黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は西岡たかしさんの誕生日なので

東芝 TP-7374

フォーク・ルネッサンス~アングラ・フォーク・メロディー集

発売: 1969年

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ジャケット



A1 ひょっこり・ひょうたん島 (前川陽子)

A2 山谷ブルース (岡林信康)

A3 主婦のブルース (高石友也)

A4 からっぽの世界 (ジャックス)

A5 受験生ブルース (高石友也)

A6チューリップのアップリケ (岡林信康)

A7 ぼくのそばにおいでよ (加藤和彦)

B1 自衛隊に入ろう (高田渡)

B2 血まみれの鳩 (五つの赤い風船)

B3 坊や大きくならないで (マイケルズ)

B4 何のために (ザ・フォーク・クルセダーズ)

B5 戦争は知らない (ザ・フォーク・クルセダーズ)

B6 遠い世界に (五つの赤い風船)

B7 友よ (岡林信康高石友也)

 

演奏: フォーク・サークル

編曲: 青木望

定価: 1,500円

 

フォークに焦点を絞ったインストアルバムは数多いが、その中でも確実に最左翼に位置するのではないかと思われるのが今作。新宿西口広場を舞台に、7月弾圧されるまで過激な盛り上がりを見せた「フォークゲリラ集会」の模様をジャケにフィーチャーし、反体制的にうごめいたフォーク・シーン最前線を果敢にインストで封じ込めた問題作である。と言えども、制作姿勢的には従来の歌無歌謡の枠からはみ出すことはなく(エキスプレス・レーベルからのリリースでないのが象徴的である)、それがかえって滑稽な味を醸し出す。70年代に入ってから歌謡曲編曲界の最前線で大活躍することになる青木望氏は、この年同じ東芝からリリース(米国World Pacificからも一応、プロモ盤としてリリースまでこぎつけている)された冒険的インスト、ザ・ヒューストンズ「アポロ11」に作曲・編曲者として関わっており、その実験精神を買われての起用だったのだろう。

トップひょっこりひょうたん島は、前年いっぱいで解散したザ・フォーク・クルセダーズの出囃子ナンバーとして新たな支持を得ていた故の選曲。原曲に近いアレンジながら一捻り加えて、アルバムのトーンを決定付けている。フォークルの曲はB面に2曲選ばれており、いずれも主流からかけ離れた意表を突く選択。フォークの神様・岡林の2曲はいずれもリリカルに迫り、悲哀溢れるメッセージを中和している。と思えば、「主婦のブルース」はまさかのファンシーなアレンジで、原曲にはあり得ないハイソ感が皮肉を強調する。まさかと言えば、続く「からっぽの世界」。絶望感を必死でこらえたような響きは果たして正解なのだろうか…A面ラストはのちに藤井明美にもカヴァーされたエリック・アンダーソンの「Come To My Bedside」。ロマンティックなポップ色を打ち出したアレンジで、早々とリコーダーが登場する。

B面はもっとまさかの自衛隊に入ろうでスタート。原曲のアイロニーを軽くあしらったようなアレンジで、またもこれでいいのか感が。「血まみれの鳩」はオリジナル通りにリコーダー使用で、淡々としたアレンジに切実なプロテスト色が。以降、メッセージ色の強い曲がずらっと並び、最後にアンセム2曲で大団円。

派手なバンドサウンドやオーケストラを避けながら、時代の空気を言葉を抜いてシンプルに要約したこのアルバム。場末ムードと無縁の場所にも、確実に存在した「歌無歌謡」のスピリット。それはきっと、「実践せよ」というメッセージをも秘めていたはずだ。夜明けは近い。