黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1978年、今日の1位は「銃爪」

CBSソニー(ファミリークラブ) FCLA-357 

君のひとみは10000ボルト ニューミュージック・ベスト・ヒット

発売: 1978年

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ジャケット



A1 君のひとみは10000ボルト (堀内孝雄)

A2 飛んでイスタンブール (庄野真代) 🅱

A3 さよならだけは言わないで (五輪真弓) 🅱

A4 勝手にシンドバッド (サザンオールスターズ)

A5 冬の稲妻 (アリス)

A6 銃爪 (世良公則&ツイスト)

B1 時間よ止まれ (矢沢永吉) 🅲

B2 かもめが翔んだ日 (渡辺真知子) 🅲

B3 宿無し (世良公則&ツイスト) 🅲

B4 モンテカルロで乾杯 (庄野真代)

B5 おもいで河 (中島みゆき)

B6 Mr. サマータイム (サーカス) 🅲

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 無記名

定価: 未設定

 

一部レコードマニアの間では重要課題の一つ「レコードクラブ盤」。言ってみれば「レコードのサブスク」のようなもので、米国ではポピュラーな商法であるけど、年会費いくらの会員制で、月一特定枚数好きなレコードを選んでそれが送られてくるというシステム。米国の場合、通常の市場で出回っているアルバムが違うコンフィギュレーションで流通する(例えばRCAの盤がキャピトルのカタログでナンバリングされるとか)のが主で、それがマニアを狂わせたりしているのだけど、日本ではそういう例はあまりなく、代表的存在の「CBSソニー・ファミリークラブ」も、自社音源を用いて独自のコンピレーションを作り、会員向けに配布というシステムを用いていた。FCLAというのが、そんな盤に用いられていた規格である。

通常市場には1枚あたり16~20曲収録で出回っていたクリスタル・サウンズの歌無歌謡盤は、恐らく著作権的都合のためか、初期のファミリークラブ盤では10曲収録というケースが多く、よく知らないでそれを中古市場で買うと肩透かしを食う。しかし、片面に5曲しか入っていないということは、当然市販盤より音質が良いに決まっているわけで、それを有難がる人もいそうではある。

そんなこともあって、通常市販盤しか取り上げない当ブログでも、そんな事情を説明するため、最低1枚はファミリークラブ盤を紹介するつもりでいた。この盤は、78年に配布された一連のペーター佐藤ジャケットものの一つで、当時のニューミュージック系の最新ヒットがずらり。歌無歌謡収集に当たって、集計開始から79年までに至るオリコン1位曲をコンプリートしたいという野望を設定していて、「銃爪」がなかなか巡ってこなかったのだけど、これに入っていることが判明して仕方なく手に入れたという次第である。「ザ・ベストテン」では記録的1位独走曲となったのに、なぜか歌無歌謡界では不人気で、クラウンのヴァージョンさえ未確認である。この曲も、通常のソニーの市販盤に入っているはずなのに、出てこないのだ。あと、ミノルフォンの盤があるのも確認済みだが。

そうこうまでして手に入れたこの盤の「銃爪」、残念ながら残念な出来。イントロを聴けば一目瞭然だけど、間延びしているのだ。ロック感覚は出ている演奏だと思うのだけど。何故かエンディングだけ、同じフレーズをちゃんと演奏してるのになぁ。歌無歌謡のキャパじゃどうにもできない曲がぼちぼち出てきた時期の不幸を象徴してるようだ。その一方で、ここに勝手にシンドバッドが収録されていることの意義は大きい。恐らく、このクリスタル・サウンズ盤(の市販盤)こそが、本邦初のサザン歌無カヴァーなのは間違いない。空回りしてるようなコーラスだけど、こちらはかえって許せてしまう。「時間よ止まれ」は若干軽くはあるけど、さすが自社曲、ニュアンスを捉えた演奏が聴ける。ヨーカドーのカラオケ盤同様、フルートをフィーチャーしているのが何故か可笑しいが。これも自社曲なのにかもめが翔んだ日はもうちょっとしっかりしてよ、って感じの出来。やはり、雑多な流れを捉えたアルバムの方が、面白く付き合えるという結論に達さずにいられない。