黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1972年、今日の1位は「女のみち」(4週目)

アトランティック QL-6072A

ふたりの日曜日・おきざりにした悲しみは 華麗なるヒット・バラエティー・ベスト20

発売: 1973年1月

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ジャケット

 

A1 ふたりの日曜日 (天地真理)Ⓐ 🅱

A2 早春の港 (南沙織)Ⓐ 🅱

A3 雨のヨコハマ (欧陽菲菲)Ⓐ 🅱

A4 あなたの灯 (五木ひろし)Ⓒ 🅳→10/23

A5 冬物語 (フォー・クローバース)Ⓐ

A6 雨に消えた恋 (野口五郎)Ⓒ 🅰→4/1

A7 潮風の吹く町 (森田由美恵)Ⓐ

A8 そして神戸 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓒ 🅲

A9 少女 (五輪真弓)Ⓒ

A10 漁火恋唄 (小柳ルミ子)Ⓒ 🅴

B1 おきざりにした悲しみは (吉田拓郎)Ⓐ 🅱

B2 あなたへの愛 (沢田研二)Ⓐ 

B3 じんじんさせて (山本リンダ)Ⓒ 🅲

B4 あなたが帰る時 (三善英史) Ⓒ 🅱

B5 まごころ (堺正章)Ⓒ

B6 何処へ (渚ゆう子)Ⓐ

B7 女のみち (宮史郎とぴんからトリオ)🅰→4/1

B8 喝采 (ちあきなおみ)Ⓒ 🅳

B9 折鶴 (千葉紘子)Ⓑ 🅰→7/1 (ミックス違い)

B10 放浪船 (森進一)Ⓐ 🅴

 

演奏: ブリリアント・ポップス77

編曲: 青木望Ⓐ、西田晃Ⓑ、原田良一Ⓒ

備考: RM方式4チャンネル・レコード

定価: 1,800円

 

ワーナーの「ヒットバラエティー」ものの3枚目で最後にあたるリリース。音の坩堝という点では「華麗なる~」シリーズの中でも最高峰というべきもので、曲毎にクレジットはされていないものの、いつもの面子に加えて石川鷹彦(ドブロ・ギター)、宇都宮積善(大正琴)、山ノ内喜美子(京琴=この名義、また「山之内」名義でのクレジットさえ時折あることで、本人は黙認していたのだろう)、村岡実(尺八)といった名人が、フィーチャリング・アーティストとして名を連ねる。曲を聴けばどこで前面に出てくるか一目瞭然だけど、「早春の港」みたいにこれらの楽器(サックス、ギター、ドラムまで含めて)が前面に出てこない例もあって、これもまた「バラエティー」特有の現象であろう。おなじみの面子をフィーチャーした曲は、例によってそれぞれのアルバムから曲が引っ張ってこられている。

ワーナー・ビートニックス名義ではないので、全体的にオーケストラがしっとり引っ張っていく曲が多いが、まず異質の展開が訪れるのは冬物語で、エレガントなサウンドの中を気怠いドブロ・ギターが吹き抜けていく。スワンピーな色合いが出てくるのが、いかにも洋楽レーベルの意地か。続く「雨に消えた恋」はベースがリードをとるというやばいヴァージョンで、本盤と同時発売された孤高の1枚『華麗なるビート・ベース・ヒット』(QL-6073A)から流用されたもの。これはワーナー・ビートニックス名義の録音ではあるけれど、便宜上ここではその名義は端折られている。さらにこの曲もまた、トリオの2枚組(4/1参照)に流用されているのだ。「潮風の吹く町」は選曲そのものが貴重。宇都宮積善の大正琴も、ビクターの「雨」並みに攻めたサウンドで鳴っていたら、もっと面白かったのに。

「漁火恋唄」はドラムが自棄気味に弾ける例のヴァージョンよりちょっと軽い演奏で、これもベースがやたら前面に出ている『華麗なるビート・ベース・ヒット』からのテイク。イントロがミレニウムベース気味でちょっぴりサイケだ。「じんじんさせて」も同アルバムからで、ここに入れられると超異質な疾走する大ハードロック・ヴァージョン。この音の塊の中にグロッケンシュピールが入っているのが、いかにもビートニックスらしい。「何処へ」大正琴をフィーチャーしながら、多彩な音を配合して面白いカラーを編み出す。やはり「雨」並の攻めは感じられないのだが…

さて問題は続く「女のみち」だ。こちらも例のトリオの2枚組で早々と言及したのだが、ここで山内さんが初登場する。京琴に合わせて、ミュージック・ソーが唸りを上げ、とんでもないサイケ世界に導くのだ。全体的に簡素化された音作りながら、コード進行をお洒落な感じに変えていたり、逆にせこくした箇所もあって、この予期せぬミリオンヒットにあり得ない味付けをしてやると言う意気込みを感じる。他のぴんからの曲もそうだが、歌無ヴァージョンを色々聴いて、彼らの曲ってなんか総じてレゲエっぽいテイストがあるなとしばしば思わされるのだ。本人たちは絶対意識していないと思うけど。

ベースがヘヴィな喝采(おかげでレゲエ色は微塵もない)を経て、過去にも「バラエティー」盤に登場している「折鶴」は、テイクこそ同じだがエコーが浅い別ミックスになっている。そちらの盤ではSQ方式4チャンネルを採用していたので、ミックスを変えるのは当然の処置だったと思うが、こういうこともあるのでワーナーの曲ダブりは軽視できない。後に普通のステレオとして出た盤で、以前に4チャンネル盤で出していたミックスをそのまま収録というせこい例もあるにはあるが。最後の最後、韓国の民族楽器まで持ち出し、ちょっとサイケ・ロック的方向性を出した「放浪船」で、やっと尺八が登場し、この音の坩堝に幕を下ろす。