黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌無歌謡?それはもちろん…

テイチク SL-1386

ロマンチック・ギター ベンチャーズ歌謡を歌う

発売: 1972年9月

ジャケット

A1 もうすぐ…故郷 (林美果)

A2 さすらいのギター (小山ルミ) 🅳→1/21

A3 雨の御堂筋 (欧陽菲菲) 🅺

A4 長崎慕情 (渚ゆう子) 🅷

A5 あの人はいま札幌 (李朱朗) 🅱

A6 恋の湖 (桐山和子)

B1 回転木馬 (牧葉ユミ) 🅱

B2 京都の恋 (渚ゆう子) 🅸

B3 二人の銀座 (山内賢和泉雅子) 🅱

B4 北国の青い空 (奥村チヨ) 🅱

B5 京都慕情 (渚ゆう子) 🅵

B6 明日へ走る (一番星)

 

演奏: カンノ・トオルとオーケストラ

編曲: 福島正二

定価: 1,500円

 

ベンチャーズサウンドニューロック側からアプローチしたアルバムは、既に「歌謡フリー火曜日」の14回目で取り上げていますが、こちらは正真正銘、ベンチャーズ側が歌謡界にアプローチした作品を集め、インストでカバーしたアルバム。と言えども、全曲がベンチャーズ作品であるとは限らず、まぁ敢えてどの曲とは言いませんが(『ダイナミック・ベンチャーズサウンド』と唯一共通する選曲というのも皮肉)、ベンチャーズがその曲を取り上げたのも歌謡界からの働きかけがきっかけという話なので、ここに入っていても違和感はありません。歌謡曲的側面を強調するという意味では、カンノ・トオルの起用はまさに適役と言えそう。慎重で派手になりすぎないギターサウンドは、曲そのものの魅力を的確に伝えています。

99年にM&Iカンパニーから発売されたコンピ『ベンチャーズ歌謡大全』と実に8曲が共通していて、いずれも納得のクラシックス。スリーパーと言える李朱朗と桐山和子の曲は、同コンピ収録曲よりこちらに選曲されている曲の方が若干ポピュラーかもしれません。それらを差し置いてトップを飾るのが、自社推しの新人・林美果のデビュー曲「もうすぐ…故郷」。これはベンチャーズ歌謡としてはかなり冒険に出た方の曲で、いまいち盛り上がりに欠けたのも仕方ないところ。別のアルバムに山内さんの琴をフィーチャーしたヴァージョンが入っていて、そちらの方がサイケさを感じさせ成功しているかも。以下、おなじみの曲も72年形のスムーズなサウンドで突っ走っており、特に初のベンチャーズ歌謡として名高い「二人の銀座」はかなりの厚化粧ぶり。シャープなバスドラの響きに、ロック文明開化時代はもう遠い昔なのかと感慨が深くなります。

こうして一つの流れで聴くのもいいけれど、多種多様なヴァージョンを集めて独自のプレイリストを作るのも楽しそう。個人的にはやはり、ラバー・クリエイション・シリーズの1枚『ヒット歌謡エクスプレス/お祭りの夜』で初出となった「長崎慕情」の「うーうー」ヴァージョンにとどめを差したいですね。「京都慕情」はこのアルバムのヴァージョンが最強ではないでしょうか。