黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1972年、今日の1位は「悪魔がにくい」

MCA JMC-3008 

最新歌謡曲ヒット速報第二集 瀬戸の花嫁

発売: 1972年5月

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ジャケット

A1 ふたりは若かった (尾崎紀世彦) 🅸

A2 ちいさな恋 (天地真理) 🅵

A3 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🅽

A4 悪魔がにくい (平田隆夫とセルスターズ) 🅰→4/10

A5 京都から博多まで (藤圭子) 🅲

A6 別れの朝 (ペドロ&カプリシャス) 🅰→4/10

B1 かもめ町みなと町 (五木ひろし) 🅰→4/10

B2 今日からひとり (渚ゆう子) 🅷

B3 だから私は北国へ (チェリッシュ) 🅲

B4 黄色いシャツ (浜村美智子) 🅱

B5 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅹

B6 終着駅 (奥村チヨ) 🅵

 

演奏: MCAサウンド・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,500円

 

わずかな活動期間ながら、日本のポップス史に残る重要課題を多数突き付けたビクターのMCAレーベルに残された歌無歌謡アルバム5枚中最後のもの。コンソールをジャケットに大々的にフィーチャーし、質の高さを提示したこのシリーズも、もっと長く続くと思いきや、レーベルの活動停止(洋楽レーベルとしては、84年にワーナーに移籍するまで継続したが)でストップしてしまったのが残念。元ヴィレッジ・シンガーズの笹井一臣氏が制作に関与していたのは確かなので、ビクター本体に移ってから彼が手掛けた歌無盤があれば、そこにこの2作のスピリットが受け継がれたのでしょう。

このシリーズ第2弾、アレンジャークレジットがないが、前作から引き継がれた3曲の存在を考えると、土持城夫氏が手掛けている可能性は大。ただ、「京都から博多まで」のようにカラーが違う曲もあって、断定できない。とにかく、質の高さは前作を凌ぐものがあり、オープニングの「ふたりは若かった」から超強力。バスドラが鼓膜を震わせ、エフェクトをかましたサックス(海外のインスト盤では “Varitone Sax”と表記されることが多いが、日本語表記するとバリトン・サックスと紛らわしくなるので避けたい)が吠えまくる。サビではさらにディストーションたっぷりのギターが加わり総アタックをかます。どの音もシャープに録られ、ストリングスは奥行き感たっぷり。まさにスタジオ全体が一丸となった音の洪水。筒美京平に「勝った」ヴァージョンの一つと言いたい。

「ちいさな恋」は対照的にラブリーなムードで迫るが、イントロの前にちょっとだけ入るドラムがなんとも心憎い、木陰から若い男女の様子を覗き見しているような感覚を醸し出す。そして、苺のようなフルートの音色。乙女の純情を高度な音楽的技術で見事に描き切っている。瀬戸の花嫁のイントロのあの音は、ギターを逆回転して出しているのだろうか、ちょっと他の盤と趣が違う。オルガンの音は5月22日紹介のエルム盤に酷似しており、エルムの制作者はこの盤を聴いてインスパイヤされたのだろうか?ライトでポップな2曲を経て「黄色いシャツ」は珍しいMCAの自レーベル推し(?)。浜村美智子がカムバック作として取り上げた韓国メロディーである。ベースの暴れ方など、同じMCAの小野階子(後に鈴木邦彦先生の奥様に)のレコードに通じるテイストだ。突っ走りまくる「恋の追跡」にしっとりした「終着駅」で、安定の幕引き。歌無歌謡でも容赦しないこの制作姿勢、もっと続けて欲しかったけど、レコード業界の掟は厳しい。このアルバムの原盤権は、商標の都合上現在はユニバーサルが所持しているはず。