黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

青山孝さんの誕生日は8月10日

ポリドール MR-8089~90

歌謡ヒット・ベスト28 京のにわか雨/あなただけでいい

発売: 1972年7月

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ジャケット(裏)

A1 京のにわか雨 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅽

A2 鉄橋を渡ると涙がはじまる (石橋正次)Ⓐ 🅳

A3 ゴッドファーザー・愛のテーマ (尾崎紀世彦)Ⓐ 🅷

A4 純潔 (南沙織)Ⓑ 🅻

A5 風の日のバラード (渚ゆう子)Ⓐ 🅶

A6 恋唄 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓔ 🅲→6/12

A7 許されない愛 (沢田研二)Ⓐ 🅳→8/18

B1 ひとりじゃないの (天地真理)Ⓑ 🅸→8/18

B2 太陽に愛されたい (ニュー・キラーズ)Ⓕ 🅱

B3 BABY (平田隆夫とセルスターズ)Ⓕ 🅶

B4 ふりむかないで (ハニー・ナイツ)Ⓕ 🅴

B5 素足の世代 (青い三角定規)Ⓕ 🅳

B6 別れの旅 (藤圭子)Ⓔ 🅰→6/12

B7 夜明けの停車場 (石橋正次)Ⓓ 🅱

C1 あなただけでいい (沢田研二)Ⓐ 🅶

C2 待っている女 (五木ひろし)Ⓒ 🅷

C3 青い日曜日 (野口五郎)Ⓑ 🅱

C4 夏のふれあい (フォーリーブス) 🅲

C5 まるで飛べない小鳥のように (いしだあゆみ)Ⓐ 🅳

C6 運がよければいいことあるさ (堺正章)Ⓐ 🅲

C7 恋の追跡 (欧陽菲菲)Ⓐ 🅼

D1 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅸→8/18

D2 太陽がくれた季節 (青い三角定規)Ⓓ 🅴→8/18

D3 結婚しようよ (吉田拓郎)Ⓓ 🅴→8/18

D4 ちいさな恋 (天地真理)Ⓐ 🅺

D5 北国行きで (朱里エイコ)Ⓒ 🅴

D6 幸福泥棒 (井上順)Ⓔ 🅰→6/12

D7 ふたりは若かった (尾崎紀世彦)Ⓐ 🅻

 

演奏: 原田寛治 (ドラムス)とオールスターズⒶⒷ

秋本薫 (テナー・サックス)とオールスターズⒸ

小川隆 (ギター)とオールスターズⒹ

ケニー中島 (トランペット)とオールスターズⒺ

ケニー・ウッド楽団Ⓕ

編曲: 前田憲男Ⓐ、川上義彦ⒷⒸⒹⒻ、無記名 (ピーター・ギブス?)Ⓔ

定価: 2,000円

 

これは裏ジャケなんですけど、表が載せられないんですよね。変なところで帯がくっついてしまい、左目が完璧に隠れてしまっている上、色褪せしてるし、帯も破れている。曲名が被っているけれど、一応写真自体は表の写真を裏焼きしただけだし、多少擦り傷はあるにせよこちらの方が本来の色彩です。いい写真ゆえに勿体ないですが、これも箱買いの宿命ってことで。

いつものようなポリドールのフルコースと思いきや、今作にはかなり特異な部分がある。聴きながら紐解いて行くことにしますか。のっけの5曲は、恒例の原田寛治のアレだ。1曲目、「京のにわか雨」にしてはめちゃテンポが速いというか、ビート感は通常の1/2になっており、「若草の髪かざり」とかの感じに近い。その中を、縦横無尽にドラムが暴れ回る仕様。ドラムソロの部分だけ、別録音(別ミックス?)してテープを繋いでいるのかと感じさせるほど、重量感に差がある。前田憲男編曲な分、テンションは高めの演奏だけど。「鉄橋を渡ると涙がはじまる」のロックステディ感も独特だし、ゴッドファーザーも後にこの曲が受けた仕打ちを予見させる(!?)爆走アレンジだ。「純潔」は前田アレンジじゃない分多少軽さがあり、ドラムの浮遊感がかなり浮いている感じ。こんな感じでドラム爆走が続いた後、「恋唄」が登場するが、決定的な既聴感がある…昨年6月12日語ったマキシム盤『最新ヒット歌謡18 幸福泥棒』のトップと同じテイクではないか!マスタリングの違いで、相当印象は違って聞こえるけれど。

このテイクがここに収録された予兆は、同じ月にポリドールからリリースされた1000円盤『歌謡ヒット・ベスト10 恋唄/幸福泥棒』(MR-4514)にあった。そこに収録された10曲、全てマキシム盤と同じテイクであり、クレジットは「ユニオン・コルス原盤」となっているが、アレンジャーのクレジットがない。マキシム盤のピーター・ギブス名義も、謎と言っちゃ謎だが、この原盤会社も実態不明で、日本の外にあるのかなんなのか。大体、クレジットされているトランペッター名義が別というのが最大の謎だ。ケニー中島の方が、佐野正彦より多少知名度的に上ではあるけど、あっちには松浦ヤスノブというより超メジャーな演奏者名も併記されているし。

その10曲の中から、他に「別れの旅」「幸福泥棒」もこちらに選ばれており、いずれもアレンジャークレジットは省かれている。後者の「5年後よりの使者」感が強い演奏がここに現れると余計びっくりものだが、どうせなら大傑作「素足の世代」もそのテイクを使えばよかったのに…まぁ、いろいろ制約があったのかもしれないけど、歌無歌謡屈指の謎の一つだ。A面はフランジャー使用でハッとさせる「許されない愛」が2度目の登場で幕を閉じる。

断片化解消されてないようなドラミングにつまずきそうな「ひとりじゃないの」で幕を開けるB面は、当時のジュリーのレコードの演奏者名に常時クレジットされていた「ケニー・ウッド楽団」名義のものが中心だが、編曲は森岡賢一郎氏ではないし、ドラムが突っ走っているものの、原田寛治の演奏とはちょっと違う感がある。「太陽に愛されたい」のエンディングで、加速しながら爆走するところなんて、寛治っぽくはあるけれど、タムのチューニングの低さとかに異質さを感じたり。やはりマキシム盤「素足の世代」が絶対的に恋しくなっちゃうな。2枚目に入ると、確実に原田寛治のドラムと解る演奏を軸に軽快に駆け抜けて行くが、多少は過剰感も。その分「幸福泥棒」のアレンジの特異感が際立つおまけもあるけれど、やはり伊部晴美先生が欠如しているのはしょうがないのですよ。何かあったのだろうか。マキシム音源の存在以上に、その方がずっと特異なファクターであることに、28曲聴いて気付くんですよ。太陽がくれた季節の山内さんの琴や、トリオ盤の前田アレンジが改めて恋しくなる、そんな2枚組。