黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その21: 夏休みは今日でおしまい

RCA JR-9515~6

日本の童謡大全集

発売: 1975年

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ジャケット



A1 雨

A2 かなりや 🅱

A3 くつが鳴る

A4 背くらべ

A5 しゃぼん玉 🅱

A6 しかられて 🅲

B1 十五夜お月さん

B2 めえめえ小山羊 🅱

B3 てるてる坊主 🅱

B4 七つの子 🅲

B5 赤とんぼ 🅲

B6 ゆりかごの歌 🅱

B7 どんぐりころころ 🅱

C1 雀の学校

C2 赤い靴 🅱

C3 青い眼の人形

C4 月の砂漠 🅲

C5 肩たたき

C6 夕やけこやけ 🅲

D1 春よ来い

D2 証城寺の狸ばやし

D3 雨降りお月さん 🅱

D4 あめふり

D5 俵はごろごろ

D6 あの町この町

 

演奏: 服部正と日本女子管弦楽団

編曲: 無記名

定価: 2,500円

 

8月31日が来ると、もうそれだけで侘しさがいっぱいだ…小学校高学年の頃、密かに好きだったあの子の誕生日だったのに、宿題全然片付いてないし…もの凄い勢いで片付けながら、明日からまた気持ちを入れ替えようという気分になりたくとも、暑さがそれを許してくれない…

そんな夏の終わりの感傷が蘇ってくるアルバム。季節的には全然そんなイメージない曲も入ってるけれど、全体的な響きが正にそのサントラ感そのものなんですよ。演奏者クレジットは「日本女子管弦楽団」となっていますが、これこそ1968年創立された「(恐らく)日本初の全員女性演奏家からなるオーケストラ」。翌年、ミノルフォン傘下の学芸系レーベル、ママから初のアルバム『青きドナウ』(FC-5001)を「ジャパン・レディス・オーケストラ」名義でリリースしており、その時の平均年齢は23歳。今考えるとめちゃフレッシュ。主にセミクラシック曲を取り上げる中、「引き潮」のようなポピュラー色濃い選曲がアクセントとなっている。裏ジャケットに華々しい演奏写真が載せられているのだが、右端にいるピアニストの姿が無残にも切り捨てられており、もうちょっと引けばよかったのにと思わずにいられない…彼女の恨みは一生消えなかっただろうな…

その後、RCAから「オーケストラ・グレース・ノーツ」名義で、セミクラシックと唱歌を中心にホーム・ミュージック系のアルバムを大量にリリースしており、学校の放送室の常駐アイテムと化していたせいか、ジャンク市場ではよく見かけるし、ついつい買ってしまう。実際、『森の水車』(JRZ-2512)に収められている「シンコペーテッド・クロック」は、我が小学校時代掃除の時間になると流されていた音源と全く同じで、まさかの再会に仰天してしまったものである。

この2枚組は、豊富に残された童謡・唱歌の録音から再構成されたものという可能性もあるが、全体的に響きに統一性があって、彼女達にとっては余裕綽綽なレパートリーを25曲、一気に録ってしまった印象もある。いずれにせよ、淑女達の真剣な取り組みが伝わってきて、おなじみの曲も安心して聴ける。響きそのものに優しさがいっぱいなのだ。管楽器の音も不思議と艶かしく、75年の最新録音技術で録られたことを匂わせているし、トレンドに色気を使わないアレンジといえども、所々に歌無歌謡に通じるモダンな感触が垣間見られるのも興味深い。音色だけは木村好夫っぽい印象のギターとかオルガンとか。「春よ来い」で思いっきりセンターに出てくるリコーダーは、フルート、クラリネット以外の管楽器パートの演奏だろうか(両方とも目立っているので)。「証城寺の狸ばやし」もめちゃ楽しそうな演奏。勢い余って声まで出してしまわないところは、実にしたたか。

これだけ堂々とがんばりを見せている女性奏者たちが、歌無歌謡の録音現場でも大活躍したという話は聞かないけれど、それを夢想したいものである。