黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1968年、今日の1位は「ゆうべの秘密」(2週目)

クラウン GW-5026

ゆうべの秘密 魅惑のテナー・サックス・ムード

発売: 1968年5月

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ジャケット(+関係ない盤)

A1 ゆうべの秘密 (小川知子) 🅶

A2 雨の銀座 (黒沢明ロス・プリモス)

A3 涙いろの恋 (奥村チヨ) 🅱

A4 涙のかわくまで (西田佐知子) 🅵

A5 盛り場ブルース (森進一) 🅴

A6 こころの虹 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅱

A7 命かれても (森進一) 🅵

B1 ラブユー東京 (黒沢明ロス・プリモス) 🅳

B2 恋のしずく (伊東ゆかり) 🅵

B3 愛の渚 (水原弘) 🅱

B4 恋のオフェリア (ザ・ピーナッツ) 🅱

B5 涙をおふき (布施明) 🅲

B6 星になりたい (佐良直美) 🅲

B7 ひとりのクラブ (石原裕次郎)

 

演奏: まぶち・ゆうじろう’68オールスターズ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

ラスト1週間に突入(ムフフ)という段階で遂に出してしまうこのアルバム。有名すぎるジャケット…(でも隠す)。見ただけで「あ、あれか」となる、恐らく「歌のない歌謡曲」の中では最も売れた部類に入るアルバムではないだろうか。オリコンアルバムチャートの開始は70年なので、具体的数字を知る術はないのだが。100円箱の中でも超コモンだし、ジャケットの状態が良くて帯が付いていたら(当然盤も)、激レア盤価格には至らないだろうけど「人気盤」程度の扱いは受けるのではと思われる。「歌謡ムード」を体現する代表的な1枚で、その後6年間のクラウンの立ち位置を決定づけた罪な盤である。

内容がどうのこうのという話は今更不要だろう。決して大袈裟にならないコンボサウンドに、正に恍惚という言葉がぴったりくるテナーの唸り。そして名曲としか言いようのない、当時を代表するヒット曲の連発。まぶち・ゆうじろうの「中の人」には諸説あるが(全ての時代の演奏を丹念に聴くと、それこそ二人以上は確実に存在するのではと思われる)、ここでの旋律こなしには確実にジャズの香りを感じるし、「雨の銀座」あたりでの息吹きに特に顕著。「涙のかわくまで」も、GS的ノリの裏にジャジーなムードを潜ませて、この曲の数あるヴァージョン中でもグルーヴィ度高いものに仕上げている。もう既に、ありたしんたろうの中の人がドラムを叩いているのではなかろうか。ビートの効いた曲と、場末色の濃い(と言えども、「命かれても」を除くと、ど演歌は避けられている)曲をほぼ交互に添えた構成も効果的で、かつトップを「ゆうべの秘密」にしたのも成功。歌無歌謡アルバムのコンセプト作りに於いては、このアルバムは確実に雛形になったはず。間奏内での突然の転調とか、一人デュエットとか、エンディングの盛り上がりとか、アレンジに関しても同様で、雰囲気作りのためには何が有効かという質問の答えは、まずこのアルバムで数多く実践されている。

ローランド・カークの名を引き合いに出した有名なライナーも納得。曲目解説の枠を超えたリリカルな注釈は、かえってこの種のアルバムにお似合いだ。ここから自由にイマジネーションを飛翔させ、夜のムードを誘き出した…そんな人達で溢れかえっていたのでしょうね、昭和元禄の夜は。ところで、誕生日の時も全然称えるモードにならなかったけれど、やっぱ小川知子さんを素直に語り辛いのは、90年代をしかと通過したからに他ならないんですよね。それでも、歌無歌謡のおさらいを通じて、スリーパー的な曲にさえいい曲がいっぱいあることを再認識したし。特に「思いがけない別れ」は、どのヴァージョンも外れがない。黛ジュンさんの「土曜の夜何かが起きる」も同様。もっとも、最近の黛さんの言動の方がどうやら…って、ここでそういう話はするもんじゃないね(汗)。