黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はおりも政夫さんの誕生日なので

アトランティック L-6034A 

華麗なるドラム・テナー・ベスト・ヒット20 愛する人はひとり

発売: 1971年12月

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ジャケット



A1 愛する人はひとり (尾崎紀世彦)Ⓐ 🅱

A2 潮風のメロディー (南沙織)Ⓐ 🅱

A3 地球はひとつ (フォーリーブス)

A4 愛があれば (湯原昌幸)Ⓐ

A5 誰も知らない (伊東ゆかり)Ⓐ 🅲

A6 忘れな草をあなたに (菅原洋一)Ⓐ 🅱

A7 港の別れ唄 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓑ 🅱

A8 長崎から船に乗って (五木ひろし)Ⓒ 🅲

A9 雨のバラード (湯原昌幸)Ⓑ

A10 涙から明日へ (堺正章)Ⓒ

B1 水色の恋 (天地真理)Ⓐ 🅴

B2 二つのギター (小山ルミ)Ⓐ

B3 雨の日のブルース (渚ゆう子)Ⓑ 🅱

B4 お祭りの夜  (小柳ルミ子)Ⓒ 🅱

B5 ポーリュシカ・ポーレ (仲雅美)Ⓑ

B6 17才 (南沙織)Ⓒ

B7 青空は知らない (堺正章)Ⓑ 🅱

B8 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦)Ⓒ 🅱

B9 燃える恋人 (本郷直樹)Ⓑ

B10 おもいでの長崎 (いしだあゆみ)Ⓒ 🅱

 

演奏: 三笠輝彦 (テナー・サックス)、市原明彦 (ドラムス)/ワーナー・ビートニックス

編曲: 穂口雄右Ⓐ、原田良一Ⓑ、田辺信一Ⓒ

定価: 1,800円

 

「華麗なる~」シリーズの記念すべき初リリースとなった1枚。既に9月、2枚同時リリースとなったプレデビューアルバム(?)でフィーチャーされた2つの楽器、テナー・サックスとドラムを同等に打ち出しつつ、アレンジの妙味をここぞとばかりに味わせてくれる。半数近くの曲を手掛けた穂口雄右氏にとっても、最も初期の歌無歌謡アレンジ仕事だったらしく(職業作家としては、翌年発表されたにれさちこ「愛は仔猫のように」がデビュー作)、アウト・キャスト同士だったプロデューサー、大野良治氏との鉄壁のコンビネーションが生かされている。

ドラムが疾走しテナーが先導する、グルーヴィな愛する人はひとり」、MORっぽいスウィートなサウンドが冴えまくる「潮風のメロディー」と、名刺代わり的な2曲に続き、「地球はひとつ」で一気にストレンジな方向に抜けていく。リードを取るのはオカリナとリコーダー(合わせて3本使われているようだ)。ドラムもはじけまくるに至らず、原曲とかなり違う異世界的ムードを現出させている。この種の実験的サウンドがあってこそ、ワーナー・ビートニックスのレコードは面白いんですよ。かと思えば、「愛があれば」なんかは手堅い歌無歌謡モードにまとまっていたりして、そういう曲の存在がかえって過激。

のちのビートニックス・サウンドの顔となる原田良一氏アレンジは、そこまで爆発しているという感はまだないものの、「港の別れ唄」の最後に唐突にドラムソロをくっつけてそのままフェイドアウトしたり、「雨のバラード」に必要以上に怠惰感を持ち込んでみたり、思わせぶりな技も駆使。「青空は知らない」にフィーチャーされている笛は、謎。リコーダー(ソプラニーノ?)だとしたら、かなりの特殊技巧を駆使しているのではないか。某芸能プロダクション命名の由来となった「燃える恋人」はさすがに熱い演奏で、過激なギターサウンド、電気サックスや暴れ回るベースまで総動員して、ビートニックスのロック路線の出発点を刻み付けている(と言っても、このヴァージョンの初出は9月リリースされたプレデビュー盤の方である)。