黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

城みちるさんの誕生日は11月18日

東宝  AX-4017

最新歌謡ヒット

発売: 1974年8月

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ジャケット

A1 愛ふたたび (野口五郎) 🅳

A2 ひとり囃子 (小柳ルミ子) 🅴

A3 黄色いリボン (桜田淳子) 🅳

A4 君は特別 (郷ひろみ) 🅵

A5 透きとおった哀しみ (あべ静江) 🅲

A6 君がまぶしい (城みちる)

A7 ポケットいっぱいの秘密 (アグネス・チャン) 🅴→3/6

A8 追憶 (沢田研二) 🅵→3/6

B1 渚のささやき (チェリッシュ) 🅲

B2 恋と海とTシャツと (天地真理) 🅳

B3 二人でお酒を (梓みちよ) 🅶

B4 恋のアメリカン・フットボール (フィンガー5) 🅴→3/6

B5 ある日の午後 (森山良子)

B6 もう一度 (小坂明子) 🅵

B7 ひと夏の経験 (山口百恵) 🅵→3/6

B8 青春の影 (チューリップ) 🅱

 

演奏: ミラクル・サウンズ・オーケストラ/木村好夫 (ギター)、市原宏祐 (サックス)、岡山和義 (ドラムス)

編曲: 福井利雄

定価: 1,800円

 

いよいよ佳境に入ってきた東宝レコードの「最新歌謡ヒット」、その実像を紐解くうちに新たな闇が…その序章は3月6日語ったユピテル盤『ヒット歌謡ベスト16』。そこで既に出ていた東宝盤との同一テイク疑惑(バックトラック流用も含む)が明るみに出たのだけど、さらに今日紹介する盤とも4曲、テイクが同じであることが判明した。東宝盤の方が、クレジットも明確である分本元であることは容易に推測できるが、ほぼリアルタイムで並列販売を行えた事情は今となっては闇の中だろう。ポリドールとマキシム、ワーナーとトリオの前例はあるとはいえ、この闇はあまりにも深すぎる…

そんなわけで、74年に入るとより時流に歩み寄ったサウンド作りをすることになるミラクルサウンズだけど、ここではさらに走った傾向に入っている。何せ、「ひとり囃子」「二人でお酒を」というマージナルな選曲はあるものの、演歌系をほぼ排除。別途スタートさせた「演歌大全集」シリーズに譲ったということになるのだろうか。主役は若々しさだ。それを強調するのが、歌無歌謡では異例と言えるエフェクターの極端な使用だ。ユピテル盤で「追憶」を聴いた時もうっすら感じたけれど、ここで聴ける他の曲ではより突っ走っており、特に「君は特別」が尋常ではない。ドラムにかなりやばいフェイザー処理をしているのだが、恐らくリヴァーブをかけた音にそれを加えてダメ押ししており、相当狂った響きになっている。ギターもかなりディストーションが効いていて、好夫ギターだとしたらその面影をほぼ完全に歪ませている。ベースも通常のものとシンセ処理をした音を並行して使っているし。全体にリヴァーブとコンプレッサーが効きまくった音作りで、しかも4チャンネルを意識しての音場形成なだけに過剰感があり、グラマラスな感じを強調している。このサウンドで「タイムマシンにお願い」辺りを聴きたかったところだ。ラストの青春の影では、ミラクルサウンズ名物の鍵ハモもフィーチャーされ、好夫ギターが厚化粧を纏いつつサポート。歌のない歌謡曲が場末感を助長する時代は、このまま終わるかもという悲壮感を漂わせる幕切れだ。