黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は桜田淳子さんの誕生日なので

ビクター SJV-657 

さわやかなヒット・メロディー

発売: 1973年9月

f:id:knowledgetheporcupine:20210413051940j:plain

ジャケット



A1 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ) 🅱

A2 三つの花 (ノン・ノン)

A3 天使の初恋 (桜田淳子)

A4 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ) 🅱

A5 花嫁の父 (松下恵子)

A6 避暑地の恋 (チェリッシュ)

B1 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ) 🅱

B2 天使も夢みる (桜田淳子)

B3 ひまわりの小径 (チェリッシュ)

B4 女の子なんだもん (麻丘めぐみ)

B5 若草の髪かざり (チェリッシュ)

B6 悲しみよこんにちは (麻丘めぐみ)

 

演奏: 小山岳、小出道也 (ブロックフレーテ)、ヒット・サウンド・オーケストラ

編曲: 舩木謙一

定価: 1,500円

 

淳子の誕生日ということで、当ブログの核心というべき名盤を早々と出さなければいけない。全曲、リードをとる楽器がリコーダーという、歌無歌謡界に残された最もラブリーなアルバムに違いない一枚。

73年は日本の音楽界にもシンセサイザー、メロトロンなどの最新兵器が大々的に投入され、マルチ録音の発達も含めて劇的にサウンドパレットが広がった年になったが、一方クラシック界には空前のバロックブームが到来し、従来は教育用楽器という認識しかなかったリコーダーが大幅に見直された。女性アイドル歌謡の動きが本格化し、そのラブリーなイメージを補強する音色として、歌謡界でも使われまくったのである。そんなわけで、歌無歌謡界も随所で笛の花が満開になったが、全面にフィーチャーされたアルバムは、これが最初で最後。美女の口元を花で隠したジャケットが、既に思わせぶり。クレジットはガチなドイツ語「ブロックフレーテ」を採用しているが、帯では何故か「ブロック・フルート」表記になっていて、一般的認識不足を匂わせている。メイン奏者はいずれも、フルート奏者としてバリバリに活動していた二人だ。恐らく当時の歌謡レコードでガチにリコーダー専門だった奏者は、一人もいなかったに違いない。

さてと、聴きどころだ。収録曲は一つの例外もなく、当時ビクターに所属していたポップス系女性歌手及びそれメインのユニットの曲となっており、まるで66年以前の歌無歌謡の方法論を踏襲しているよう。それでよかったのかもしれない。まずは手堅く「わたしの彼は左ききでご挨拶。オリジナルを踏襲しながら、ラブリーさを強調しまくるアレンジで、チェンバロや木琴のあしらいもカラフル。「三つの花」は厳密にはビクター発の曲ではなく、68年にザ・ダウン・ビーツが出したものがオリジナルだが、それを聴いた人ならお判りのとおり、ノンノン盤はまるで「ボヘミアン・ラプソディ」からオペラとロックの部分を抜いたに等しいと言ってもよい解釈になっているのだ。それをここではさらに緩めにアレンジしている。「森を駆ける恋人たち」は女性コーラスまで動員してポップに迫る。玄人好みの松下恵「花嫁の父」を経て、「避暑地の恋」はアルトリコーダー中心でリリカルに。

B面はまずノベルティ性を強調してのてんとう虫のサンバで、吹いている方もめちゃ楽しそう。淳子のデビュー曲「天使も夢みる」はこちらもコーラス入りでファンシーに。ちょっと滑り気味の音色はこの曲に相応しい(汗)。同種のサウンドを得ると、「若草の髪かざり」もバリバリのアイドルポップに聴こえる。そして本盤の最高傑作悲しみよこんにちは。アレンジ全体に可憐さが強調される中、メランコリックに響き渡るアルトリコーダーの響き。まるでこの音色のために作られたかのような、筒美ファン必聴のヴァージョン。これを聴くと、思わずカラオケで実践したくなりますよ。

とにかく、続編が作られなかったのも、他社が追随しなかったのも惜しすぎる1枚だけれど、これを踏襲した作品集が作られる可能性は滅びてないと思うし、何なら我が手でなんとかしなきゃ、とは思っています。願わくば、演り手自体にスター性を持たせなきゃ。