黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

町田義人さんの誕生日は9月21日

コロムビア HS-10010-J

ニュー・ヒット14/人形の家 

発売: 1969年11月

ジャケット

A1 人形の家 (弘田三枝子) 🅸

A2 花と涙 (森進一) 🅵

A3 涙でいいの (黛ジュン) 🅴

A4 まごころ (森山良子) 🅷

A5 海辺の石段 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)

A6 いいじゃないの幸せならば (佐良直美) 🅷

A7 夜と朝のあいだに (ピーター) 🅴

B1 喧嘩のあとでくちづけを (いしだあゆみ) 🅷

B2 可愛いあなただから (ズー・ニー・ヴー) 🅱

B3 朝を返して (伊東ゆかり)

B4 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子) 🅺

B5 あなたの心に (中山千夏) 🅵

B6 愛の化石 (浅丘ルリ子) 🅲

B7 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅶

 

演奏: ゴールデン・ポップス・オーケストラ

編曲: 森岡賢一郎

定価: 1,500円

 

月並みな同一写真反転技を避けたジャケットが印象的。表は落ち着いた青い瞳美女のポートレイト、裏はどサイケなボディスーツの野生派美女…なのに顔が帯で隠れている。見開きジャケに帯2枚というのはコロムビアのよくやる手 (裏側の帯の推し曲は「愛の化石」)。で、開いて帯裏をみたら、告知されている内容が一緒で興醒めする。これまでリリースされたHS品番のレコードが、収録曲全曲まで含めて全て紹介されてるのは有意義なんですけどね。このシリーズ、内容がいい故にジャンク市場にほとんど出てこないし。似たり寄ったりの選曲でも、ヴァージョンによって違う光景を見せてくれそうで、ユーザーに選択の余地を与えるという点では、なかなか効果的な売り方と言える。『ラテン・フルート』(HS-10009)なんて、切り口的にも他にないし、聴いてみたいものです。ホセ・ルイスって誰やねん、ですが。『レキント・サウンド』(HS-10001)のエディ・ハートは、恐らくエディ・プロコフスキーと同じ人(つまりあの人)と思われますが。聴きゃ解るか。

このシリーズでは2枚目となるサウンドマスター、森岡賢一郎が送る69年ヒット集。遂に初登場となる「海辺の石段」以下、オリジナルも自身が手掛けた曲が「花と涙」「喧嘩のあとでくちづけを」と、計3曲入っている。ポリドール盤を手に入れたのに使用不可で歯軋りした「海辺の石段」は、さすがにオリジナルと違う味付けで、ブルコメはオーケストラ楽器を除く全ての演奏を本人で賄っているはずだから、そうなるのもしょうがないか。この琴は山内さんだろうか。「小田君、甘いわね~」なんて言いながら余裕綽綽で弾いたのかも。カナリー(国産クラビオリンみたいな単音キーボード)は使われていず、普通のオルガンで代用して余計場末的な響きだ。これが聴けるだけでも収穫。他の2曲もオリジナルを基調にしつつ、エレガンスを強調して新しい味付けだ。あとは、競合ヴァージョンが多い手堅い選曲を手堅いアレンジで聴かせるが、やはり職人仕事だけあり決してぬるいサウンドではなく、「夜と朝のあいだに」なんて原曲を凌ぐリラックスムードながら、聴きごたえ充分。2回目の「お前も静かに眠れ」で減速していないのが惜しいが。ズー・ニー・ヴーといえば、このシリーズで出た筒美京平自演の歌無アルバムに「ひとりの悲しみ」が入っていたな…その後、何度も歌無歌謡化された曲(メロは)だけど、そのタイトルが冠されているだけで、ものすごく希少度が高まるから困ったものだ(汗)。

日高富明さんの誕生日は2月22日

マキシム MM-1513 

最新ヒット歌謡20

発売: 1973年

ジャケット

A1 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅻

A2 君が美しすぎて (野口五郎) 🅶

A3 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ) 🅶

A4 絹の靴下 (夏木マリ) 🅳

A5 恋する夏の日 (天地真理) 🅹

A6 おんなの涙 (八代亜紀) 🅴

A7 他人の関係 (金井克子) 🅳

A8 裸のビーナス (郷ひろみ) 🅶→9/3

A9 夜間飛行 (ちあきなおみ) 🅴

A10 ふるさと (五木ひろし) 🅹

B1 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二) 🅽

B2 燃えつきそう (山本リンダ) 🅷

B3 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ) 🅷

B4 君の誕生日 (ガロ) 🅹

B5 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子) 🅺

B6 情熱の嵐 (西城秀樹) 🅳

B7 女のゆめ (宮史郎とぴんからトリオ) 🅶 

B8 遠い灯り (三善英史) 🅴

B9 草原の輝き (アグネス・チャン) 🅷→9/3

B10 くちべに怨歌 (森進一) 🅸

 

演奏: ジョージ高野 (テナー・サックス)、野口武義・村上三雄 (ギター)/ブルーシャドウズ

編曲: 山口順一郎

定価: 1,500円

 

昨年最後に入手した歌無歌謡アルバムがこちら…なのだが、ブツが届いた時でさえその手の気配に全く気付かなかった。しかし、いざデータ化を始めてみたら…ほんの3ヶ月前に同じアルバムを買っていたことを忘れていたではないか!そそくさと棚をチェックしたら、確かにある。しかも同じように帯付き。過去、ジャケは違うが同内容の盤(ユピテル)、同じ盤で帯無しを買った後帯付き入手(クリスタル)というケースはあったが、完全に顔も一緒だし…確かに、昨年末は個人的に心身共に相当逝っちゃってはいたけれど(年内更新分の黄昏は、実のところ月の前半の段階でほぼ書きためていた位である)、そこまで擬似アルツ状態加速してたとは。『マキシム版「ひとりっ子甘えっ子」だって、聴かなきゃ!』という感情が瞬間的に、無意識に高まったのかもな。既に聴いていたのに。9月の段階でリップすることさえしていたのに!こうして、少しずつ人生の末路が見えてくるのである。ブレーキだと信じてアクセルを踏むような段階がな…(瀧汗)。

そんなわけで、そこまで印象が薄い盤だったのかと再度ひっぱり出してみたら、案外そうでもない。ジャケットも明朗だし、かなり強力なサウンドの1枚である。印象が薄れた原因は、特にその前の年の『幸福泥棒』が良すぎて、マキシムに期待したレベルにそこまで達してないと感じたせいか、もしくは収録曲の多くに関してトリオの『魅力のマーチ・小さな恋の物語』ヴァージョンを決定盤として捉えていたため、それらに比べると弱いと感じたせいだろう。まぁ、そのアルバムに関する総論は、最終回でじっくりと語り尽くそうと考えておりますので、あと12日後をお楽しみに…

『幸福泥棒』のピーター・ギブス(?)仕事ほどエッジは立っていないものの、オープニングから快調で、十五夜の君」もトリオのモーグ・ヴァージョンの妙さはないながら、曲の良さを引き立たせるアレンジ。だが、耳が止まるのは「君が美しすぎて」だ。オリジナルや他の歌無ヴァージョンを聴いても気付かなかったけれど、この曲ってあのAllanの迷曲、「I Need You So Bad」の影響を受けているのでは?馬飼野兄はこの曲の存在を知っていたのだろうか。このヴァージョンの、特に左のチャンネルに入っているストリングスのピチカートに、その曲の色が濃厚に出ている。日本盤が出たという話は聞かないので、オリジナルのフランス盤ないしドイツ盤か米国盤が、ひっそり入ってきたのでは。以上、存在を知ってから13年間悶々とした末、昨年遂に坂戸・芽瑠璃堂にてこの曲の米国盤シングルを発見し飛び上がった者の報告でした。この発見(100円でした)に比べたら、同じ盤を2度買いするなんてかすり傷程度でしかありません。

まぁ、快調なサウンドではあるけれど、妙な楽器を使っているとか、アレンジの調合が面白いとか、そういう面で語りにくく、楽しくノスタルジアに浸れるのみ。全体的に女性コーラスを押し出したアレンジになっていて、「情熱の嵐」みたいに余計な印象を与える曲もあるけど、なかなかいい効果だ。「他人の関係」の最後ぎりぎりのところで、ちょっと乱れ気味なのが気になるな。「ふるさと」も、楽器の選択という面では物足りないが、ブルーナイト版に匹敵するいいアレンジで、コーラスなんかそれを凌ぐ出来かも。「ひとりっ子甘えっ子」は、トリオ盤と比較すると相当オリジナルに近づけているが、やはり保守的な出来かな。ラストの「くちべに怨歌」は、一転して男性コーラスと口笛をフィーチャー、終末感を演出しているが、これをメロトロンでやったら…と妄想してしまう(爆)。

ただ、ヤバい部分に気付きもするもので、「裸のビーナス」「草原の輝き」がマイパックの「歌謡ヒット・パレード」(DR-0016)に流用されていたのだ。不思議なことに、そっちのテイクの方が音のキレがいい。やはり、このマキシム盤は片面10曲と詰め込みすぎで、ダイナミックレンジが若干薄れているし。マイパックは盤質は落ちるとはいえ、片面6曲だし、案外悪くないマスタリング。ただ、この2曲が入っているA面に比べて相当酷使されたと思しきB面に入っている「わたしの彼は左ききは、この盤と違うぬるぬるな演奏を採用しており(質感的にマーキュリーっぽい演奏)、これもミステリーである。AB面でディレクターが違うとか?この盤の「左きき」は、好調に飛ばしてはいるけれど、イントロ後半のストリングスのメロディーが抜けてたりして、コーラスを聴かせるには効果的かもしれないけれど、ちょっと惜しい。このミステリーにもっと早く気づいていれば、ダブり買いは避けられたかもしれないな。その盤について書いたの9月3日だったのに…別のマキシム盤とのダブりについて書きまでしてたのに…

 

今日はアグネス・ラムの誕生日なので

クラウン GW-3153~4

ビッグ・ヒット歌謡ベスト36 憎みきれないろくでなし/遠慮するなよ

発売: 1977年

ジャケット

A1 はーばーらいと (水谷豊)Ⓐ 🅱

A2 渚のシンドバッド (ピンク・レディー)Ⓑ 🅴→2/25

A3 帰らない (清水健太郎)Ⓒ 🅴→2/25

A4 昔の名前で出ています (小林旭)Ⓓ 🅰→21/4/3

A5 河のほとりに (谷山浩子)Ⓐ 🅰→2/25

A6 雨あがりのダウンタウン (アグネス・ラム)

A7 さすらいの道 (小林旭)Ⓑ 🅲→2/25

A8 コスモス街道 (狩人)Ⓐ 🅵

A9 おまえに (フランク永井)Ⓒ 🅰→9/18

B1 憎みきれないろくでなし (沢田研二)Ⓐ 🅳

B2 ターゲット (内藤やす子)Ⓒ

B3 気まぐれヴィーナス (桜田淳子)Ⓑ 🅰→2/25

B4 マイ・ピュア・レディ (尾崎亜美)Ⓒ 🅲→2/25

B5 カルメン'77 (ピンク・レディー)Ⓔ 🅳→10/4

B6 熱帯魚 (岩崎宏美)Ⓒ 🅱

B7 もう戻れない (桜田淳子)Ⓐ

B8 ひとり芝居 (布施明)Ⓒ 🅰→2/25

B9 北へ (小林旭)Ⓑ 🅰→10/4

C1 遠慮するなよ (清水健太郎)Ⓐ 🅲

C2 暑中お見舞い申し上げます (キャンディーズ)Ⓑ 🅱→2/25

C3 街角のラブソング (南沙織)Ⓒ

C4 フィーリング (ハイ・ファイ・セット)Ⓔ 🅳→10/4

C5 風来坊 (ふきのとう)Ⓐ

C6 恋まくら (殿さまキングス)Ⓒ

C7 風の子守唄 (五木ひろし)Ⓐ 🅱→2/25

C8 夜行列車 (森進一)Ⓑ 🅱→2/25

C9 季節風 (野口五郎)Ⓒ 🅲

D1 初恋の通り雨 (尾崎亜美)Ⓐ

D2 イミテイション・ゴールド (山口百恵)Ⓑ 🅴→2/25

D3 夢先案内人 (山口百恵)Ⓒ 🅳→2/25

D4 おんな港町 (八代亜紀)Ⓕ 🅱→10/4

D5 ひとあしお先に (豊島たづみ)Ⓒ

D6 S.O.S. (ピンク・レディー)Ⓑ 🅱→10/4

D7 恋愛遊戯 (太田裕美)Ⓐ 🅰→2/25

D8 恋歌 (八代亜紀)Ⓑ 🅱→2/25

D9 悲恋白書 (岩崎宏美)Ⓒ 🅱→2/25

 

演奏: クラウン・オーケストラ

編曲: 神山純Ⓐ、井上忠也Ⓑ、久富ひろむⒸ、小杉仁三Ⓓ、栗田俊夫Ⓔ、井上かつお

定価: 3,000円

 

実を言うと、数度の箱買いでクラウン・オーケストラ名義のアルバムがかなりの枚数増えたのだけど、案の定曲の被りが多くていちいちチェックするのも面倒だし、目標枚数を越えたのを確認した段階でそれらを全て予備盤に回すことにした(実はブルーナイト・オールスターズの1枚ものも幾つか、同様の理由で端折っている。その全てが小梅ちゃんジャケット故、見せたい気持ちはあるのだけど…)。辛うじて救われたのがこの盤だ。やはり、前後のアルバムと相当の曲が被っているのだけど、そうじゃない曲に特異なものがあるし、ジャケットもいい感じでさわやか。ただ、やはり箱買い盤の宿命か、状態がだめだめだし、かけっ放しで使う気にならない。ダブってる曲をDJで使いたい時なんて、他の盤を優先するのを余儀なくされる。ちなみに昔の名前で出ていますが出てくるのはこれで8枚目である(!)。少なくともあと12枚、この小杉仁三アレンジ版が入ってるアルバムがあるはずだ(汗)。

さて、1曲目から「はーばーらいと」。いくら勢いのあった水谷豊の初ヒットシングルとはいえ、これをトップに持ってくるのは相当冒険じゃ…盤の状態でダイナミックレンジがめちゃ狭まって聴こえるせいもあるけれど(元から曲を詰め込みすぎているから余計)、あまりにもレイジーな解釈で勢いつけのカラーがない(「愛の狩人」でスタートするよりはまだいい、か)。ただ、このサウンドがくせになりそうなのだ。井上陽水作曲というのが納得できる、のちの「リバーサイドホテル」の予感さえ感じさせる、クラウンの雰囲気作りのうまさが凝縮されたサウンド作り。気怠いギターとムーディなサックスに合わせて、ちょっぴりほろ酔い加減のむすめの声が、左のチャンネルで誘惑する。一部無茶して出してそうな箇所が、意図的なのかなんなのか、めちゃ耳元をくすぐる。これってリコーダーの高い音のかすれにも通じるんだよね…そんなこんなの間に、いとう敏郎的ギターが絡み始め、気怠くリズムを刻んでいたギターが間奏でここぞとばかりがんばり始める。その後のギターのメロも、オクターブ奏法を決めようとして時折危うくなったり、そんな演奏がめちゃ愛しい。名曲名演だなぁ。ちゃんとした音質で聴きたい。

その後、「例の曲」とまたも名曲名演の「河のほとりに」に続いて出てくるのは、当時社会現象化していたアグネス・ラムの歌手デビュー曲。弾厚作(加山雄三)が気合を入れて提供した曲で、これは演奏がどうのこうのよりも、取り上げたことに意義があると言いたい。別に妙なアレンジをしてるわけでもなく、ただオリジナルのイントロを奏でていたサックスの音色を、メインメロ本体に持ってきたのが効果的だ。そしてやっぱり、7年後に発売されたヴァン・ダイク・パークスの「Opportunity For Two」に、強烈に繋げたくなる(爆)。前作(いや前々作?)『暑中お見舞い申し上げます』のジャケットは、きっとアグネス・ブームに色気を見せた結果に違いない。

あとの非ダブり曲は、盤が弱っているせいもあってまともに語る気が失せる。「憎みきれないろくでなし」も、実際はもっとタフなサウンドで録られているかもしれないけれど、こんな状態のせいで飛びまくるし、いまいちパワー不足のギターの演奏しか伝わってこない。でも、タイトルフレーズのバックのコード付けが残念なのは元からしょうがない。他の盤にもどうせ入ってるだろうし、それにめぐり逢うのを期待するしかないか。ただ、どの曲にもクラウンらしい、積極的な軽さがあっていいとは思う。「街角のラブソング」は選曲・アレンジ共に鋭いし、「ひとあしお先に」なんて、口琴から始まりかなり妙なサウンド配合ぶりだし。それにしても、名曲「とまどいトワイライト」より前の、チャートインさえしてないこの曲、よく取り上げたなぁ。そこまで視野を広く持っていたのに、「銃爪」のクラウン盤がないなんて。あるとは思うけれど、「さよならを言う気もない」や「哀愁のシンフォニー」も見つからない。この2曲に関しては、他社盤も巡ってこない‥77年春に限って、歌無界に何かあったのだろうか。ヘンプ騒ぎとは関係ないと思うけど(そういえば、「気絶するほど悩ましい」もないな)。引き続き求め続けます…前者は確実にいいヴァージョンを一つ知ってはいるのだけど…

野路由紀子さんの誕生日は10月20日

キャニオン  C-1087

大正琴 叙情演歌

発売: 1974年1月

ジャケット

A1 恋やつれ (藤正樹) 🅱

A2 夜空 (五木ひろし)☆ 🅸

A3 木曽の女 (北島三郎)

A4 ふるさと (五木ひろし) 🅸

A5 北の恋唄 (殿さまキングス)

A6 嫁入り舟 (野路由紀子)

A7 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅺

B1 京都から博多まで (藤圭子) 🅶

B2 放浪船 (森進一) 🅷

B3 雨 (三善英史) 🅵

B4 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🆃

B5 よこはま・たそがれ (五木ひろし) 🅽

B6 望郷 (森進一) 🅸

B7 知床旅情 (加藤登紀子) 🅻

 

演奏: 吉岡錦正、錦英(☆) (大正琴)

編曲: 竹村次郎

定価: 1,500円

 

73年にNAVレーベルを立ち上げ、一気にフレッシュ路線を加速するキャニオンだが、歌無歌謡界ではそのあたりを境に、むしろ保守路線に寝返ってしまった印象。石油ショックの打撃を受け、若い世代こそが頼れる相手と開き直った結果かもしれないけれど、今じゃ考えられない。それだけ、「団塊の世代」の消費パワーが魅力的だったんでしょうかね。

昨日紹介した盤と打って変わって、こちらは「地方の名産品ショップ」のBGMに相応しいまったりとしたサウンドで聴かせる大正琴演歌集。と言えども、今のイメージでさえ「ど演歌」に属するとは思えない曲まで入っていて、当時の認識的には「非ポップス」という意味あいだったのでしょうか。歌もの界では結構鋭いアレンジを聴かせることもある竹村次郎氏(何せ、北沢まり「DuBiDuBi東京」のアレンジを手掛けていたこともあり、レコード選びでこの人の名を見つける度、飛び上がってた時期もありました)は、ここでは手堅い仕事ぶりで、曲によっては薄味すぎるという調理だ。「夜空」みたいに、オリジナルそのものが洗練されすぎている曲もあるから、そう感じるのもしょうがないけど、歌無界に強力ヴァージョンが多すぎる「ふるさと」なんかは特にがっかりぶりが目立つ。イントロのコードは変えないで欲しかったな…。そして、やはり大正琴と言えば、ビクターの超強力ヴァージョンと比較せずにいられなくなる「雨」だが、案の定まったりしすぎ…ただ、サイドにフルートを入れたアレンジが、この曲ってこんなにラブリーだったっけ、みたいなイメージを逆説的に抱かせて、竹村次郎でよかったんだとここで思うのだ。「DuBiDuBi東京」も、強烈すぎる歌に隠れて目立たないが、よく聴くとフルートがナイスな味付けをしていたのを思い出してニヤリとする。瀬戸の花嫁は、コード的に簡素化しているのが残念だが、一部メロディをハモっている箇所があり新鮮だ。楽曲的には、「木曽節」を大胆にサンプリングした「木曽の女」のユニークさに再開眼。最後が知床旅情というのも思わせぶりだが、もし3ヶ月ほど発売が遅ければ、そこには「襟裳岬」がそびえていたことだろう…そしてメロトロンを幻聴するのだ…(汗

錦野旦さんの誕生日は12月14日

キャニオン  C-3015

オール・ビッグ・ヒット・ベスト20

発売: 1972年11月

ジャケット

A1 あなたに賭ける (尾崎紀世彦) 🅷

A2 花は流れて (藤圭子) 🅲

A3 哀愁のページ (南沙織) 🅽

A4 死んでもいい (沢田研二) 🅴

A5 夜汽車の女 (五木ひろし) 🅸

A6 雨 (三善英史) 🅴

A7 めぐり逢う青春 (野口五郎)☆ 🅴

A8 白いラブレター (布施明)

A9 折鶴 (千葉紘子) 🅳

A10 春・夏・秋・冬 (後藤明) 🅱

B1 喝采 (ちあきなおみ) 🅸

B2 狂わせたいの (山本リンダ)☆ 🅸

B3 友よ (大和田伸也)

B4 陽のあたる場所 (奥村チヨ) 🅳

B5 虹をわたって (天地真理) 🅼

B6 孤独 (和田アキ子) 🅲

B7 耳をすましてごらん (本田路津子) 🅳

B8 京のにわか雨 (小柳ルミ子)☆ 🆀

B9 夢ならさめて (にしきのあきら) 🅲

B10 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅾

 

演奏: キャニオン・ポップ・サウンズ

編曲: 小杉仁三、馬飼野康二(☆)

定価: 1,800円

 

先週水曜が泉谷しげる氏の誕生日だったので、その日にこのLPを持ってくればよかったじゃんと一瞬悔やみそうですが、この「春・夏・秋・冬」は泉谷の曲ではありません。72年9月25日に出た「春夏秋冬」はオリコン最高46位を記録していますが、その20日前にビクターから出た後藤明の「春・夏・秋・冬」は31位まで行っており、発売したキャニオンにとっては間が悪かった。まぁ、タイトルの読み方は違うし、音楽的に全くタイプが違うから、干渉し合うことはなかったけれど、「春・夏・秋・冬」の方を歌無盤に入れる決断をしたキャニオンの胸中は複雑だったでしょうな。今ではこっちの曲の方が、手軽に聴ける曲ではなくなってしまったけれど。オリジナルは深町純アレンジでなかなかピースフルな曲です。ここでもいい感じで再現していて、ミノルフォンのリンダリベンジのような悪意は感じられない(汗)。

強烈なレーベルカラーを打ち出すことはしていないけど、若い会社だけあって若さと勢いで20曲押し通すキャニオンらしい1枚。ジャケットのポップさもいいし、なんか80年代中期以降のポ二キャンが醸し出していた、エセ文化系でいきましょうみたいなところがないのがいいですね。大和田伸也のレアな歌手デビュー曲(奇遇にもこちらも有名フォーク曲と同名異曲だが、チャートインしていない)「友よ」を除くと、競合ヴァージョンの多い曲ばかりで特色を探すのに一苦労だが、フレッシュという要素はメリットと呼びたいところ。「夜汽車の女」は毒々しさが抜けてはいるものの、かなりロック度が高い演奏だし(ただエンディングはめちゃ目先を失っている感じに聴こえる)、「哀愁のページ」は落ち着いていて美しい演奏。こちらは逆にイントロ前半が残念。ただ、「雨」はビクターの大正琴ヴァージョン、「孤独」はワーナーのSOTWヴァージョンと、決定版に慣れすぎた耳には普通に聴こえすぎて物足りない。いずれも月並みな解釈ではないけれど。「白いラブレター」もあまり取り上げられてない曲だけど、布施明の曲の中ではソフトロック度が高い方で、ここでも好解釈。

馬飼野康二編曲の3曲だけカラーが違う演奏だが、ステレオ定位から判断するにこれらは『ダブル・ドラム』シリーズから持ってきたものだろう。特に「めぐり逢う青春」では、2台のドラムが勝手に自己主張する様子があまりにも可笑しく、よく聴くと同じようなマルチセッティングで録った2台のドラムを、チャンネルを逆にして定位したような響きだ。完全モノ定位で左右に振り分けた方が、落ち着いて聴けるのだけど。「ブラック・イズ・ブラック」化した「京のにわか雨」も異色。ドラムが走りすぎるせいでブラスがめちゃフライングしているところもあって、余計おかしい。このシリーズの1枚、箱買いで手元に来てやったと思い、盤を出したら全然違うものが入っていました(爆)。1枚通して聴いたら相当疲れそう。ラスト2曲も、ドラムは1台だけ右に固定するに留まりながら、このまま暴走するイメージで貫き通す。こんな感じでNAV時代まで駆け抜けて欲しかったです…

どうせなのでジャケットだけ載せます。

 

今日は石坂まさをさんの誕生日なので

マイパック DR-0037

魅惑のテナー・サックス ムード演歌のすべて

発売: 1974年?

ジャケット(裏)

A1 波止場女のブルース (森進一) 🅷

A2 命預けます (藤圭子) 🅷

A3 愛のきずな (安部律子) 🅶

A4 新宿の女 (藤圭子) 🅱

A5 希望 (岸洋子) 🅷

A6 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅹

B1 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅷

B2 思案橋ブルース (中井昭・コロラティーノ) 🅳

B3 恋はここまで (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)

B4 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ) 🅾

B5 ロダンの肖像 (弘田三枝子) 🅶

B6 港町ブルース (森進一) 🆀

 

演奏: 松本英彦と彼のグループ・ウィズ・ストリングス

編曲: 無記名

定価: 890円

 

神様がこの世にお造りになられた美しいもののありのままの姿が、なんの無駄な主張もない形で収められているのに、電脳空間上に晒すことに危険が伴うのは避けられなくて、ついつい裏返してしまわざるを得なくなりもす(瀧汗)。まぁ、ダイエー・マイパックだけに、市場にありふれすぎている盤だし(故に表ジャケ画像も簡単に見つかります…自己責任でどうぞ)、自分も手に入れたのは相当初期段階だったのだけど、主に内容面で語る気が失せていたので、遅れに遅れて延長戦でやっと登場となりました。しゃあない。清算はしないと気が済まないのでね。登場する歌手のいずれかの誕生日に合わせて、スケジューリングはしていたけれど、次々と重要盤が手に入るにつれ、後回しにされ続けていたわけで。

まぁ、いくらポリティカリーコレクトに寝返ろうとしたって、自分はやはり「石坂まっさを」という呼称が忘れられない人間だし、こっそり明かしますが「品性下劣バッジ」を少なくとも6個ゲットしていましたんでね(瀧汗)。テナー・サックスのムーディな音色から、そんな下卑たイメージは引き出したくないと思っても、やっぱ紐付けてしまうのがオチ。ここではガチプレイヤー中のガチプレイヤー、松本英彦氏が本気でタックルしています。マイパックの例に漏れず、ほんの3年程前にマイナーなテープメーカーに吹き込んだと思しき音源を使用しているようで、相当のガチプレイヤーも甘い誘惑に負けてか、結構その手のレーベルに実名で録音を残していたっぽい。本来の姿は8トラック・テープで聴くべきものだろうけど、テクニカルな意味合いだとそれも無理そう。レコード化してくれたダイエーには、ほんのり感謝の気持しかない。ただ、「TBSノンディストーションサウンド」の恩恵が半永久的に残るわけでもなく、酷使された盤から流れ出る音はやはり危うい。890円盤の材質だもの、しょうがないよ。

ムード演歌という括りはほとんどおまけみたいなもので、「希望」ロダンの肖像」などそこに属すとは思えない曲もあるし、ブルーライト・ヨコハマは寧ろ70年型サウンドから逸脱しており、場末のダンスホール的ノリで、サックスのプレイもジャジーに咆哮している。ただ、73~4年あたりの若者気質から振り返ると、ほんの3~4年前のトレンディな音楽さえ、相当前時代的に感じられたのだろうか。今振り返ると、『クリムゾン・キングの宮殿』と『レッド』の間の開きしかない…いや、その2作の間にさえ相当過激な揺れがあったけどさ。マイパックが狙ったのは、尖ってた時代感覚を忘れて簡素な生活に突入した層に他ならない。890円で釣ったノスタルジー

愛川みささんの誕生日は1月12日

ミノルフォン KC-21 

涙のとなり テナー・サックスのブルーなささやき

発売: 1969年8月

ジャケット

A1 涙のとなり (千昌夫) 🅱

A2 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ) 🅹

A3 星のみずうみ (布施明) 🅳

A4 恋のなごり (小川知子) 🅶

A5 禁じられた恋 (森山良子) 🅾

A6 みんな夢の中 (高田恭子) 🅸

A7 くれないホテル (西田佐知子) 🅲

B1 港町ブルース (森進一) 🅿︎

B2 涙の中を歩いてる (いしだあゆみ) 🅹

B3 君がすべてさ (千昌夫) 🅳

B4 君は心の妻だから (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅻

B5 お気に召すまま (じゅん&ネネ) 🅵

B6 誰にも云わないで (愛川みさ)

B7 エルムの恋 (ザ・デビィーズ) 🅱

 

演奏: ジョージ高野とパーフェクト・サウンド・グループ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

昨年6月2日のエントリで「切実に聴きたい」と熱望したアルバムが、無事巡ってきましたよ。「ささやき」シリーズの姉妹編で、2ヶ月前にフィリップスでジョージ・ヤング盤を出したばかりの高野ジョージ氏が、また違ったアプローチで臨んだアルバム。港町ブルースのみ重なっているが。やはりレーベルのカラーが全く違う故、ここではあくまでも保守的ブロウに抑えており、サウンド全体も場末色濃厚。ミノルフォンだからこれでいいのか、というか、こっちのサウンドもたまりませんな。全体的に、オクターブにとらわれないメロディーのこなし方が、ある種の不安感を誘き出しているのが特徴的というか、これもサックスの特性故なのかも。福山峯夫アレンジの「禁じられた恋」というと、やはりクラウンの大正琴盤の異様なサウンドを思い浮かべるけれど、ここで聴けるヴァージョンは地味っちゃ地味だけど、洗練されてはいる。ただ、キハーダの代わりにクラッシュシンバルが入るという共通点はある。「くれないホテル」は陰り感に欠ける分、いまいちだな。ハーモニカやオルガンのチージーな音は、この曲には不釣り合い。

さて、ミノルフォンマニアとしてはせっせと最後の2曲にまっしぐら(汗)。「誰にも云わないで」は、他社に取り上げられていないのがおかしい位ヒットしてるはずなのになぁ。 このヴァージョンは、まだ2番目のジャケットが出回る前の、ヒットの兆しが見え始めたあたりでのカヴァーで、それゆえに貴重だけれど、元歌が長すぎるので1コーラスで終わってしまうのが残念だし、オクターブが一定していない演奏のため、めちゃ気を揉まれてるような感じがして、上出来の歌無盤とは言い難い。やはり思い入れが強すぎる曲だからなぁ。「エルムの恋」は、琴版がオリジナルのオケを使用していたので、演奏全体をリメイクした唯一の盤ということで貴重(?)。幻想的なイントロでハッとさせるし、原曲を手掛けた山屋清氏も納得だろう。こういう場末乗りが似合うGS曲は、ちゃんと評価してあげなきゃいけない。この、これでお開きって感情を慌てて出したようなエンディングが憎めない。

さて、その次の番号の盤にもあっと驚く自社推し曲が…これも完結前に取り上げますよ。『GROOVIN’昭和』シリーズ、歌無歌謡編もやってくれればいいのにね。というかやらせて。