黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌はなくともセリフは残る場合もある

テイチク SL-1300

ヒット・スタジオ ベスト=14 愛の化石

発売: 1969年11月

ジャケット

A1 愛の化石 (浅丘ルリ子) 🅳

A2 青空のゆくえ (伊東ゆかり)

A3 花と涙 (森進一) 🅹

A4 星のナイトクラブ (西田佐知子)

A5 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅹

A6 北国の町 (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅱

A7 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子) 🅽

B1 人形の家 (弘田三枝子) 🅺

B2 美しい誤解 (トワ・エ・モワ) 🅲

B3 海辺の石段 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅱

B4 可愛いあなただから (ズー・ニー・ヴー) 🅲

B5 あなたの心に (中山千夏) 🅶

B6 捨て煙草 (園まり)

B7 野いちご摘んで (ザ・ピーナッツ)

 

演奏: ザ・ビートニックス/田辺信一、松岡直也、大原繁仁 (ピアノ)

浅丘ルリ子 (セリフ、A1)

編曲: 田辺信一、高見弘(A1)

定価: 1,500円

 

ユニオンも含めると実に50枚以上の歌無盤を市場に送り込んだ1969年のテイチク。それなりにヤバい作品もいくつか残されていますが、これのヤバさも相当なものだ。何せ針を落とした途端、語りかけてくる浅丘ルリ子…あの大ヒット曲「愛の化石」から歌う部分を抜き去り、そこにピアノ演奏をはめ込んだ、「半歌無ヴァージョン」をトップに持ってきている。大体ジャケットも本人起用ですし、便乘盤にしては必然性もなにも、という感じですが、レア・ヴァージョンではありますね。しかし、続く13曲が決して穴埋めに終わってないのがミソ。ゴージャスなピアノ演奏に前曲のロマンの余韻を感じていたら、突如グルーヴィーなブラス・ロックへと突入。ピアノの響きも踊りまくっている。後にアルフレッド・ザ・グレイト・ブラスを率い、この手のダイナミック・サウンドを追求する田辺信一氏と共に、ピアニストとして起用されているのが松岡直也氏というのも貴重。まさか、歌無歌謡の仕事までしていたとは。どの曲で誰が弾いているのかは明記されていないが、チェンバロを担当しているのは全て松岡氏である模様。その響きが堪能できる「花と涙」も、森進一の世界からかけ離れた洗練されたロマン・ワールドを、ストリングスも交えて展開。かと思えば、筒美京平のレア曲「星のナイト・クラブ」では、作曲者の株を奪うような繊細なプレイでグルーヴ感を演出する。「恋泥棒」も相当のジャズファンク化してるし、ダイナミックなブラスと場末の匂いが予想以上に拮抗している「北国の街」もなかなかのカッコよさ。「海辺の石段」もこの通り、豪快に破壊している。ちゃっかり、自作曲を2曲(B4、B7)ここに押し込んだ田辺氏の押しの強さも見事。

ノーチェ・クバーナの『恋の奴隷』とどっちがヤバいかと訊かれたら、まぁどっちもどっちだな…両方共独特のオーラを放っているし、この2枚、そして『クレイジー・パーカッション』を世に送っただけでも、69年のテイチクは「どうかしていた」。まさか、このアルバムからワーナー・ビートニックスが始まったなんてことはないですよね…