黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

梢みわさんの誕生日は2月25日

大映 DNL-507

小樽のひとよ ヒット歌謡をモダン尺八で

発売: 1968年10月

ジャケット

A1 小樽のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅳

A2 エメラルドの伝説 (ザ・テンプターズ) 🅱

A3 星を見ないで (伊東ゆかり) 🅶

A4 恋のバイカル (梢みわ)

A5 愛の園 (布施明) 🅶

A6 あなたのブルース (矢吹健) 🅲

B1 座頭市子守唄 (勝新太郎) 🅱

B2 恋のときめき (小川知子) 🅷

B3 天使の誘惑 (黛ジュン) 🅴

B4 小さなスナック (パープル・シャドウズ) 🅲

B5 蒸発のブルース (矢吹健) 🅱

B6 花と蝶 (森進一) 🅶

 

演奏: 村岡実 (尺八)/ロイヤル・ポップス・オーケストラ

編曲: 池田孝

定価: 1,800円

 

最初の一年、「演歌大全集」やワーナーの「ヒット・バラエティー」のような部分的起用作はあったものの、なかなか全貌にたどり着けなかった村岡実先生の尺八。コロムビアの『尺八ロック』やビクターの『衝撃のエレキ尺八』のような真に冒険的なアルバムに、和モノという視点から思わぬ脚光が当たり、最早4桁単位で入手することさえ難しいというまさかの事態になってしまったが、それで黄昏みゅうぢっくの視点が打撃を受けるわけでなし。68年のうちに早々と行われていた、ポップスとの融合による野心的なアルバムが、無事箱買いにより手許にやってきました。といっても、収録曲の内4曲を抜粋したコンパクト盤『座頭市子守唄』は、94年の段階で早々と入手しており、「エメラルドの伝説」は頻繁にDJで流してもいたし、親しみは強かったわけで。やっと時代が追いついた、と言っちゃいけないか。

安易にポップスとの融合は野心的と言ったけれど、尺八の出音メカニズムを把握してる人ならわかるはず。普通に西洋音階で書かれた曲を、簡単に演奏できるものではないのです。個人的な話になりますが、宗内の母体のバンドRacco-1000で共に活動しているサラさんが、正にその道の専門家で、原料になる竹の段階からディグすることに、コロナ禍になるしばらく前まで熱心に取り組んでいました。彼女が制作した尺八のうち一本を譲られて、笛好きなりに奏法にアプローチしたのはいいけれど、やはり思うようにはいかない。それでも、野平ミカ「にくいあいつ」のイントロをなんとか奏でることができた時は、感動の渦に襲われたわけで。なので、尺八に対しては生半端な思い入れじゃ済ませられません。

このアルバムのライナーノーツでは、68年当時フルートがポップス界で脚光を浴びていたのに続き、「ブロックフレーテと呼ばれる縦笛」(つまりリコーダーね)の人気が高まっていたことに触れられており、それだけでも驚きだが、その延長線上に尺八を位置させているのに目から鱗。それを踏まえた上で、これを使っての西洋音楽へのアプローチにいかに工夫が必要かが力説されている。それを納得させるための目の覚めるようなプレイと、大映レコードだからできた大胆なサウンドアプローチが、アルバム全体に敷き詰められているのだ。トップの「小樽のひとよ」から、空気を豹変させるような息遣いが音像を彷徨い、エフェクターを全く使っていないのにこの響きにはびっくりだ。恐らく、マイクのセッティングを特殊にしているのではと推測されるが。その後は、選曲面で意表を突きながら大冒険の連続。「エメラルドの伝説」でも、クラシカルなサウンドに導かれつつ、ショーケンの歌声を再現しているし、「星を見ないで」もリヴァーブをうまく使い、スペイシーなサウンドの一部になっている(山倉色濃厚に聴こえるのは気のせいか…まぁ、ノーチェ同志の池田氏編曲だし)。続く「恋のバイカル」は選曲だけでも胸熱すぎる、純GSグルーヴに尺八が映えまくり。サイドに入る超高音は、テープ早回しとかではなく、それに応じた短いサイズの尺八「ひとよぎり」を使用した演奏で、まるでオルガンのような効果を上げている。「あなたのブルース」は、藤本情念ワールドを通常の尺八と「ふかなさけ」尺八の絡みで再現。執拗に絡んでくるトランペットに煽られ、セクシーな夜の色が赤裸々に描かれている。

A面だけでもお腹いっぱいだが、B面はまず座頭市子守唄」で本領発揮しまくり。かえってヨーロッパ的なムードが出ているのがいい。「天使の誘惑」はタメがなければ実にブロックフレーテ的と言える、キュートな表情を見せ、ハワイアン色の濃い演奏とマッチしている。「小さなスナック」では、超高音の「ひとよぎり」が大活躍。ディストーションをかけたリコーダーのようにも聴こえるが、なんとなくドゥドゥクっぽい音でもあるし、そこに絡む女性スキャットがたまらなくキュート。そこから、再びの藤本ワールド「蒸発のブルース」に落す。この曲の当初のタイトルが最早デリケートな領域を侵す危ないものだったことには、先の4曲入り盤の解説でも触れられていたが、そのヤバさを再現するような響きだ。ギターは確実に好夫だと思われるが、どうなのだろうか。サイケに彩られた尺八で奏でられる「甘いしらべ」に酔いしれたら、普通の乙女には戻ってこられませんよ。きっと、実践したくなると思いますよ(えっ)。