クラウン GW-5268
胸いっぱいの悲しみ・十五夜の君 魅惑のヒット歌謡ベスト18
発売: 1973年9月
A1 涙の太陽 (安西マリア)Ⓐ 🅱
A2 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二)Ⓑ 🅱
A3 恋は燃えている (欧陽菲菲)Ⓐ 🅱
A4 愛すべき僕たち (ビリー・バンバン)Ⓑ
A5 心の旅 (チューリップ)Ⓐ
A6 紙風船 (赤い鳥)Ⓑ
A7 色づく街 (南沙織)Ⓐ 🅱
A8 コーヒーショップで (あべ静江)Ⓑ
A9 奪われたいの (渚まゆみ)Ⓒ
B2 裸のビーナス (郷ひろみ)Ⓐ 🅱
B3 絹の靴下 (夏木マリ)Ⓑ 🅱
B4 シンデレラ (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)Ⓑ
B6 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ)Ⓑ 🅲
B7 白樺日記 (森昌子)Ⓑ 🅱
B8 人間模様 (金井克子)Ⓐ 🅱
B9 草原の輝き (アグネス・チャン)Ⓒ 🅱
演奏: ありたしんたろうとニュービートⒶ
栗林稔と彼のグループⒷ
まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒸ
編曲: 青木望Ⓐ、小杉仁三Ⓑ、福山峯夫Ⓒ
定価: 1,500円
33日目にして、やっと74年以前の「クラウン・オールスター」の典型的アルバムを紹介するチャンスがやってまいりました。73年夏のヒット曲集。所謂クラウン2大巨頭に関して、大まかな説明をしながら聴きどころを紹介。
「この曲こそ、歌無歌謡進化の父」と言わねばならない重要曲「涙の太陽」を、リバイバルヒット中だった安西マリアのヴァージョンに忠実な解釈で爆走するのは、名物ドラムシリーズを69年~74年にかけて畳みかけたありたしんたろうとニュービート。年代に応じて出す音も、編成も当然のように自然に変化していきましたが、基本はその爆裂するドラミング。その正体は、ジャズドラマーとしてあまりにも著名なあの人…という説が当たり前になってるようですが、クラウンものを聴きまくり色々分析した挙句、「ありたしんたろうの中の人はひとりじゃないの」という持論をかましたくなってしまうのです。確かに、やっつけ仕事で6年間持ち堪えるのは相当な神経使うし…それでも、常に楽しんでドラムを叩いている様子が、どのレコードからも伝わってきます。マリア版のトリッキーなサウンドを控えめにした「涙の太陽」より、人力ドラムブレイクという感じで爆走し放題の「恋は燃えている」や、縁の下の力持ち的存在に徹した「心の旅」「わたしの彼は左きき」でのプレイを推したい。「裸のビーナス」「人間模様」での女性コーラスもいいアクセント。
一方、クラウン歌無歌謡のシンボルといえば、まぶち・ゆうじろうの色香漂うサックス。それこそ、数多残されたエロジャケのアルバムで展開されるプレイは、夜のロマンの御供として一世を風靡したが、ここでは2曲でフィーチャーされているのみ。めちゃさわやかな「草原の輝き」の中で孤高に悶えるその音が、実に異次元。もう1曲は浜口庫之助夫人・渚まゆみがグラム歌謡に挑んで見せた「奪われたいの」という貴重な選曲。ちなみにまぶち・ゆうじろうの中の人も超大物サックスプレイヤーという話ですが、確かに思わせぶりなネーミング。この二つの固有名詞は、75年以降のレコードで目にする機会はほとんどなくなってしまいます。たとえその音源がリユースされた場合でも。
このアルバムでこの2大主役の隙間に入り込むのは、ピアニストの栗林稔。ワーナー・ビートニックスでの熱いオルガンプレイと対照的に、ここでは複数のピアノを重ねてエレガントに迫る(他の鍵盤楽器も重ねているはず)。「紙風船」の冒険的な展開、珍しいビクター時代のブルコメの「シンデレラ」の軽快さも意外にピアノにマッチしていて、今作の効果的な色付けになっています。決してばらけすぎず、売りの要素をバランスよく並べたクラウンの1枚ものコンピの温度感は、普通のリスナーには一番美味しかったのかも。