黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

7が3つ並んでも幸運はもたらされない時もある

ビクター SJV-777

おんなの運命 ヒット歌謡ベスト・12

発売: 1975年1月

ジャケット



A1 おんなの運命 (殿さまキングス) 🅻

A2 さみしがりや (梓みちよ) 🅳

A3 冬の駅 (小柳ルミ子) 🅷

A4 みれん (五木ひろし) 🅹

A5 愛の詩を今あなたに (布施明) 🅳

A6 美しい朝がきます (アグネス・チャン) 🅴

B1 理由 (中条きよし) 🅸

B2 愛の終末 (チェリッシュ) 🅲

B3 小さな生命 (ルネ) 🅱

B4 よろしく哀愁 (郷ひろみ) 🅲

B5 海鳴り (内山田洋とクール・ファイブ) 🅱

B6 涙と友情 (西城秀樹) 🅳

 

演奏: ビクター・オーケストラ

編曲: 土持城夫

定価: 1,800円

 

何なんだこの謎の文字…と思ったら、下に鏡像をあしらっているという斬新なデザイン。しかし、75年以降のビクターのネタとなると、意欲が萎えるんですよね。ルーティン的に12曲入りの「ヒット速報」的盤をリリースするに留まり始めるし、その内容もミノルフォンソニー程くすぐってくれません。曲数が少ない分、音質的に安定感があるというのが僅かなメリットではありますが。

そんな先入観を覆してくれたでかい買い物が、今回の潜伏期間中にありました。日本メールセンターがリリースした通販のみの10枚組『愛と青春のバラード~シクラメンのかほり。これはめちゃ美味しいです。ポップス、フォーク、演歌、愛唱歌と解りやすいカテゴリー分けがなされていて、市販盤用の録音を再構成しているのは明白だけど、これ一箱あれば70年代中期のビクター音源を総括できると思っていいでしょう。今日取り上げる盤からも「冬の駅」「みれん」「愛の詩を今あなたに」「美しい朝がきます」「よろしく哀愁が再収録されていますが、なぜかそちらの盤の方がマスタリング状態がいいし、盤質もほぼ新品のものが巡ってきて有難い。あと、谷口世津「わたし」、山本明「君を奪いたい」なんかが入っているので胸熱になります。これらは市販盤用に録られたけれど、惜しくも入れる余地がなかったみたいな例でしょうか。クリスタルみたいに無茶して20曲入れる傾向を避けつつ、なるべく多く候補曲を用意しておくポリシーだったのかもしれません。これだけ充実した内容ながら、「ひまわりの小径」を「さわやかなヒット・メロディー」版で収録していないのが惜しいし、メロトロンズを採用してくれてもよかったのに(汗)。

ここではポリシー上取り上げない通販ボックスに対して過剰に熱くならなくても、とは思いますが、この盤単体では面白味に欠けるというのは否めないのですよね。土持アレンジも、初期クリスタルやブルーナイト、MCAサウンドあたりの頃に比べると妙に落ち着いてしまっているし、「美しい朝がきます」のリコーダーも想定していたライン以上のものではないし。ただ、オリジナルのオケを使用した昨日のチェリッシュ盤を聴いた後だと、「愛の終末」のいかにも歌無歌謡なサウンドに安心感を覚えるのですよね。あと、「涙と友情」に覗く遅すぎたサイケ感にも。シャープなベースとドラムが70年代色を加えてはいるけど。徐々にニューミュージックに蝕まれ、萎縮していく歌謡界の悲しみを凝縮したような1枚。