黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その36: 追悼…マイク・ネスミス

テイチク BL-1028

ニュー・ヒット・ポップス・ベスト10 ローズ・ガーデン

発売: 1971年   

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ジャケット

 

A1 ローズ・ガーデン (リン・アンダーソン) 🅱

A2 シルバー・ムーン (マイク・ネスミス&ファースト・ナショナル・バンド)

A3 イエロー・リヴァー (クリスティー)

A4 アー・ユー・レディ (グランド・ファンク・レイルロード)

A5 ソルジャー・ブルー (バフィ・セント・メリー)

B1 マザー (ジョン・レノン)

B2 レット・イット・ビー (ザ・ビートルズ) 🅵

B3 嵐の恋 (バッドフィンガー)

B4 愛の経験 (シルヴィ・ヴァルタン)

B5 ブラック・ナイト (ディープ・パープル)

 

演奏: ブルー・ロック・ファイブ

編曲: 穂口雄右

定価: 1,000円

 

ザ・モンキーズのメンバーだったマイク・ネスミスが、10日息を引き取った。数日前まで、生き残ったもう一人のモンキー、ミッキー・ドレンツと共に「フェアウェル・ツアー」を敢行し、今度こそその栄光の歴史に幕引きをするのかと切ない気持にさせたが、まさかその終了が彼の生涯の終わりをも告げてしまうとは予測できず、実に途方にくれている。

 

楽家として以上に、哲学者としてのマイクに惹かれていた。TVショウ「ザ・モンキーズ」に於いても、プロットの一部でありながら含蓄を含む言葉を幾度も発し、シリアスな一面を持ち込むことが度々あったし、他のメンバーに対する影響力も半端なかっただろう。ほぼ全てをメンバー自身の演奏で賄ったサード・アルバム『ヘッドクォーターズ』は、その極致とさえ思えた。しかし、個人的には映画「HEAD」で見られるこんなシークエンスに尽きる。

得体の知れないトリップ(マイクやスクリーン上にいる誰かのというより、観る者自身がいつしか誘い込まれているトリップ)の最中、いつの間にか誕生日パーティの狂乱に誘い込まれ、頂点に達したところでマイクが言い放つ。

「たかが誕生日ってのにこんなに浮かれやがって、ケッ!何がハッピーだよ。ついでに言っとくけど、クリスマスとて同じことだよ。」

その後、場面がとんでもない方向に向かうがその話は置いといて、このブログ。毎日毎日誰かの誕生日を祝っといてなんなんだが、ただ単にその人の曲が歌無しで演奏されているレコードを引っ張り出して、その業績を讃えることもなく浮かれているだけだ。自分が好きでやっているからそれでいいんだけど、マイクの一言がぶっ刺さる。

 

皮肉なことに、今日と次回の「歌謡フリー火曜日」は、所持する数少ない歌無クリスマス・アルバムを引っ張り出して、ホリデー気分に火を付ける予定だったが、今日に限ってはそれを諦めることにした。こんな日にこそ語りたいレコードが残っていた。「はじめに」で明らかにした「隠しポリシー」に反する行為ではあるが(実は今月に入ってから1度だけ、事情によりそのポリシーに刃向っていたのだが)、それが何であるかはもう少しだけ黙らせて下さい。

 

度々取り上げているテイチクの「BEST and BEST」シリーズの1枚で、このシリーズの中では最も過激な内容と思われるアルバムだ。例によって得体の知れないユニットのクレジットになっているが、最早日本ロックのホーリー・グレイル盤の1枚と化しているピープル『セレモニィー~ブッダ・ミーツ・ロック』と、時期的にもレコード会社も合致しているのがミソ。アレンジを手掛けた穂口雄右以下、ギターに水谷公生、ベースに武部秀明、ドラムに田中清司という、例の面子の演奏ではなかろうか。「ファイヴ」となっているので、曲によってギターかキーボード、パーカッションにもう一人加わっている模様。

トップに針を落とすと、いきなりのフリーキーなギターが暴発。「花・太陽・雨」のイントロのあの音で、あれ、「マザー」はB面トップだったはずだが…と妙な気分になっていたら、約1分経ってローズ・ガーデンが始まる。イントロのリフのブルーノートを完全に長調に直し、それだけでも妙なムードが生成されるが、曲自体も完全にニューロックのノリだ。エンディングにもちょっとしたギミックがあって、ぶっ飛びながらのセッションを想起させる。続く「シルバー・ムーン」は、もう選曲だけで泣いてしまうしかない。この名曲を破壊しきることもせず、素直にニューロック化。歌無歌謡仕事では聴けない、伸び伸びしたフリー・スピリットが充満した音だ。「アー・ユー・レディ」(最初曲名だけ見たときはPG&Eの曲の方かと思って熱くなったが、やはりGFRの方でした)では、アウト・キャストの「のっぽのサリー」でおなじみ穂口シャウトが炸裂。御本人がTwitterで明かすまで、あれ轟シャウトだって信じ切ってましたからね…(汗)。

「マザー」はA面トップを遥かに凌ぐフリークアウトからスタートするが、曲本体はオリジナルより軽めにまとまっている。エンディングの狂気まで再現して欲しかったが…「レリビー」は原田寛治ヴァージョンと比べてもまだイージーリスニングな印象。アップル3連発はとどめに「嵐の恋」まで引っ張り出したが、これは選曲そのものが貴重、以上のものではない。Bメロが半分になっちゃってるし。最もポピュラー寄りの選曲と言える「愛の経験」は偏屈そうな演奏と思わせておいて、突如挿入される喘ぎ声に悶絶する。プロデュースする側も色気を出してきたか?ラストの「ブラック・ナイト」は忠実な演奏の上、メロディを省いており、カラオケとしても使える。間奏にはまたも強烈なシャウトが。これと「アー・ユー・レディ」のポジションを入れ替えたら、A面の流れに完全な統一性ができたのにね。

 

「何故か本出した…何故かヒットした…」とついつい歌ってしまいそうなこの曲の登場も個人的にタイムリーではあるのですが、それはまた別の話。リアルタイムで流行っている曲を楽しみながら消化できるミュージシャンシップも、もう帰ってこないだろう。ありがとう、12月の旅人たちよ。