黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その30: ウルトラ電子映画音楽

ユニオン ULP-1004

電子オルガンによる映画音楽傑作集

発売: 1970年

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ジャケット

A1 魅惑のワルツ

A2 鉄道員 🅱

A3 エデンの東

A4 禁じられた遊び 🅱

A5 虹の彼方に

A6 白い恋人たち 🅳

B1 ジャニー・ギター

B2 ブーべの恋人

B3 第三の男 

B4 太陽がいっぱい

B5 河は呼んでいる

B6 80日間世界一周

 

演奏: 小島秀子

編曲: 冬木透

定価: 1,800円

 

親しみやすいオルガンのお姉さんのジャケットにそそられて、気楽に聴ける映画音楽の演奏盤だと思って聴き始めると火傷する、そんなキてるアルバムがこれ。なんたって、編曲が冬木透!これだけで、並のサウンドが期待できるわけがない。内側ジャケットには、曲目解説に加え、使用された電子オルガン=エレクトーンEX-21の性能について、そしてノイマンのカッティングマシンに関する非常に詳細な解説が添付されており、テクニカル面でも相当冒険したレコードであることを匂わせているし(その割に小島さんの年齢は秘密にされているが…汗)、トリッキーな音が流れ出てくることは予測していたが、まさかここまでやるとは。

70年といえば言うまでもなく大阪万博の年で、日本全国がスペースエイジに思いを馳せ始めていた。それを気軽に具象化するサウンドとして、電子オルガンはうってつけだったと言えるが(小島さんの他の演奏盤では、「宇宙電子オルガン」と言うクレジットまで見られる)、海の向こうではウォルター(ウェンディ)・カーロスの『スイッチト・オン・バッハ』などがリリースされ、シンセサイザーサウンドが音盤として日本に紹介され始めてもいた。その恐ろしい機械はまだ当然日本に入ってさえいなかったので、最新のテクノロジーと冴えた頭脳をフルに使い、現行の最新鋭のオルガンを極限まで使い倒して、おなじみの映画音楽を素材に同等の先鋭的サウンドを果敢に作り上げた、それがこのアルバムだ。

まったりとした音色で演奏される「魅惑のワルツ」に忍び寄る不吉な影、そして別世界的な彩り。多重録音は言うに及ばず、テープ・エコーや絶妙のミキサー操作、時に他の楽器の意表を突く使用まで動員しての、びっくり箱的展開。エンディングに向けての加速も鮮やかで、絶妙の序曲になっている。鉄道員の途中には不意打ちでポルタメントサウンドが現れ、一瞬だけレールを外れて宇宙に放り出される。禁じられた遊びに於いては、主旋律を奏でるギターはまるでサンプリングの素材のように扱われ、それを覆うミステリアスなサウンドの方が曲の主役に躍り出ている印象。かと思えば、「虹の彼方に」はネイバーフッド・チルドレンのヴァージョンにも通じる軽いポップ性がある。「ジャニー・ギター」ピンク・フロイドに通じる叙情的プログレ化し、「ブーべの恋人」モジュレーションの効きまくった音色で異次元に誘う。途中で出てくる謎の笛の音は、ポルタメント機能を使っているのか、それともスライド・ホイッスルで奏でているのか…このアルバム最大の謎だ。「第三の男」ではいきなりのディストーションの効いた低音に幻惑され、ザ・バンドのヴァージョンさえ地味に感じさせる解釈。ちょっともつれ気味のプレイに乙女っぽさを感じる。さらに凄いのが太陽がいっぱい。正にマジカル・ミステリーなサイケデリック感で、現代音楽の域に達している。マゴット・ブレイン化した太陽の音響化だ(タイトルの仏文表記が一貫して "PLAIN SQLEIL"になっているが、「Q」…もしかして確信犯か?)。

ここまでやばいサウンド演出を「歌のない歌謡曲」のレコードで行った例はおそらくないと思われるが、性急さが勝負の分野故それは無理だったか。やって欲しかった気はするけど。ここまでやった小島さんは強い。