黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は荒井注さんの誕生日なので

ポリドール MR-3120

黄金のドラム ふりむいてみても・くやしいけれど幸せよ 

発売: 1970年7月

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ジャケット+盤



A1 ふりむいてみても (森山加代子) 🅱

A2 くやしいけれど幸せよ (奥村チヨ) 🅱

A3 べが・べが・ぴあ・ぴあ (まさるとしゆう)

A4 レット・イット・ビー (ザ・ビートルズ) 🅳

A5 経験 (辺見マリ) 🅱

A6 ドリフのほんとにほんとにご苦労さん (ザ・ドリフターズ) 🅱

A7 明日に向う道 (ショッキング・ブルー)

A8 一度だけ (中山千夏)

B1 あなたならどうする (いしだあゆみ) 🅲

B2 燃える手 (弘田三枝子) 🅱

B3 四つのお願い (ちあきなおみ) 🅱

B4 マルタ島の砂 (ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス)

B5 空よ (トワ・エ・モア) 🅱

B6 夏よおまえは (ベッツイ&クリス) 🅲

B7 恋のほのお (エジソンライトハウス)

B8 愛するゆえに懺悔して (ピーター)

 

演奏: 原田寛治 (ドラムス)と’70オールスターズ

編曲: 前田憲男

定価: 1,700円

 

これまでのポリドール関係エントリのほぼ全ての回で名前を出したはずの名ドラマー、原田寛治御大の名物シリーズ「黄金のドラム」が遂に初登場。66年にグラモフォン専属になって以来、多くの歌謡レコードに個性的ドラミングを提供。60年代後期のポリドールの歌謡シングルを聴くと、絶対的定義と言える特徴的なフィルがあちこちに登場するのだけど(当然、三浦正弘とアロハ・ブラザーズ「ラリラリ東京」のアレもである)、それこそが「原田寛治印」の証明であり、当然歌無歌謡レコードにも数多く登場している。そして、リーダー作はどうかと言うと、フィルに個性を刻印するに留まらず、ほぼ全編で爆走しまくり。曲によってはものすごく長いドラムソロをフィーチャーしたり、エフェクトやステレオ録音の実験もしまくっており、その姿勢がさすがにフリージャズ人脈との接点を感じさせる。その傾向が、同時期にドラムシリーズをスタートさせたジミー竹内やありたしんたろうよりも若干長く継続したのが、何と言っても驚異的である。

所謂「歌のない歌謡曲」に挑んだものとしては、今作が5枚目にあたるもので、発売ペース的にもわずか1年ちょっとで通算7枚目だから凄い。フィーリング一発で当時の最新ヒット曲に激突してみせたこのアルバムも、前田憲男の先鋭的アレンジを得て、自由気ままに個性全開。ドラムの次に特徴的な音がファンシーな女性コーラスで、ミックスのレベルは抑え気味ながらムードを和らげる効果を上げているが、これは確実にシンガーズ・スリーだろう。ちょっと違う感もあるけれど、「ドリフのほんとにほんとにご苦労さん」で露呈するオシャマンベ・キャッツ感を前にすると、否定する気もなくなります(汗)。冒頭2曲の正統派フェロモン歌謡でも、このコーラスの効果が全開だけど、ドラムはお構いなしに突っ走るのみ。「ふりむいてみても」のソロのステレオ処理もかなりのぶっ飛び様で、歌詞の内容以上に要注意歌謡度が高い(爆)。3曲目に自社推し枠にして問題作「べが・べが・ぴあ・ぴあ」が登場。何ゆえにこれを歌無歌謡盤に入れようとしたのだろう…結果的に歌入りヴァージョンのストレートなカバーになっているが、無茶して水増しした感があるオリジナル(元々自主制作盤として出ていた初出ヴァージョンは、2分足らずで終わっていた)より、遥かに真っ当なダンス・ナンバーにアレンジされている(ちなみに、この盤で最も長い)。続く「レリビー」はまさにリアルタイムのカバー(当たり前だけど、意味がある)。1コーラスじっくり聴かせた後、突如フリーキーなドラムソロ+ファズギターの応酬に突入し、神聖ムードが粉砕される(と言えども、『スイッチト・オン・ヒット&ロック』ヴァージョンに比べると、遥かに軽音楽である…笑)。「一度だけ」のようなメロウな曲でも、お構いなしに走りまくるドラム。「あなたならどうする」では遂に一人ダブルドラムにまで挑んでいる。曲の進行などお構いなしに両チャンネルをぶっ飛ばした後、コーラス隊の一人が発する天使のような声にたまらぬ安堵感が。1枚通して聴くと緊張感に押し倒されるけど、これが2枚組となるともっと大変、と言うことで次の機会をお楽しみに…