黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その2: 楽器もの

ディストリクト HL-8001

シンセサイザーの魅力 ホーム・コンサートVol.4

発売: 197?年

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ジャケット



A1 ソウル・トレイン (MFSB)Ⓐ

A2 ラ・メール (シャルル・トレネ)Ⓐ

A3 小さな木の実 (ビゼー)Ⓐ

A4 メキシカン・ハット・ダンス (メキシコ民謡)Ⓐ

A5 聖地エルサレム (エマーソン、レイク&パーマー)Ⓑ

A6 愛にさようならを (カーペンターズ)Ⓑ

A7 忘れじのグローリア (ミッシェル・ポルナレフ)Ⓔ

A8 雨にぬれても (B.J.トーマス)Ⓐ 🅱 

A9 枯葉 (イヴ・モンタン)Ⓐ

B1 スカイ・ハイ (ジグソー)Ⓒ

B2 コンドルは飛んで行く (サイモン&ガーファンクル)Ⓒ 🅱

B3 エーデルワイス (リチャード・ロジャース)Ⓐ

B4 愛の讃歌 (エディット・ピアフ)Ⓐ

B5 BURN (ディープ・パープル)Ⓔ

B6 G線上のアリア (J.S.バッハ)Ⓓ

B7 眠りの森の美女 (チャイコフスキー)Ⓓ

B8 想い出のグリーン・グラス (トム・ジョーンズ)Ⓐ

B9 ラスト・ダンスは私に (ザ・ドリフターズ)Ⓐ

 

編曲/演奏: 江村克己Ⓐ、福田望Ⓑ、守富美幸Ⓒ、梅本記代Ⓓ、柳井朋子Ⓔ

演奏: 江村克子(ピアノ)、中邑弘治(ドラムス)、井村吉宏(ドラムス)

定価: 2,200円

 

さて、2回目の「歌謡フリー火曜日」。歌のない歌謡曲とはまさに対極というべき世界ながら、自分の聴覚を妙にくすぐるジャンルに所謂「身内音楽」、例えば学校の音楽会の記録なり「卒業制作」の類の音盤がある。近年、宗内の母体も何度かDJイベントでご一緒しているK氏の暗躍のおかげで、その存在意義が見直され、好事家に狙われる頻度も高まっているが、そのリアリティは正に、普段ならスルーされがちな現実の歪みを映し出す。その一方で、リアルタイムで同世代の育ちのいいお子様達の演奏をラジオ番組で愛聴したことも手伝って、ヤマハが主宰した「ジュニアオリジナルコンサート」を記録した音盤もまた、自分の大好物である。今日取り上げる作品は、本ブログで語られる予定の全音盤の中で唯一、この双方の性格を所持している1枚かもしれない。

東芝レコードのクレジットがあるが、同社は製造を行ったのみであり(帯に使われているフォントも東芝特有ではあるが)、制作販売の権限はディストリクトという自主レーベル名義になっている。定期リサイタルを記念して制作されているという「ホームコンサート」シリーズの4枚目に当たる作品。制作年度のクレジットがないが、1976年以降であるのは確実。

 

シンセサイザーの魅力」と銘打たれているが、本盤の主役は75年に販売開始されたエレクトーンの最上級機種「GX-1」である。従来、一つの音しか出せなかったシンセの発音メカニズムをエレクトーンの機構に全面投入し、先鋭的なエレクトロサウンドをポリフォニックで奏でることが可能という、当時としてはまさに夢のマシンとしか形容できない楽器で、当時の販売価格で700万円という、常人には手の届かないブツであった。そんなマシンに相応しく、初期モデルはキース・エマーソンスティーヴィー・ワンダーに試験的に提供され、両者とも当時の最新アルバム(EL&Pの『ELP三部作』、『キー・オブ・ライフ』)で使いまくっている。

前述したJOCの生徒たちも当時のコンサートで早々と使いこなしており、ヤマハの徹底した英才教育ぶりが窺えるが、恵まれたのは子供達だけではなかった。このアルバムには、リサイタルの主江村氏に加え、彼のエレクトーン教室の生徒と思われる数名がこの怪物と向かい合う様子がバッチリ記録されている。

多少せこい音作りとはいえ、鍵盤楽器主体のイージーリスニングアルバムとして充分鑑賞に耐える内容だが、その随所に妙な展開が待ち受けている。オープニングの「ソウル・トレイン」から、簡素化されたファンキーサウンドを様々な音色で再現しようと奮闘の影が。ガチなドラム演奏に補強されている分、余計人力ノリの異様さが目立つ結果となっている。続くスタンダードナンバー数曲にはそこまでの滑稽さはないが、唐突に登場する「聖地エルサレムのガチさはやっぱり、EL&P好きなんだなぁって思わせる。ちょっと前、YouTubeで話題になったラッシュ「YYZ」を弾きこなす少女なんかも、こういった音盤発表会の線上に位置すると思っていいか。

B面トップは当時の最新ヒット曲スカイ・ハイでスタート。妙に暴走しまくるドラムを背に、のほほんとメロディに向き合ってみせる美幸ちゃん。間奏のアドリブもあどけなくて素晴らしいが、エンディングで大技かました後テヘペロっぽいフレーズ奏でたりしてもう全く。その後も手堅くスタンダード曲が続くが、本盤のヤマは何と言っても「BURN」である。

元々爆走しまくり曲であるパープルのオリジナルをさらに1.5倍ほどのスピードに超加速。あまりの暴走にバックのドラムもぶっ壊れてしまう、普通鍵盤楽器でやれるわけない領域に素手素足で突っ込んでいく恐るべきヴァージョンになっている。前後の曲があまりにもゆるゆるなのもあり、この異次元感は日本レコード史に燦然と輝く。全メタルファン必聴。というか、「アレコード」で流したい(爆)。

 

当時のシンセレコードの、じっくり考えを巡らせながら一つ一つの音を繊細に構築していくイメージを豪快に破壊してみせる1枚。やっぱ、700万円する機械がなきゃできない世界だったのだ。YMOの登場はまだまだ先の話である…

 

せっかくなので、別の「まさかの」楽器で演奏される「BURN」をここでお聴きください…これは明日のエントリの「予告編」でもあります。


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