったりして。いつか、親友の結婚式であの曲を弾いてやる、みたいな野心を抱くのは、余計なお世話ですよね。

宗内(の母体)も、数年前に近所のショッピングセンターでのハロウィンイベントで、音楽教室のデモとしてフルートとエレクトーンの先生のミニコンサートが開かれるところに同席したことがあります。突然「また逢う日まで」が演奏され、その後のMCで「この曲知ってる人いますか」との声に、ひとり嬉々として答えました。ええ、言う訳ないじゃないですか、「ひとりの悲しみ」って(爆)。

ナツメロはそれでいいのです。ここでの江川さんの演奏も、ひたすら優しく、新しい時代の風を帯びたアレンジも決して曲の邪魔をしない。あの素晴らしい愛をもう一度のイントロも、原曲のニュアンスを生かしながらきらびやかに再構築しているし、「想い出の渚」も最後の方に行くともう、丘サーファーで溢れる70年代末の雰囲気に転じている。翼をくださいはアクシデントでもあったのか、「鳥のように」に当たる部分だけが飛ばされている要注意アレンジだ。ちなみにこの曲は元々B面のため、通常のリアルタイム歌無歌謡盤で取り上げられたことはほとんどない。サルビアの花」はやはりキャニオン発のせいか、もとまろ色が濃厚なアレンジで、このラインナップの中では異色。通常歌謡で活躍した二人よりも、本人によるアレンジが素直な分際立っている。

付属の譜面は、主旋律と基本的な左手パートのみ記載で、歌詞はなし。「弾いてみた」もいいけれど、他の楽器でも聴いてみたい、そんな乙女な名曲揃いですね。でもやっぱ、親友の結婚式に「サルビアの花」は御法度ですよ。

今日ははしだのりひこさんの誕生日なので

東芝 TP-7324 

さすらい人の子守唄/ミスター・ギター

発売: 1969年

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ジャケット

 

A1 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅴

A2 夜明けのスキャット (由紀さおり) 🅺

A3 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🅾

A4 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🅼

A5 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🅺

A6 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅴

A7 愛の奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅴

B1 大空の彼方 (加山雄三) 🅲

B2 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ) 🅵

B3 雲にのりたい (黛ジュン) 🅴

B4 くれないホテル (西田佐知子) 🅱

B5 坊や大きくならないで (マイケルズ) 🅳

B6 恋のなごり (小川知子) 🅳

B7 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅳

 

演奏: 横内章次 (ギター)/ブルー・ドリーマース

編曲: 横内章次

定価: 1,500円

 

好夫ギターの職人芸的タッチもいいけれど、まさにフロンティアというべき横内章次のサウンドはもっと語られていいと思う。特に60年代末期の東芝盤は、慌ただしい制作状況であったと思われるが、容赦しないサウンド構築を全面で展開。69年のこの盤、恐らく4チャンネル録音と読んでいるが、最大でも3回、自分のパートを重ねており、他の音数を絞りながら冒険に挑んでいるのがよく解る。サウンドのカラーはクイン・ノート盤に通じるところもあって、ミュージシャンの多くは共通していたと思われる。いずれも演奏者が率先的にサウンドを演出している分、ノリ重視的展開が希薄で、隅々まで計算して音構築がなされているのだ。エコーの効果的多用もその一例。インスタント歌無歌謡なんてイメージと程遠い、それが東芝盤の魅力の一つ。

これの「夜明けのスキャット一つとってみても、イントロはオリジナルを尊重した響きを保ちながら、小粋なムードを徐々に加え、最終的にはギターのメロに主導権を譲る。コード進行も簡素化せず、アレンジャーとしての意地を保持。最後の方にちょっと違ったカラーを加えているのがさすがだ。「時には母のない子のように」も、淡白そうに見せかけて、右側のリズムギターボサノヴァ風タッチを託し、かなりのお洒落感を演出。「ブルー・ライト・ヨコハマ」は対照的にど派手にかっ飛ばす。鍵ハモが和音を奏で、ブラスセクションに匹敵するはりきり度を見せる。間奏を律儀に、オリジナルの間奏通り奏でているのは珍しい。「愛の奇跡」はイントロをドラマティックに演出しつつ、こちらも快調にぶっ飛ばしまくり。こんな展開でも、緻密に計算されているのがよくわかる。

B面も安定した演奏が続くが、「くれないホテル」で一瞬クールダウン。曲の構造をぶち壊さず、安息の地的な存在にとどまっている。その静寂を打ち破るのが、本盤でも屈指の異色曲「坊や大きくならないで」だ。ベトナム発の切実な反戦歌で、マイケルズのヒット盤の他に、山倉たかしのアレンジによる愛まち子盤など、日本盤カヴァーも続出したが、ここではセンチメンタルなムードが怒りのエネルギーに変換されたようなアグレッシヴな演奏。緻密なサウンド構築もここでは一休み、ギタリストとして攻めに攻めまくった快演が聴かれる。これは正にブルースそのものだ。これが東芝音楽工業から出た、何ともピースフルな時代よ…

アルバムのライナーは、小川知子を育て翌年には岡崎友紀を市場に送り出す、長沢ロー氏が書いている。しっかり芸能界全般を見据えているのがさすがだけど、「知子ちゃん」はいくらなんでもねぇ。

今日は本田路津子さんの誕生日なので

テイチク SL-1392 

喝采 エレクトーン・ムード・ニュー・ヒット歌謡14

発売: 1972年12月

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ジャケット

A1 虹をわたって (天地真理) 🅷

A2 狂わせたいの (山本リンダ) 🅶

A3 喝采 (ちあきなおみ) 🅴

A4 バス・ストップ (平浩二)

A5 同級生 (森昌子) 🅴

A6 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅺

A7 漁火恋唄 (小柳ルミ子) 🅶

B1 哀愁のページ (南沙織) 🅸

B2 耳をすましてごらん (本田路津子) 🅱

B3 雨 (三善英史) 🅲

B4 女のみち (宮史郎とぴんからトリオ) 🅺

B5 折鶴 (千葉紘子) 🅱

B6 恋唄 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅵

B7 旅の宿 (吉田拓郎) 🅻

 

演奏: 小泉幸雄とクインテット

編曲: 小泉幸雄

定価: 1,500円

 

音楽を語る時についつい使ってしまう「チージー」という言葉、果たしてどこから発生したものなのだろうか…例えば、英語圏の人なら「恥ずかしすぎて、ついつい(周りにチーズがある時のように)顔を背けたくなってしまう文化」に対してその言葉を使う場合が多く、特に70年代や80年代に対して顕著だ。ただ、それゆえに愛しさを感じてしまうというニュアンスも多少は含まれていそう。くさやだろうが、超空腹時にそれだけ差し出されたら思わず食うでしょ。ただ単に肌に合わないのなら、「シ◯ト」の一言で片付けてしまうだろうし。自分も、いくらその頃に酷い仕打ちを受けた記憶があろうが、少年時代を育んでくれた文化をシッ◯扱いなんてしたくない。社会に出てからとなると意味合いが違ってくるけど。

そんな自分がついつい「チージー」と形容してしまう音は、ある種の電子キーボードの音に限られる。それぞれの時代の最新テクノロジーにしか醸し出しようがない音色故、そう簡単に再現できるものではないし、その時代の空気を濃厚に再現してくれるものなのである。そんな「チージー」なキーボードの音色を、他の誰の演奏よりも堪能させてくれるのが、テイチクに残された小泉幸雄さんの歌無歌謡レコードだ。琴やハワイアンの冴えたリリースが多い「ニューヒット歌謡14」シリーズに、何枚か残されたうちの一つで、72年後半のヒット曲がいっぱい。

まずは問題作『モーグサウンド・ナウ』のタイトル曲にもなっている「虹をわたって」。そのモーグの先鋭的なサウンドと比較すると、このエレクトーンの音はあまりにも牧歌的で、まさしく「チージー」としか言えない…同じ時代の音楽なのに、なんなのだこの温度差は。それ故、こちらをたまらなく愛でてしまう気持ちも高鳴る。ヴァイブ、ギターなど周りを固める音も、あまりにも長閑で、例えば山内さんの「太陽がくれた季節」なんかの実験的サウンドからは効果的に揺り返せる。かと思えば狂わせたいのではロック色を出そうとした挙句、地方のGSの自主制作盤に通じるカラーが現出している。ファズも過激というより、鄙びた印象だ。こんな軽量化した喝采も悪くないし、意外にもベースががんばっている。意外にも「バス・ストップ」は今回が初登場だ。名曲なのに、意外と他社に取り上げられてなかったのですね。「同級生」はイントロの「ピポピポー」に着目して聴いてしまうが、ここでは意外にもオルガンで完全に音をずらし、不思議な効果をあげている。「漁火恋唄」の「ハァー」パートはまさかの超軽量盆踊りモード。これも悪くはない。「哀愁のページ」は鄙びすぎて脱力してしまいそうだけど、演奏そのものはこけていない。「雨」はビクターの大正琴ヴァージョンの、「女のみち」はワーナーののこぎり京琴ヴァージョンの印象がそれぞれ強すぎて、負けるのもしょうがないけど、全体の流れにははまっているし、「折鶴」も多少間延びしたフレージングとは言え、原曲の魅力は損なっていない。「旅の宿」では鍵ハモがエレクトーンとバトるが、これも小泉氏の演奏なのかな。

最後に今日の主役・本田路津子さんの「耳をすましてごらん」の作曲者は、現代音楽の巨匠・湯浅譲二氏。怪作「ヴォイセズ・カミング」を小学生時代にラジオで聴いて、相当衝撃を受けたのを思い出しますが、宗内の母体の創作活動にもその曲は影を落としてますね。歌無歌謡盤で聴くとロマンティックな側面しか伝わってこない、こんな曲をもものにしたのもまた芸術家気質なんだなと、胸が熱くなります。ジャケットの椅子、欲しい…

今日は岩城茂美さん(クール・ファイブ)の誕生日なので

コロムビア ALS-4521 

愛は傷つきやすく/ふりむいてみても

発売: 1970年7月

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ジャケット

A1 愛は傷つきやすく (ヒデとロザンナ) 🅴

A2 四つのお願い (ちあきなおみ) 🅴

A3 愛するゆえに懺悔して (ピーター) 🅲

A4 誘惑のバイヨン (平野レミ)

A5 ネオン街ブルース (真木七奈) 🅱

A6 思いがけない別れ (小川知子) 🅳

A7 愛の旅路を (内山田洋とクール・ファイブ) 🅳

B1 経験 (辺見マリ) 🅴

B2 ふりむいてみても (森山加代子) 🅴

B3 別れの誓い (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅱

B4 今日でお別れ (菅原洋一) 🅵

B5 港のためいき (ハニー・ナイツ)

B6 ちっちゃな恋人 (ジミー・オズモンド) 🅳

B7 二人で来た道 (黒木憲)

 

演奏: 木村好夫とザ・ビイアーズ/コロムビア・オーケストラ

編曲: 甲斐靖文

定価: 1,500円

 

マイク・ネスミス死去ニュースの衝撃に隠れすぎて、いつしか我が守備範囲をすり抜けていた大作曲家・鈴木淳さんの訃報。歌無歌謡ブログとしては、迅速にお悔やみの意を表することができず、新年早々情けない思いが…クール・ファイブのサックス奏者の誕生日位しか主だったネタがないこの日にスケジューリングしていたこのアルバムには、「四つのお願い」「思いがけない別れ」「二人で来た道」と、3曲も彼の作品が含まれています。この場を借りて、その偉大なる功績を讃えつつ、哀悼の意を表させていただきます。

恒例の、サイド毎に一つの流れを形成するコロムビアの歌無歌謡シリーズ。安定の好夫ギターをフィーチャーして、耳に優しい仕上がり。自社曲を主軸に据えてはいるものの、そこまで慎重な扱いを見せず、普段通りの軽量化だ。「愛は傷つきやすく」なんかも、他社盤ではもっと大胆な解釈をしているものがあるので、そっちが恋しくなってしまうのだけど、メロディのこなし方はやはり安定感がある。「四つのお願い」は軽くなったのが功を奏し、ラブリーな面が強調されている。フルートが沢山出てくるとやっぱ、甘くなりますね。ピーターの曲をエレガントにこなした後は、レミさんの貴重な歌手デビュー曲「誘惑のバイヨン」。こんなのまで演ってたとは。ここでもフルートが大活躍してますが、ナイスなクッキングサウンドですな(笑)。「ネオン街ブルース」は柴田晴代盤に続く2回目の登場ですが、これが最後ではありません。「思いがけない別れ」はやはり大当たりの出来。かなり軽くなってはいるけれど、ここでもまたフルートが蝶のように舞いまくる。繰り返しのAメロの後半は、他のヴァージョンと一味違うコード付けを行っており新鮮だ(宗内の母体的にはドニー・アイリスの”Love Is Like A Rock”を歌いたくなってしまう)。3コーラス目で突如転調するのもいいし。この曲の歌無歌謡盤にほんと、外れはありません。今日の主役であるはずのクール・ファイブの藤本メロディーは、軽くなった分ちょっと残念だが、好夫ギターの真髄的フレージングはむしろ冴えまくっている。

B面もこの調子で淡々と進んでいく。「今日でお別れ」は速く演りすぎて寧ろ古風なイメージが助長されているし、最後から2曲目に「ちっちゃな恋人」を持ってきたのは効果的演出だ。最後は地味ではあるけれど「二人で来た道」でセンチに盛り上げる。好夫ギターを取り囲むフルートの妖精たち、というイメージが全体を貫くラブリーなアルバム。珍しく御大の写真もさりげなく載せられています(彼自身の姿がジャケットに出てくるのは、むしろ後年になってから)。

今日は子門真人さんの誕生日なので

キング SKM-1385~6 

総集!! ヒット歌謡ベスト24

発売: 1976年

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ジャケット

A1 およげ! たいやきくん (子門真人) 🅱

A2 ビューティフル・サンデー (ダニエル・ブーン)Ⓑ 🅲

A3 木綿のハンカチーフ (太田裕美)Ⓐ 🅴

A4 未来 (岩崎宏美)Ⓐ 🅲

A5 オー・マリヤーナ (田中星児)Ⓑ 🅲

A6 ウインクでさよなら (沢田研二)Ⓑ 🅲

B1 なごり雪 (イルカ)Ⓐ 🅳

B2 翳りゆく部屋 (荒井由実)Ⓑ 🅳

B3 陽ざしの中で (布施明)Ⓑ 🅲

B4 わかって下さい (因幡晃)Ⓑ 🅴

B5 水中花 (井上忠夫)Ⓒ

B6 山口さんちのツトム君 (斎藤こず恵、他)Ⓐ 

C1 横須賀ストーリー (山口百恵)Ⓐ 🅳→8/9

C2 きらめき (野口五郎)Ⓑ 🅳

C3 夏にご用心 (桜田淳子)Ⓑ 🅴

C4 赤いハイヒール (太田裕美)Ⓑ 🅴

C5 あなたがいたから僕がいた (郷ひろみ)Ⓐ 🅰→8/9

C6 私のベイビー・ボーイ (クリケッツ)Ⓐ

D1 弟よ (内藤やす子)Ⓒ 🅵

D2 水仙 (八代亜紀)Ⓒ 🅳

D3 北の宿から (都はるみ)Ⓐ 🅴→8/9

D4 大阪ラプソディー (海原千里・万里)Ⓐ

D5 涙ぐらし (角川博)Ⓐ 🅱

D6 北酒場 (五木ひろし)Ⓐ 🅳

演奏: キングオーケストラ

編曲: 坂下晃司Ⓐ、栗田俊夫Ⓑ、竹村次郎Ⓒ

定価: 2,000円

 

今週からは火曜日もひたすら歌無歌謡で突き進みます、ということで、76年のヒット歌謡を集大成したキングの2枚組。まずジャケットがいいね…どこなのかなと「BLUFF GARDEN」で検索してみるも、76年の面影が拾えるわけでなく、恐らく横浜のあたりなのは確実と思われるけれど(内ジャケには「レストラン・◯リータ」という表示が確認できる。恐らく◯の中は「ロ」と思われるけど、70年代にはそこまで眉を潜めさせる語ではなかったんだろうな…)、こういうジャケはもっとあってよかったと思います。自前写真なら、写真家の名前くらいクレジットできたのでは?

当時のキングでは寺さんの「歌のないエレキ歌謡曲」シリーズが主軸になっていたけれど、それより若干ライトな立ち位置の盤も相変わらず作られていたようで、その出来具合に興味津々である。でもまぁ、平均以上でも以下でもないという印象で、無味乾燥なものが好きな人には気軽に付き合えるかなという感じ。ただ、曲を厳選している分、フルコーラス演奏なのは買い。どの曲も、サックスかギターがリードをとるという黄金律アレンジだ。トップのおよげ!たいやきくんも、あまりの肩の力の抜け具合についつい「サニー・アフタヌーン」色が現出。イントロで一瞬聴こえる謎のノイズは一体なんなのだろう…左側のチャンネル特有の音はオルガンとタンバリン、コンガだけだが、それらと関係あるのかないのか。「ビューティフル・サンデー」は一味違うイントロを加えて、幾分カラーを変えている。Bメロでズシンとくるタムの音が気持良い。木綿のハンカチーフもかなりの軽量化だが、左側でさえずるフルート3本が素敵すぎ、バファ◯ンのように聴覚に効いてくる。最初の方の「帰って」~「下さい」の音がずれてるのはかなり気になるけど…時に残念賞ものを生み出す「未来」はノリ的には盛り上がりに欠けるが、そこまでこけていない。B面のニューミュージック系の曲は、守りに入りすぎていて面白くないが、まさかの「水中花」はスチール・ギターをフィーチャーして、70年代前半の山下洋治のレコードっぽい印象。「山口さんちのツトム君」の面白サウンドで1枚目は効果的に締められる。

C面のアイドル展開も可もなし不可もなしかな…「夏にご用心」はテンポが落ちすぎて切なくなるアレンジだけど、2コーラス目のフルートはかなり恥じらいの色が見える音色だ。「赤いハイヒール」も律儀にフルコーラス演奏で、こちらもAメロのフルートの音が相当な恥じらい気味。他社のレコードでは聴けない音色で、誰の演奏なのだろうか…「私のベイビー・ボーイ」はめちゃレアな自社推し選曲。フィンガー5をブレイク前に逃したキングの意地が炸裂したキッズグループ、クリケッツのデビュー曲だ。当時は「名称問題」なんて無縁なピースフル時代でしたね(笑)。ちなみに、この時期にキングからデビューしていた別のキッズグループに、宗内(の母体)の親戚がいました。各自お探り下さい(汗)。D面は演歌中心で、やはり「弟よ」のイントロに期待してしまうが、フルートでした(汗)。これもスチールをフィーチャーして、ソリーナまで入る演奏だが、一体誰なのだろう、この顔のない奏者は。意外と柴田晴代さんだったりして。「花水仙も同様のサウンド「大阪ラプソディー」の歌無盤は意外に貴重である。地味な印象ながら意外とカラフルで、こういう盤が一番安心して聴けるのかも。

今日は中村晃子さんの誕生日なので

CBSソニー 20AH-1038

最新ヒット歌謡ベスト18

発売: 1980年

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ジャケット

A1 さよならの向う側 (山口百恵)

A2 狂った果実 (アリス)

A3 トゥナイト (シャネルズ)

A4 哀愁でいと (田原俊彦)

A5 心のかたち (海援隊)

A6 Yes・No (オフコース) 🅱

A7 ダンシング・オールナイト (もんた&ブラザーズ) 🅱

A8 青い珊瑚礁 (松田聖子)

A9 RIDE ON TIME (山下達郎) 🅱

B1 ロックンロール・ウィドウ (山口百恵)

B2 恋の綱わたり (中村晃子)

B3 夜明けのタンゴ (松坂慶子)

B4 別れても好きな人 (ロス・インディオス&シルヴィア) 🅱

B5 昴 (谷村新司)

B6 雨の慕情 (八代亜紀)

B7 酒は男の子守唄 (渡哲也)

B8 俺たちの時代 (西城秀樹)

B9 ふたりはひとり (小林幸子)

演奏: クリスタル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 2,000円

 

本当は「虹色の湖」とか、60年代の曲が入った盤を持ってきたかったんですけど…生憎手許になかったんですよね。時期的にも入手し辛いものが多いし。吉岡ファミリーが演奏する「涙の森の物語」が入った4曲入りの盤は持ってるのに。というわけで、復活ヒット「恋の綱わたり」をフィーチャーした80年の盤を。

80年代に入ると、クリスタル・サウンズの活動はカラオケの方に完全シフトしていた影響か、名義に「オーケストラ」を追加。70年代の軽量な音が嘘のような、サウンド全体を時流に近づける方向に転換しているが、時折発表される「純演奏盤」を聴くとやはり、この団体の演奏にはカラーがあるのだなと思わされる。80年後半のヒット曲を集めたこの盤もしかり。

1曲目から百恵さんの花道といえるラスト・シングル(その後の「一恵」は、あくまでもパーソナルなものとして捉えるべきかも)「さよならの向う側」。ポジショニング的には相応しくなさそうな曲調だが、ドラマティック演出としてはむしろトップの方が効果的かも。6分近いフルコーラス演奏を一人で先導するフルートの演奏が素晴らしすぎる。まるで音大を卒業する乙女の花道のような、初々しさと潔い決意が同居したような音色が、曲の主題を感動的に、言葉も無しに描き切る。最後の方で低い音混じりになるところなんて、感涙に咽びながら吹いているのが伝わってくるような…我が歌無歌謡レコード大賞、フルート部門金賞を与えたくなる名演。ただ、片面に37分近く入れる無茶振りがたたったのか、本来の音質で鳴っているとはとても思えない。

他の曲も、カラオケ対応のガチなバッキングに支えられ、フレッシュな演奏を主旋律にフィーチャーした曲が多く、小林幸子さんが「おもいで酒のイントロのギターは、大学生のバイト」と語っていたのに近いケースなのかもと妄想したり。狂った果実もトランペット2台のデュオでさりげなく聴かせるし、多くの曲で暗躍するコーラスも、職人芸的響きは希薄。色々と期待を抱かせるRIDE ON TIMEは完全にこけているが…しょうがないですよ。「恋の綱わたり」は一聴してリコーダーかと思わせる高音のフルートが艶かしく誘惑するが、「さよならの向う側」の演奏とカラーが違うので、別の人でしょう。「別れても好きな人」は、なんとパープル・シャドウズ盤を基調にしたシャッフル気味の演奏で、この盤では意表を突いてきた1曲。

問題作という点では「昴」にとどめを刺す。重厚なイントロと裏腹に、軽めの音のシンセがメロディーを奏で始め、重量感はどこへやら。2コーラス目の後半から、勇敢なコーラスが入ってきて曲に威厳を与えようとするが、それさえも滑稽に聴こえる。これが74年であれば、このコーラスを確実にメロトロンで再現したはずだ…そして、最強のヴァージョンに仕立て上げたはずなのに…

フリッパーズ・ギターを始め、音楽界に数々のランドマークを打ち立てたポリスターの第一回発売新譜として、記念碑的なこの曲でラストを飾って欲しかったという気もする。その後演歌3曲と、その間に挟み込まれた秀樹の曲があくまでもサービスとしか思えない。「俺たちの時代」のフルートは確実に「さよならの向う側」と同じ人の演奏で、秀樹が好きすぎて萎縮してるような音色に萌えるのだが…特にタイトルフレーズの超高音とか。なお、カセットは4曲多く、22曲収録で発売されている(やはり、CD1枚には入りきらない)。*2月3日修正追記