黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は早川義夫さんの誕生日なので

東芝 TP-7595

ギター・ヒット速報 京のにわか雨

発売: 1972年

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ジャケット

 

A1 京のにわか雨 (小柳ルミ子) 🅻

A2 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅹

A3 ひとりじゃないの (天地真理) 🅻

A4 風の日のバラード (渚ゆう子) 🅵

A5 陽はまた昇る (伊東ゆかり) 🅳

A6 サルビアの花 (もとまろ) 🅳

A7 純潔 (南沙織) 🅸

B1 ゴッドファーザー愛のテーマ (尾崎紀世彦) 🅶

B2 ふりむかないで (ハニー・ナイツ) 🅳

B3 さよならをするために (ビリー・バンバン) 🅵

B4 待っている女 (五木ひろし) 🅴

B5 別れてよかった (小川知子) 🅱

B6 素足の世代 (青い三角定規) 🅱

B7 鉄橋を渡ると涙がはじまる (石橋正次) 🅲

 

演奏: かなり良悟/ダイアモンズ

編曲: 荒木圭男

定価: 1,500円

 

僚友のミュージシャン、くつしたさん経由で一時期一気に距離が近づいた感もある、レジェンド・早川義夫さん。一時は熱心にライヴ観に行ったり、今振り返れば胸が熱くなる出来事もいくつもあったし(目撃した共演者のうち二人は既にこの世にいないし、「加藤和彦さんを偲ぶ」の項で記した件も忘れられない)、御本人のライヴ活動引退宣言がなければ、関わっていたロックフェスにお呼びするとこまで漕ぎ着けてたと思います…もうほんと、重要なお方です。

歌無歌謡のような通俗的な世界に、この人の音楽が着地するわけないと思ったら甘い。本作が既に当ブログ4回目の登場となる名曲サルビアの花」を忘れちゃいけません。傑作アルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」(69年)で初出となったこの曲、学生フォーク・サークルに歌い継がれ、71年にヤマハ銀座店を活動拠点とする学生フォーク&ロック共同体「GYM」が自主制作したサンプラー・アルバム『創刊號』に登場(最早世界的サイケ・フォークのコレクターズ・アイテムと化しています…フル復刻は無理ではないと見ているのですが)。このヴァージョンが評判となり、メインで歌った女子大生3人のユニット「もとまろ」名義でメジャー発売するや否や大ヒット(オリコン11位)。岩渕リリ、川奈真弓らのヴァージョンが後を追い、アルバムでカヴァーするメジャー歌手も続出しました。

ここまで絶望的な内容の歌を清楚なムードに包んで受けてしまうというのがいかにも当時ですけど、早川さんが怒ってたという通説も一部で流されたようで、それこそ今なら「炎上騒ぎ」みたいなもの。後に本人が否定していますが、こういう歌無ヴァージョンに対してはどうだったんでしょうかね。深く考えずに聴けばそれでいいのですが…

もとまろ盤の、元々メジャー指向の薄い幻惑的なアレンジに追随した解釈が多く、このかなり良悟盤も例に漏れず。ジェントルなギターの響きが深いもやの奥に溶けていきそうで、しみじみ心に響いてきます。他の収録曲も、派手さを抑えた響きに統一され、好夫ギター程のテクニカルな揺さぶりもなし。ジミー竹内を筆頭に、東芝内でも複数の歌無歌謡盤で競った選曲ですけど、無難さという点ではこれが一番かも。「待っている女」の空回りしているような女性コーラスがちょっとご愛敬という感じだ(間奏のトランペットは、よくできました)。続く「別れてよかった」が個人的にはベストトラックかな。「素足の世代」はやっぱりマキシム(&ポリドール)盤には勝てないな。