黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は森昌子さんの誕生日なので

CBSソニー SOLH-37 

歌謡ワイド・スぺシャル

発売: 1973年9月

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ジャケット

 

A1 色づく街 (南沙織) 🅴→7/16

A2 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二) 🅴→7/16

A3 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ) 🅴→7/16

A4 夜間飛行 (ちあきなおみ) 🅱→7/16

A5 恋する夏の日 (天地真理) 🅲→7/16

A6 白樺日記 (森昌子) 🅴

A7 草原の輝き (アグネス・チャン) 🅴→7/16

A8 裸のビーナス (郷ひろみ) 🅳→7/16

A9 出船 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅳

A10 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子) 🅲→7/16

B1 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅴→7/16

B2 ふるさと (五木ひろし) 🅵

B3 燃えつきそう (山本リンダ) 🅴

B4 白い花 (本田路津子)

B5 遠い灯り (三善英史) 🅳

B6 初恋の散歩道 (栗田ひろみ) 🅱

B7 愛のくらし -同棲時代- (大信田礼子) 🅰→7/16

B8 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ) 🅳→7/16

B9 娘ごころ (水沢アキ) 🅱

B10 くちべに怨歌 (森進一) 🅱→7/16

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 土持城夫

定価: 1,500円

 

クリスタル・サウンズ名義で出た歌無歌謡コレクションとしては、2枚目にあたるもの。その後展開される独特の軽さの「礎」が築かれた1枚だ。といっても、7月16日取り上げた『歌謡ワイドワイドスペシャル」に、実に12曲が流用されており…と言えども、あの日は松本隆さんに関する個人的な話と、歌無歌謡にハマるきっかけを語るのに終始しており、肝心の内容について全然説明してない…重要曲に関しては、むしろ次に出たSOLH-38(初期盤は全て『歌謡ワイドスペシャル』のタイトルで統一されていたため、わざわざレコード番号を持ち出すしか術がないのだが、同じ番号で他規格を使用している盤もあり、非常にややこしいのである)の方に集中しているので、そちらのエントリーの方が濃くなりそうだけど、これも相当聴きどころに恵まれている。

のっけから自社強力リコメンド曲「色づく街」なのだが、この軽妙さはオリジナルと全然違う方向性を向いている。軽く奏でられるオルガンに色を添えるギター、重厚に支えるドラム、メロディーを奏でるフルートやハーモニカも、じっくり聴かせるというより流れを軽くしてみましたというニュアンス。Bメロでこれらの音が絡み合う様子が実に微笑ましく、魅力的なヴァージョンになっている。ちょっと危なっかしくなるところも萌えるし。プレイヤー自体が録音現場に不慣れなのか、急造故にラフなまま残したのか。前者ならいいのだけどな。「夜間飛行」も、サウンド全体の軽量化を測ったおかげで、名曲さ加減が気軽に脳に伝わる結果になっている。「草原の輝き」で、待ってましたと出てくるリコーダー。まるで放課後の女学生二人の戯れのような絡み合いだ。「裸のビーナス」は、クラウンのいとう敏郎盤ほどではないがテンポをかなり落としており、自社曲ゆえ慎重な扱いぶりだ。もっと大胆に暴れて欲しかった感もあるが、他の盤を聴けばいいことだし。肝心の「ひとりっ子甘えっ子」はラブリーなフルートを前面に出し、これも慎重なアプローチ。音の切り方に乙女っぽさがあってよろしい。メロトロンを幻聴する必要なし(汗)。「同棲時代」はこの流れの中では異色で、相当ガチなエレガンスの打ち出しぶりだ。

『ワイドワイド』に流用されていない8曲のうち、最大の衝撃をもたらしたのは「ふるさと」ミノルフォン盤がいかに傑作かを語るチャンスがまだ来てないのに、このヴァージョンもかなりの挑発度。いきなりディストーション効きまくりのギターがリードをとっているのだが、その響きに三味線を投影したのか?妙にボトムが効いたリズムセクションも、さりげない自己主張ぶり。なにゆえにこの曲はこうもユニークな解釈を誘発しまくったのだろうか?「燃えつきそう」は表面的には派手さがないように聞こえるのに、さりげなく暴れるピアノや終始呻きっぱなしのクイーカなど、よく聴くと個性の塊のようなサウンド。全体的に、脇役に徹しながらも地道に引っ張っていくドラムのがんばりを讃えたくなる1枚。クリスタルの魅力炸裂だ。ジャケットは5年後ソニーが放つ大ヒット曲を予見したよう…