黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1975年、今日の1位は「想い出まくら」

ビクター SJV-858

ゆれてる私 最新ヒット歌謡

発売: 1976年1月

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ジャケット



A1 ゆれてる私 (桜田淳子)

A2 ロマンス (岩崎宏美) 🅴

A3 あのひとは遠い人 (西川峰子)

A4 あゝ人恋し (森進一)

A5 夢よもういちど (真木ひでと)

A6 想い出まくら (小坂恭子) 🅳

B1 センチメンタル (岩崎宏美) 🅱

B2 「いちご白書」をもう一度 (バンバン) 🅳

B3 わたしは新妻 (殿さまキングス)

B4 傾いた道しるべ (布施明)

B5 美しい愛のかけら (野口五郎)

B6 私でよければ (石川さゆり)

 

演奏: ビクター・オーケストラ

編曲: 寺岡真三

定価: 1,800円

 

70年代前半は冒険精神旺盛なところを見せつけまくっていたビクターの歌無歌謡だが、さすがに75年を過ぎると落ち着きを見せ始めたようだ。片面6曲収録に抑えたところは品質第一のポリシーを窺わせるけど、雰囲気作り的には不便になるのは避けられないし。

この盤は75年暮れから76年初頭にかけてのヒット曲を集めたものだが、編曲担当が寺岡真三氏というのが目を惹く。言うまでもなく、60年代のビクター歌謡を通して、最もハイカラなアプローチを執り続けたアレンジャーであり、そのくせしてこの人の代表的仕事に「東京ビートルズを挙げる人も後を絶たない。確かに、東京ビートルズのレコードから漂う妙な和声感覚は何由来のものだと不思議に思って当然かもしれないけど、あれは64年にしかあり得ない「温度差」でしかなかったわけで。幾分洗練化が進んだ75年の歌謡界を、決して派手さを出すことなくコンパクトに固める手腕は、やはりベテランならでは。大胆さはないけど、落ち着いて付き合える1枚になっている。

自社アーティストから始めるのはビクターのお家芸ということで「ゆれてる私」がトップに来ているが、各コーラスの終わりあたりで不意打ち的にかまされるギターの「ズキキュン」な一撃に、ミキサーの執念を感じる。明らかにそこだけピンポイントで上げてる感じだけど、マルチ録音が発達してなかった頃からは想像できない技だ。この後A面は、オックス時代お世話になった真木ひでとまで含めてほぼ全編自社推し大会。B面もシャープなミックスにひっぱられて快調に飛ばしていく。カラフルな音の使い方に熟練味を感じる。「津軽海峡」より前の石川さゆりの曲が他社に取り上げられるのも珍しい。短距離ランナーの意地の見せ所、という感じの1枚。