黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は麻丘めぐみさんの誕生日なので

コロムビア KW-7021 

ゴールデン歌謡スキャット ときめき/恋の風車 

発売: 1974年2月

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ジャケット+盤



A1 ときめき (麻丘めぐみ) 🅱

A2 恋の風車 (チェリッシュ) 🅳

A3 恋のダイヤル6700 (フィンガー5) 🅲

A4 モナリザの秘密 (郷ひろみ)

A5 突然の愛 (あべ静江) 🅱

A6 愛の十字架 (西城秀樹) 🅲

A7 魅せられた夜 (沢田研二) 🅳

B1 恋は真珠いろ (浅田美代子) 

B2 ひとかけらの純情 (南沙織) 🅲

B3 禁じられた遊び (山口百恵)

B4 恋の雪別れ (小柳ルミ子) 🅳

B5 襟裳岬 (森進一) 🅹

B6 花物語 (桜田淳子) 🅲

B7 一枚の楽譜 (ガロ) 🅳

 

演奏: ジョー&ホットベビーズ (スキャット)/ゴールデン・ポップス

編曲: 河村利夫、山屋清

定価: 1,500円

 

歌無歌謡最大級の異端盤の一つ。スキャット・コーラスを前面に出した盤は珍しくないけど、この盤が狙ってみせたのはお洒落な「パヤパヤもの」とは全く別の境地だ。思えば、サミー・デイヴィス・Jr.を起用した洋酒のCMが大ヒットしていた時期。その流れに乗っかってやろうという商魂が結実した孤高のアルバム。

1曲目から「ときめき」というアイドルポップの極致的楽曲なのだが、オープニングの煽りに引っ張られていきなり炸裂するダバダバスキャット麻丘めぐみ高橋由美子の世界を期待する者をいきなり地獄に引き摺り下ろす。顔の見えない歌声ではあるものの、その技使いはガチすぎる。女性コーラスのサポートが余計下世話な方向に導き、異次元感を高めている。そんな解釈だからこそ、オリジナルでは奥深く埋もれていたモータウン要素が浮かび上がって来て、これもまた筒美マジックだなと(「大事にしてね〜」のとこのコード進行は「またいつの日にか」と同じ、とか)。

ちなみに演奏トラックそのものは、4月22日紹介した『’74ヒット曲要覧』と同じものを流用しており、ギターの代わりにスキャットを入れているのみ。こちらの方が発売が早いので、あちらが使い回ししたのか。確かに「チャチャチャ」の声が入っていないので、間延び感がある。ちなみに、モナリザの秘密」「恋は真珠いろ」「禁じられた遊びの3曲を除く全曲、そちらへの「トラック流用」が認められる。つまり、これら11曲の「純インスト・ヴァージョン」を収録したのが『’74ヒット曲要覧』ということだ。ややこしい…

先にインストヴァージョンの方を聴いていたものの、あまりにもこちらが独自の魅力を放ち過ぎているため、てんで流用の件を疎かにしていたのだが(というか、あちらの盤のメロトロンを使用した4曲があまりにも強烈過ぎて、他の曲の印象が希薄、ってのは確かにあった)、こちらも単にインストものにコーラスを被せてみました、以上のそそり要素がある。ラヴリーな女性コーラスを背についつい浮き足立っている「恋の風車」、キュートなオリジナルをデカダンスで厚塗りしてみせる恋のダイヤル6700。「好きなんだよ~!」の線上にあるオリジナルの強烈さを千鳥足で一蹴してしまう「愛の十字架」、逆に成熟味を加えてまさかの洗練された方向へと運んでしまう「恋は真珠いろ」。想定外のエレガンスを声だけで引き出してしまう「恋の雪別れ」など、意表をつく展開の連続。襟裳岬もこのスキャット1発だけで、ここまで破壊。ユピテル盤のメロトロンを幻聴する余裕さえ与えてくれない。これがヤマかと思いきや、続く花物語。「この花は私です…」と来る代わりに襲いかかる下世話な唸りに思わず眩暈。「一枚の楽譜」も女性陣が張り切りまくり、最高の幕引きだ。ますます、『’74ヒット曲要覧』版の無価値さをエスカレートさせる(爆)。

やはり、スキャットはこうこなくちゃ、と思わせる、スキャットマン登場に20年先駆けた奇跡の名(迷?)盤。一体誰なんだ、このジョンならぬ「ジョー」は。わかんねぇだろうナ…