黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は瞳みのるさん (ザ・タイガース)の誕生日なので

トリオ RSP-5009

ラクル・ヒッツ14

発売: 1970年

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ジャケット



A1 波止場女のブルース (森進一) 🅳

A2 自由の女神 (黛ジュン) 🅱

A3 圭子の夢は夜ひらく (藤圭子) 🅵

A4 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅴

A5 私生活 (辺見マリ) 🅲

A6 愛のきずな (安部律子) 🅳

A7 愛しているなら (山下敬二郎)

B1 四つのお願い (ちあきなおみ) 🅲

B2 昨日のおんな (いしだあゆみ) 🅱

B3 今日でお別れ (菅原洋一) 🅱

B4 わたしだけのもの (伊東ゆかり)

B5 泣きながら恋をして (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅱

B6 そっとおやすみ (布施明) 🅱

B7 素晴しい旅行 (ザ・タイガース)

 

演奏: 杉本喜代志 (ギター)/ケンウッド・グランド・オール・スターズ

編曲: 森岡賢一郎

定価: 1,700円

 

1969年、オーディオ・メーカー傘下レーベルに相応しく、海外の独立レーベルからライセンスされたジャズやクラシックのレコードを発売しまくり、マニアの耳を唸らせていたトリオ・レコードが突如リリースした歌無歌謡盤。クラシック、ジャズ問わず国内制作音源をリリースしていた「RS品番」にいきなりこれが登場したのは突然変異としか思えないけど、ちょちょいと実験してみましたみたいな感じか。本田竹彦と契約してのジャズ・アルバム2枚の余勢を駆ってか、大胆にもジャズ・ギター界のトップ、杉本喜代志をフィーチャリング・プレイヤーに迎え、アレンジも森岡賢一郎に一任。もちろん、レーベル・カラーがくっきり刻印されたシャープな録音で、プレスにまで気合が入り、状態のいい盤はヴィヴィッドな音場を惜しげもなく提供する。下世話な場末ミュージックなんて形容してはいけない、ほんまもんのサウンドで綴られた70年ヒット大会。

オリジナルも森岡氏が手掛けた曲はA1、B2、B3、B5の4曲で、原曲のカラーを生かしつつ決して質を落とさないアレンジ。さらに山下敬二郎「愛しているなら」は作曲まで手掛けている。この曲の選曲には多少私情も絡んだのかも。萎縮しながらもしっかりギター・プレイに専念する杉本氏。これもまた、今で言うスムーズ・ジャズ的なものと捉えたかもしれないけど、随所に光るアドリブプレイには意地が出ている。「夢は夜ひらく」の冒頭なんか、流しのギターマンと一味も二味も違う余裕ぶりだ。「そっとおやすみ」で情感たっぷりにフィナーレと思いきや、ラスト「素晴しい旅行」でロック魂を炸裂。決してペダルを踏まず、我が道を行きまくるところが実に潔い。トリオの歌無歌謡史は、さらにコンテンポラリーにアプローチした72年の2枚を経て、73年にあの問題作で幕を閉じる(4月1日参照。但し、この話には更なる後日談があります…しばしお待ちを…)