黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1977年、今日の1位は「ウォンテッド」(5週目)

ユピテル YL-2061~2 

’78年ヒット歌謡大全集

発売: 1978年

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ジャケット



A1 勝手にしやがれ (沢田研二) 🅱

A2 失恋レストラン (清水健太郎)

A3 カスマプゲ (李成愛) 🅰→4/23

A4 あずさ2号 (狩人)

A5 暖流 (石川さゆり) 🅰→4/23

A6 四季の歌 (いぬいゆみ) 🅱

A7 想い出ぼろぼろ (内藤やす子) 🅲

A8 秋桜 (山口百恵) 🅲

B1 渚のシンドバッド (ピンク・レディー) 🅲

B2 帰らない (清水健太郎) 🅲

B3 津軽海峡冬景色 (石川さゆり) 🅰→4/23

B4 青春時代 (森田公一とトップギャラン) 🅳

B5 おもいやり (黒木憲)

B6 どうぞこのまま (丸山圭子) 🅳

B7 悲恋白書 (岩崎宏美)

B8 昔の名前で出ています (小林旭) 🅱

C1 人間の証明のテーマ (ジョー山中) 🅱

C2 硝子坂 (高田みづえ) 🅱

C3 フィーリング (ハイ・ファイ・セット) 🅴

C4 おゆき (内藤国雄) 🅰→4/23

C5 メリー・ジェーン (つのだ☆ひろ)

C6 そんな夕子に惚れました (増位山大志郎) 🅰→4/23

C7 雨の桟橋 (森進一) 🅱

C8 愛のメモリー (松崎しげる) 🅱

D1 コスモス街道 (狩人) 🅱

D2 星の砂 (小柳ルミ子) 🅱

D3 能登半島 (石川さゆり) 🅱

D4 夢先案内人 (山口百恵) 🅲

D5 おんな港町 (八代亜紀) 🅲

D6 線香花火 (さだまさし)

D7 酒と泪と男と女 (河島英五) 🅰→4/23

D8 ウォンテッド [指名手配] (ピンク・レディー) 🅳

 

演奏: ザ・サウンズ・エース/インペリアル・サウンド・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 2,500円

 

78年と銘打たれてはいるが、実質的には77年を代表するヒットナンバーを集大成したもの。77年と言えば、ピンク・レディーの大活躍で表面的には華々しいイメージが象徴してる感じだけど、リアルタイムで通過した者なら解るように、戦後芸能界では屈指のスキャンダラスな年であった。そのことを嫌でも思い出させてくれる選曲の歌無歌謡盤は稀で、超メジャーとは言い難かったユピテルだからこそできた1セット、ってのは言い過ぎか。

大ヒット勝手にしやがれで第一線に復帰したジュリーでさえ、前年巻き込まれた「イモジュリー事件」の暗い影を完全に払拭したと言えなかった。今ならSNSで平然と行われているようないけないことを、公の場でやってしまった一般人に非があるのは当然だけど、同曲がレコード大賞まで獲ってしまったことで、世間はジュリーの味方をしたという、当然の成り行きとなったのだ。以後数年間のジュリーの勢いったらなかった。今振り返ればそりゃないだろというイメージ作りだろうが(「サムライ」や「TOKIO」は特に)、当時見る者にとってはカッコ良い以外の何でもなかった。

その後、今作に選曲されている二人をはじめとする多数の芸能人(一般的にそのイメージが最も強いと思われる清水健太郎は、当時はほんの新人だった)が巻き込まれた「マリファナ禍」があり、改めて不道徳な行為の恐ろしさを思い知らせてくれたけど、とどめは実質的には前年5月の出来事だった「克美しげる事件」だった。

事件発覚と発売が奇しくもタイミングを重ねてしまった新曲「おもいやり」は当然封印されることになり、最終的には克美の僚友であった黒木憲が同曲を救済して、12月にシングル発売。複雑な事情に絡われながら、結局7年ぶりのチャート入りヒット曲となり、それに伴ってこの歌無アルバムでも取り上げられたわけだ。大ヒット曲にはならなかったけど、ここに選ぶ価値ありと判断したユピテルの意地は、ジャンク棚に眠らせておくにはもったいない。

そんな77年を総括したアルバムではあるけれど、全体的にはノリが軽く、初期ユピテルにあった妙なカラーの名残はあまりない。「勝手にしやがれ」も、ここまで軽くしていいのかという感じのB級感溢れる仕上がり。一方で「四季の歌」ではクラウン盤に負けていないエレガントな感触を出したりしているし(リコーダーがいい感じの色付けを行っていたり)、秋桜のお嬢様っぽさもまた格別。「こんな」のとこで減速するアレンジは独特のものだ。あと、「メリー・ジェーン」が取り上げられているのも珍しい。勿論、問答無用のスタンダード・ナンバーだけど(初出は71年出たストロベリー・パスのアルバム)、当時トランスジェンダー・カルチャーを中心に息の長いヒットになっており、通常の歌無歌謡盤が着目しないところをしっかり見据えてるなと感じさせる。歌無歌謡としての独自性を感じさせるポイントとして、歌いにくいキーで演奏されている曲が多いと感じる。特に人間の証明のテーマ」は、女性が歌うにしてもかなりキツいかも。やはり、カラオケと統合した存在になるべきではなかったのだ、「歌のない歌謡曲」は。それにしても、オチが「ウォンテッド」という構成は見事すぎませんか。