黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は森進一さん、森本太郎さんの誕生日なので

ミノルフォン KC-16 

むせび泣くアルトサックス 君がすべてさ

発売: 1969年5月

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ジャケット

 

A1 君がすべてさ (千昌夫) 🅱

A2 愛するってこわい (じゅん&ネネ) 🅱

A3 年上の女 (森進一) 🅵

A4 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅲

A5 渋谷ブルース (バーブ佐竹)

A6 青い鳥 (ザ・タイガース)

A7 夕月 (黛ジュン) 🅵

B1 雨の新宿 (大木英夫・津山洋子) 🅱

B2 旅路のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 

B3 朝のくちづけ (伊東ゆかり) 🅳

B4 花になりたい (奥村チヨ)

B5 誰もいない処で (小川知子) 🅲

B6 天国の恋 (三沢あけみ)

B7 今は幸せかい (佐川満男) 🅴

 

演奏: 佐野真一郎とセブンスターズ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

激しいやつの翌日は柔らかいやつを。

複数の芸能人の誕生日が重なっていて、その両方の曲が同じ歌無歌謡アルバムに含まれているという例、意外とあってこれで本ブログ3回目だ。都合いいことにタイガースの曲は森本太郎作品「青い鳥」だし。なかなか、誕生日のメンバーに相応しい曲を選べるチャンスって巡ってこないものなんです。

ブルーナイト・オールスターズを編成する前のミノルフォンは、試行錯誤しつつユニークな歌無歌謡アルバムをぼちぼちリリースしていたけど、これもそんな1枚。テナー・サックスに比べるとあまりフィーチャーされることのないアルト・サックスの優しい音を前面に出しての69年ヒット曲集。まさに「むせび泣き」というか、ちょっと峠を越えかけた女性の哀愁的なものを想起させる音色で、この頃の曲の哀愁メロディにぴったりはまっている。まずアルトという言葉に決定的に弱いからな(笛好きとして…汗)。サウンド全体も派手になりすぎず、場末感を生かしつつ手堅い。クラビオリンかと思いきやそれ風の音色に設定しているオルガン(ちゃんと和音も弾いているし)の音が、さらに哀愁を高めているし、地味ながらドラムも健闘している。クレジットを見たら編曲・福山峯夫だ…クラウン感あるのもしょうがないですね。

気づいてみれば、全曲マイナーキーだ。ここまで徹底して「泣き」を強調したアルバムは他にあるだろうか。「年上の女」でタイトルフレーズを1オクターブ上げてみせるところが、いかにも「むせび泣き」の真髄だし、「渋谷ブルース」から「青い鳥」への転換もそれほど違和感ない。サックスを2重録音して、ジュリーとタローのデュエット効果を出しているが、チージーなオルガンの音がオリジナルと異質さを醸し出している。この音で「夕月」のイントロを奏でられると、意外にも「ガダ・ダ・ヴィダ」感が浮かび上がるのだ。「恋の奴隷」前夜の曲「花になりたい」の選曲も意外っちゃ意外。自社推し曲も4曲あるが、これらの選択は手堅い方で、あっと驚く曲演ってたりする例はいくらでもありますからね、ミノルフォンには(極端な例の一つを来月紹介予定)。

ジャケット、このさりげなさがたまらないのだけど、開いてみるとまさかの展開に…哀愁とエロスは背中合わせ、ということか。