黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1978年、今日の1位は「季節の中で」

セブンシーズ SKS-56 

君は薔薇より美しい

発売: 1979年

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ジャケット

A1 いい日旅立ち (山口百恵) 🅲

A2 季節の中で (松山千春) 🅲

A3 夢想花 (円広志) 🅳

A4 LOVE [抱きしめたい] (沢田研二) 🅱

A5 燃える秋 (ハイ・ファイ・セット)

A6 プレイバックPart 2 (山口百恵) 🅳

B1 君は薔薇より美しい (布施明) 🅱

B2 みずいろの雨 (八神純子) 🅱

B3 青葉城恋唄 (さとう宗幸) 🅲

B4 ANAK [息子] (杉田二郎) 🅱

B5 信天翁 (谷村新司)

B6 遥かなる恋人へ (西城秀樹)

 

演奏: ジーノ・メスコリ・グランド・オーケストラ

編曲: ジーノ・メスコリ

定価: 2,500円

 

シリル・ステイプルトンやアルフレッド・ハウゼなど、海外のオーケストラ・リーダーが歌謡曲や日本のメロディーにアプローチしたアルバムは、時折市場に現れては消えて複雑な感情を残すものだけど、79年リリースされたこのアルバムはちょっと毛色が違う。イタリアン・ポップスの裏方として大活躍したジーノ・メスコリが、世界歌謡祭出演のため何度となく来日するうちに話が盛り上がり、制作の運びとなった歌謡カヴァー・アルバムで、78年12月に現地のスタジオで制作されている。タイトル曲君は薔薇より美しいは翌年1月17日に発売されているので、当然完成した音源を参考にできるわけはなく、急遽譜面を送ってのアレンジ作業だったようだ。他の曲に関しては、オリジナル音源も参考資料にされたのではと推測される(8/27の武市昌久氏インタビューを参照のこと)。あまりにもこのアルバムの制作で盛り上がったため、次作のために布施明沢田研二、森進一がオリジナル自作曲を提供という計画も進んでいたそうだが、果たして実現に至ったのだろうか。

勿論、現地での制作(価格帯も当時のレギュラー・新譜アルバムのものに設定されており、本ブログの対象では異例)であるから、ガチなヨーロピアン・サウンドに当然の如く昇華されており、生半可な場末インストとは惑星間程の差がある。いい日旅立ちにしたって、まるでヨーロッパ鈍行列車に乗って、色とりどりの花が咲く絶景を駆け抜けているイメージだ。所々原曲のアレンジを匂わせているところが、ジーノのリスペクト精神の成せる技であろう。「燃える秋」は驚くなかれ、このヴァージョンによって歌無歌謡作曲家リストに「武満徹」の名前が仲間入りしたわけである。通常の歌無歌謡の範疇では手を出し辛い、独特の高貴感がちゃんと生きている。その後が「プレイバックPart 2」というのがいかにも。これはやはり原曲を聴いてないとできないアレンジだ。そこにエレガントなストリングスやら、声まじりの熱いフルートやらを放り込んで、余計疾走感を高めている。タイトル曲はやはり譜面だけのアレンジというのが裏目に出たか、美麗な感じは満開しているものの、オリジナルの躍動感を再現できてないのが惜しい。逆に青葉城恋唄」はテンポアップしたおかげで、本来見えてこない風景までを見せてくれる。たまには、こういう世界を覗き見してみるのもいいでしょう。