黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その1: ニューロック・インスト

テイチク ST-317~8

EASY LISTENING LOVE SPECIAL

発売: 1972年

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ジャケット



A1 ゴッドファーザー愛のテーマ (ニーノ・ロータ)Ⓐ 鈴木宏昌とナウ

A2 コンドルは飛んで行く (サイモン&ガーファンクル)Ⓑ エマノン弦楽四重奏団

A3 マミー・ブルー (ポップ・トップス)Ⓒ サウンド・クリエーション

A4 ジャニスの祈り (ジャニス・ジョプリン)Ⓒ ニュー・サウンズ・オーケストラ

A5 マイ・スウィート・ロード (ジョージ・ハリスン)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

A6 ハーティング・イーチ・アザー (カーペンターズ)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

A7 雨にぬれても (B.J.トーマス)Ⓔ 風間文彦とファンシー・ポップス

B1 女は世界の奴隷か! (ジョン&ヨーコ、プラスティック・オノ・バンド)Ⓓ 田中清司とザ・サウンド・スピリッツ

B2 オールド・ファッションド・ラヴ・ソング (スリー・ドッグ・ナイト)Ⓓ  ザ・サウンド・スピリッツ

B3 ダイヤモンドは永遠に (シャーリー・バッシー)Ⓐ 鈴木宏昌とナウ

B4 蜜の味 (ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス)Ⓕ 見砂直照と東京キューバン・ボーイズ

B5 メロディー・フェア (ビー・ジーズ)Ⓖ テイチク・シンフォニック・オーケストラ

B6 明日に架ける橋 (サイモン&ガーファンクル)Ⓑ エマノン弦楽四重奏団

B7 孤独の旅路 (ニール・ヤング)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

B8 シェリーに口づけ (ミッシェル・ポルナレフ)Ⓒ サウンド・クリエーション

C1 イマジン (ジョン・レノン)Ⓒ サウンド・クリエーション

C2 名前のない馬 (アメリカ)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

C3 愛するハーモニー (ニュー・シーカーズ)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

C4 勝利への讃歌 (ジョーン・バエズ)Ⓐ 鈴木宏昌とナウ

C5 レット・イット・ビー (ザ・ビートルズ)Ⓑ エマノン弦楽四重奏団

C6 ある愛の詩 (フランシス・レイ)Ⓔ 風間文彦とファンシー・ポップス

C7 ブラック・マジック・ウーマン (サンタナ)Ⓗ 猪俣猛/石川晶/田畑貞一/田中清司サウンド・LTD

D1 黒い炎 (チェイス)Ⓒ サウンド・クリエーション

D2 イッツ・トゥー・レイト (キャロル・キング)Ⓒ サウンド・クリエーション

D3 明日への願い (リンゴ・スター)Ⓒ シカゴII

D4 青春の光と影 (ジュディ・コリンズ)Ⓖ シカゴII

D5 デイ・アフター・デイ (バッドフィンガー)Ⓗ 猪俣猛/石川晶/田畑貞一/田中清司サウンド・LTD

D6 木枯しの少女 (ビヨルン&ベニー)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

D7 メタル・グゥルー (T.レックス)Ⓘ 有馬徹とノーチェ・クバーナ

D8 ラヴ (ジョン・レノン)Ⓓ ザ・サウンド・スピリッツ

 

演奏: 各曲の項を参照

編曲: 鈴木宏昌Ⓐ、越部信義Ⓑ、穂口雄右Ⓒ、柳田ヒロⒹ、利根常昭Ⓔ、今泉俊昭Ⓕ、村岡健Ⓖ、前田憲男Ⓗ、高見弘Ⓘ

定価: 2,400円

 

さて、毎週火曜日は逆説的に「歌謡曲」から離れて、歌謡曲が一切フィーチャーされていない、洋楽とか日本の唱歌などを中心にカヴァーしたインスト・アルバムを取り上げてみたいと思う。但し、特定のテーマに捉われて選択を行うには限度があることをあらかじめお断りしておきたい(ヒデキ・ファンの皆様ごめんなさい、予め)。よって、一定の法則は設けますが、選択はアトランダムです。あと、所謂ネオ・クラシック系と呼べるアルバムも、一部そそるものがあるが基本的に除外させていただく。

今日は、テイチクから72年にリリースされた「LOVE&JOYシリーズ」の一つとなる2枚組。実は宗内の母体がテイチクでリイシューCDの企画に関わっていた頃、洋楽のカヴァーインスト集を出したいという願望があって(歌のない歌謡曲に対しては、当時はそれほどでもなかった)、それに火をつけてくれたのがこのアルバムだった。カタログを調査すると、あっと驚く楽曲をカヴァーしている例も結構あって、それらにまとめて光を当てたいと画策していたのだが、結局叶わずじまい。ただ、「LOVE&JOY」とか「LOVER CREATION」などのシリーズで出されたものの中には、思いがけないきっかけで再脚光を浴び、とんでもない価格で売買されるアイテムも出てきているので、解放の必要性もあるのではという思いはずっと続いている。

 

72年当時の最新洋楽ヒット曲を中心に取り上げたこのアルバムも、一筋縄ではいかない内容。普通にイージー・リスニングとして聴ける内容の中に、所々突然変異としか思えない演奏が散りばめられている。大人たちが集う喫茶室なんかではかけられない。以下、聴きどころ。

手堅い弦楽四重奏「コンドルは飛んで行く」に続いて唐突に登場する「マミー・ブルー」は、数あるこの曲のヴァージョンの中でも最もヘロヘロに違いないドラッギーな仕上がり。当時、日本のアーティストの間でもしきりにカヴァーされたが、これがもし「歌のない歌謡曲」のアルバムに入っていたらと思うと戦慄。その後、ガチンコでロックしまくる「ジャニスの祈り」が続くんだから凄い。両方とも穂口雄右編曲によるが、後者の演奏者名義の一部が「オーケストラ」になってるのが不思議。きっと、ディレクターが気まぐれだったんだろう。B面トップの2曲は田中清司のドラムが快調に飛ばす。曲自体が持つ過激さに比較すると緩ささえ感じさせる演奏の「女は世界の奴隷か!」と、テンポを上げまくった「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング」の対比も面白い。手堅いイージー曲を数曲挟んで、ニール・ヤング「孤独の旅路」という意表をついた選曲。締めのシェリーに口づけ」も熱い演奏。

2枚目では、ジェリー・ベックリーの声にフルートがここまで迫れるとはと思わせる見事な演奏の「名前のない馬」弦楽四重奏とロックが激突する「勝利への讃歌」、ドラムバトルが炸裂する「ブラック・マジック・ウーマン」、ブラスに頼らず熱さを爆発させる「黒い炎」、「マミー・ブルー」程ではないが驚くほどダウナーな「イッツ・トゥー・レイト」などを経て、今作のヤマ、リンゴの初ソロヒット「明日への願い」に到達。

ここまで原曲を破壊しきっていいのだろうかという、お気楽なリンゴイメージが微塵もないヤバい演奏。後半は演奏そのものが発狂し始めるのに加え、コンソールも異常ないじり方で、殆どダブ化しているとんでもないヴァージョン。数あるビートルズ絡みの和ものインストの中でも、確実に最凶度上位2位に入るのではと思える凄すぎるサウンドだ。この「シカゴ11」名義は続くゆるゆるな「青春の光と影」にも冠せられているが、明らかにコピペミス(?)ではなかろうか。恐らく「ジャニスの祈り」と入れ違いになったのではないか。穂口さん本人のチェックが入るのがこわい…

この後も「デイ・アフター・デイ」「メタル・グゥルー」と、ロックファンをそそる選曲が続くが、前者のシャープなドラム先導のサウンドと、グラムの妖艶さから解放され、まじで「ぬるぬる維持中」な明朗サウンド(爆)に変貌した後者が好対照だ。ラストを飾る「ラヴ」の尻切れトンボ感にはちょっと興醒め。

 

そんなわけで、若き恋人たちの初々しいひとときにお勧めと言い切れない、激しい波に覆われた2枚ですが、今でこそこの混沌感を再評価したいものです。