黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その5: 洋楽スタンダード・カラオケ

Dovecot DL-1006

愛のスタンダード・ベスト12

発売: 1978年

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ジャケット



A1 サバの女王

A2 追憶

A3 アドロ

A4 フィーリング 🅱

A5 サニー

A6 マイ・ウェイ

B1 ムーン・リヴァー

B2 ハワイアン・ウェディング・ソング

B3 モア

B4 ラヴ・イズ・ブラインド

B5 サマータイム

B6 イエスタデイ 🅱

 

演奏: Dovecot Sounds

編曲: 柳刀太

備考: カラーレコード (青)

定価: 1,480円

 

基本的に、イージーリスニング・レコードとカラオケ・レコードは、コンセプト的に完全なる別物である。作る側にとっては、歌のない演奏レコードを作り、用途に合わせてメインメロディーの存在感に差をつけるだけで済むのだろうけど、使う側としては相互作用はあり得ない。そんなわけで、ここでカラオケを主な用途とするレコードを扱うのは極力避けたいのだが、ブランド的に例外がひとつだけある。

小売界の大手・イトーヨーカドーが、レコード界に進出して立ち上げた「Dovecot」レーベル。そこからリリースされた7枚のカラオケレコードがある。

このレーベル開始に関する真相は未だ掴みようがないのであるが、商売敵のダイエーが「マイパック」ブランドを立ち上げ、980円という破格の価格でお手軽な盤(歌無歌謡も相当数あり、今後当ブログでいくつか取り上げる予定)を自店舗で売りまくってから相当時間が経ったはずの1978年に、これらのカラオケレコードを一気にリリース、恐らくテナント内のレコード店や書店で売りまくったと思われる。ちなみに、カラオケ以外でもDL-2000番台を設け、英国の音源制作業者からライセンスされた音源でサウンドアライク盤を売ったという話の全貌を掴むチャンスは、今のところ皆無に近い。

カラオケブームに乗ったと思しきせこいレコードビジネスと思いきや、実はとんでもなく力が入ったプロジェクトで、イラストのジャケットにも一貫したコンセプトを持たせ、録音のクオリティもかなり高い。しかも、当時隠れトレンドとなっていたカラーレコードを採用。ワーナーの「ファッションディスク」シリーズや、クラウンの童謡のカラー盤が79年発売開始だから、ちょっとだけ先んじてたということだ。

今日紹介するのは、全7枚リリースされた内、唯一歌謡曲を収録していない盤で、いい気なポピュラーファンにターゲットを絞ったスタンダード集。といっても、「サバの女王」は元々インストとしてヒットした曲だから、普通にイージーリスニングとして聴くのも可能。ただし、歌メロは全てせこいシンセの音で統一され、ガイドメロディーとしてわずかに使える音量に留められている。その曲を筆頭に、ストリングスはエレガントに鳴り響き、リズムセクションもシャープに録られている。歌う人の心理をいい具合に揺らし、いい加減な仕事に終わっていない。「サニー」はボニー・Mのディスコ・ヴァージョンに準じた演奏でむしろ異色だが、続くマイ・ウェイにせよ、いい気になりすぎるには若干軽い。それでいいのだ、大手スーパーで買えるプロダクトだから。「ハワイの結婚の歌」はガチなハワイアン演奏にコーラスも入り、ロマンティック・ムードに火を付けるが、淡白なシンセ音に萎え。最後の「イエスタデイ」はゴージャスすぎ、むしろ一緒に楽器を演奏したい気分になる。肩の力を抜いて臨めるのは、むしろ歌謡曲の方ということを教えてくれる一枚。

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Dovecotのレーベル