黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その10: 実践推進・映画音楽

コロムビア JX-2

ギターとリコーダーによる 子供が主人公の映画主題曲集

発売: 1968年11月

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ジャケット



A1 ハイジ (アルプスの少女ハイジ)

A2 ミーロとアンドレア (天使の詩)

A3 鉄道員 

A4 禁じられた遊び

A5 ドレミの歌 (サウンド・オブ・ミュージック)

A6 いるかに乗った少年 (島の女)

A7 エーデルワイス (サウンド・オブ・ミュージック) 🅱

B1 マルセリーノの歌 (汚れなき悪戯)

B2 野ばら

B3 チム・チム・チェリー (メリー・ポピンズ)

B4 悲しみは星影と共に

B5 フリッパー 

B6 菩提樹 

B7 チロルの子守歌 (ハイジ・ブンバイジ) (幼な心)

 

演奏: 上杉紅童 (リコーダー)/小山勝 (ギター)

編曲: 小山勝

定価: 1,800円

 

リコーダーをフィーチャーした非クラシック系演奏アルバムというと、寧ろCD時代になってからの方が多く作られているようで、栗コーダーカルテットを除いたとしても相当数が思い浮かぶのだけど(汗)、レコード時代となると稀で、歌無歌謡界に於ける『さわやかなヒット・メロディー』の特異さが際立ちすぎる位である。やはり楽器の性格上、実践を促す内容のアルバムが多く、その中で取り上げられている曲となるとセミクラシック曲、唱歌がメイン。だからこそ、歌無歌謡のアルバムの中で笛が主旋律を奏でているのを聴くと、逆説的快感を見出してしまうわけで。

68年に発表されたこのアルバムも例に漏れず、「笛とギターによるスクリーン・ミュージック」という楽譜集と連動した内容になっている。その参考音源というわけ。時代が時代故に、未だリコーダーという呼び名も定着したと言えず、音楽の授業で習う楽器というイメージ以上のものに突き抜けてなかった頃。ポップスで使われていたとしても、精々ビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」での使用例が知られていた程度。翌年には五つの赤い風船で西岡たかしが使用し始めたことで、フォーク界にも多少は浸透することになるが、ガチに楽器としての真価が認められるまでには、さらに3年程待たねばならなかった。

そんな時代のアルバムではあるが、リコーダーのバックグラウンドや特性について的確な解説が添えられているおかげで、聴くだけでも非常にためになる。そして、聴いているうちに実践したくなるという仕組み(そんで楽譜を買いに行けというわけだ…)。解説でも触れられている通り、ギターのバッキングと音響的にもバランスが取れるし、温度感が伝わってくる録音だ。ギターの伴奏は曲によって二重録音されて左右に振られ、その真ん中を笛がさわやかに駆け抜ける。選曲も、解りやすい王道曲中心で(もうちょっと後なら「ミツバチのささやき」で流れた名旋律も入ってたかも)、曲によっては譜面を見ずに吹くことさえできそう。「いるかに乗った少年」が「子供を主人公とした」流れの中では異色という感があるが、アレンジが何となく「天国への階段」を思わせて面白い。原曲と言われる「トーラス」の発売が68年1月で、しかもCBSソニー設立直前までコロムビアがディストリビュートしていたODEレーベル扱いだったことを考えると、もしかして!?…いや、考えすぎか。

「マルセリーノの歌」を聴くと、同曲を鮮やかなリコーダー4重奏で再演した幻のガールズバンド、Holiday Holicのことを思い出します。やっぱ、こういう無垢な世界は自分で演ってみないと、入り込んだ気になれないんだ…