黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は山木康世さん (ふきのとう) の誕生日なので

ユピテル/博光 RH-6

遠くへ行きたい・誰もいない海 フォーク歌謡ベスト・ヒット

発売: 1975年?

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ジャケット



A1 遠くへ行きたい (ジェリー藤尾) 🅱

A2 空よ (トワ・エ・モア) 🅲

A3 白い色は恋人の色 (ベッツイ&クリス) 🅴

A4 さよならをするために (ビリー・バンバン) 🅴

A5 花嫁 (はしだのりひことクライマックス) 🅴

A6 学生街の喫茶店 (ガロ) 🅴

A7 ひまわりの小径 (チェリッシュ) 🅳

A8 精霊流し (グレープ) 🅳

B1 誰もいない海 (トワ・エ・モア) 🅴

B2 若草の髪かざり (チェリッシュ) 🅲

B3 旅の宿 (吉田拓郎) 🅸

B4 若者たち (ザ・ブロードサイド・フォー) 🅴

B5 哀愁のレイン・レイン (チェリッシュ) 🅲

B6 白い冬 (ふきのとう) 🅰→4/9

B7 結婚するって本当ですか (ダ・カーポ) 🅱

B8 見上げてごらん夜の星を (坂本九)

 

演奏: ザ・フォーク・ライダーズ/ザ・サウンズ・エース

編曲: 無記名

定価: 記載なし

 

半掛け帯ならぬ「裏欠け帯」が印象に残るユピテルの「博光」ルートで出されたフォーク名曲集。例によって、市販された同タイトルのアルバム(YLT-111)と内容はおろか、スタンパーまで共有しているけれど、こちらの盤のジャケットは怖い…親しみやすさというか、ロマンチックなムード皆無。どのような販売網で売られたか、今になっては解明のしようがないのだけど、一般のレコード店向きではない印象はある。75年当時の最新ヒットのみならず、様々な時代から名曲が集められ、幅広い世代のピースフルな語らいに色を添えるにうってつけ。謎めいた演奏者クレジットではあるけど、のっけの「遠くへ行きたい」からして好夫節全開。何度もこの曲にタックルしていると思われる木村好夫先生だけど、ここでもさりげなく、軽いエフェクター使用をかましつつ、右側で聞こえてくるサイドプレイにまではっきりと個性を刻印している。ちょっと前の曲も、透明感のあるサウンド作りで70年代中期のムードに統一しており、「空よ」「若者たち」のフルート、「白い色は恋人の色」「花嫁」のオカリナなど、脇役も鮮やかに活躍している。「学生街の喫茶店もまさかのテンポアップにより、新しい色彩感が与えられているし、ソフトロック的感覚に彩られた「誰もいない海」が見せてくれる風景は鮮やかだ。「結婚するって本当ですか」の鍵ハモは息もあらわで、曲の根底にある執念を浮き彫りにしてみせる。蛇足だけどこの曲の森進一によるカヴァーは、「歌入り歌無歌謡」(70年代までのオリジナル歌手以外によるアルバム用のカヴァーを、個人的にはそう総称している)として格別の出来。一聴をおすすめする(各種サブスクにもあります)。

それにしても時間が止まるのは精霊流しが始まった時だ。まさにこのジャケットが語りかけようとしてるようなサウンド…ころころとテンポが変わるキング盤も執念深いイメージだったけれど、このユピテル盤の一見無表情でありながら、ラストで怨念を増すように鳴り響く鈴の音ったら…ジャケットのイメージと実際の音が一致した、歌無歌謡では稀な一瞬だ。市販盤の方のジャケは海上の風景で、こんな感じじゃ決してないのに…