黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は村野武範さんの誕生日なので

東芝 TP-9535Z

瀬戸の花嫁

発売: 1972年

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ジャケット



A1 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅱

A2 今日からひとり (渚ゆう子) 🅱

A3 別離の讃美歌 (奥村チヨ) 🅱

A4 愛するハーモニー (ニュー・シーカーズ) 🅱

A5 ふたりは若かった (尾崎紀世彦) 🅱

A6 太陽がくれた季節 (青い三角定規) 🅱

A7 ドリフの真赤な封筒 (ザ・ドリフターズ)

B1 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🅱

B2 ゴールデン・ハーフの太陽の彼方 (ゴールデン・ハーフ)

B3 ひとりじゃないの (天地真理) 🅱

B4 純潔 (南沙織) 🅱

B5 月影のメロディー (松尾ジーナ)

B6 別れてよかった (小川知子)

B7 ドリフのピンポンパン (ザ・ドリフターズ)

 

演奏: ゴールデン・サウンズ

編曲: 荒木圭男

備考: RM方式4チャンネル・レコード

定価: 2,500円

 

さて、歌無歌謡黄金時代に孤高の輝きを残した「4チャンネル・レコード」が、本ブログ初登場である。ヴィンテージ・レコード&オーディオのみならず、デジタルオーディオ界にも新たなマルチチャンネル・ミックスの可能性が示されたおかげで、密かに再注目を浴びる4チャンネルサウンド。その発祥やメリットに関しては、ここで長々と説明してもしょうがないので他所に譲るとするが、果敢に実験に取り組んでいた当時のレコード業界全体において、その実験台に「歌のない歌謡曲」が使われまくったのは、意外と見過ごされている事実である。単に「雰囲気作り」の道具に終わらなかったというより、それだからこそ各種の実験をも受け入れられたのであろう。例えば、喫茶店の四角にスピーカーが一個ずつ置かれたとして、あまり広くない空間でその音を再生したとしたら、効果抜群に決まっている。折しも、録音スタジオもマルチ録音の実験現場として驚異的な発展を遂げていた時期である。マイク数本立てて1発録音なんて時代から、それぞれの楽器の音を個別に拾って精妙にミックスという新次元に突入していた。カラフルな音色の調合が決め手となる歌無歌謡こそ、まさにその実験にうってつけの材料だったのである。ヒット狙いより、さりげないフロンティア精神が優先だったのだ。

きわどいジャケットでムーディなインスト路線を先導していたゴールデン・サウンズも、ここでは4チャンネルの実験性に直面しながら、新たなアプローチに打って出ている。その分、販売価格も2,500円と、当時のスタンダードからすればかなりの高設定。録音とミックスに相当手間をかけた跡が伝わってくるから、無理もない。このRM方式エンコード録音は、通常のステレオ再生でもそれなりの効果を発揮するとあるが、確かに。脳内でヴァーチャルにデコードを行っただけでも、サウンド作りに込められた気合が随所から伝わってくる。オープニングの「恋の追跡」から、その効果は全開。熱いブラスアンサンプルが一塊となって襲いかかり、各種パーカッションが鼓膜を揺さぶりまくる。ミディアムながらキラー曲「今日からひとり」がその後を追い、最強のワンツーパンチ。A面にはもう一つ、筒美京平渾身の1曲「ふたりは若かった」がある。決して派手ではないがしっかり自己主張するドラムに耳が行く。瀬戸の花嫁はテンポを速めて、隙のないアレンジで新鮮なイメージ。「太陽の彼方」は音場を中央付近に固め、ヴィンテージなサーフサウンド感を活かしながらも、両サイドからブラスを畳み掛けて立体的次元に進化。「月影のメロディー」は選曲そのものがレア。両サイドの締めはドリフ絡みの選曲で楽しく盛り上げまくる。曲構成を崩すことなく、ここまでグルーヴィに昇華されたピンポンパン体操は珍しい。ジャケはアレだけど、老若男女楽しめる躍動感あふれる1枚。