テイチク SL-1289
琴と三味線による おんな
発売: 1969年9月
A1 おんな (森進一) 🅲
A2 或る日突然 (トワ・エ・モワ) 🅺
A3 大空の彼方 (加山雄三) 🅳
A4 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅵
A5 雲にのりたい (黛ジュン) 🅵
A6 夜の柳ヶ瀬 (カサノヴァ7) 🅱
B1 禁じられた恋 (森山良子) 🅸
B3 青空にとび出せ (ピンキーとキラーズ)
B4 恋のなごり (小川知子) 🅴
B5 恋の奴隷 (奥村チヨ) 🅲
B6 愛して愛して (伊東ゆかり) 🅵
演奏: 藤田都志 (第一琴)/久保茂、上参郷輝美枝 (第二琴)/山内喜美子 (京琴)/杵屋定之丞、杵屋定二 (三味線)/テイチク・レコーディング・オーケストラ
編曲: 山田栄一
定価: 1,500円
テイチクの歌無歌謡暴発期たる69年は、様々なディレクターとアレンジャーがその独自性を競いながら、市場に物を投げまくっていた幸せな時代で、故に全貌を解明するにはめちゃ勇気が要る。とにかく、見つけたものを掴んでいくしかない。この盤は見ての通り、琴奏者だけで3人がフィーチャーされている上に、別途京琴担当で女帝・山内喜美子さんが君臨しており、三味線奏者も二人いるという、豪華絢爛ジャパネスク大盤振る舞いなアルバム。ジャケットのモデルは、奇盤『クレイジー・パーカッション』と同じ人だろうか。涼川真里さんでは絶対にないけど(汗)、モダンさと伝統的着飾りが妙に調和していて、中の音を端的に物語っている。当時の段階でも超ベテラン、山田栄一氏の仕切りによるサウンド作りは熟練の域に達し、当時のモダン意識に違った角度から光を当ててみせる。
主題曲「おんな」は、自分内では木村好夫先生のシグネチャー曲と化した感があるが、豪華料亭の雰囲気を押し込んだようなサウンドで聴くのも乙なものだ。左側の奥で聴こえるフルートも、別の楽器のようなトーンに化けているし、ギターやオルガンも淡々とした演奏でいい味を出している。そのままのノリで「或る日突然」のイントロが始まるからたまらない。いつものフレーズに茶々を入れるような三味線の音が、まるで芸者の合いの手の声のよう。コードの処理がお洒落度を欠いているなんて言いたくない。これは「別世界」だ。A面はこんな感じで、フォーク系歌無アルバムの常連曲が続くが、あまりの潔さに快感がもたらされる。テイチクならではの密度いっぱいのサウンドで余計お腹いっぱい。かえって「夜の柳ヶ瀬」では歯切れの悪さが目立ち、そこもB級歌謡好きにはたまらないものになっている。フルートも「ヤング・ヤング」なんてニュアンス皆無の音で、うまく調和しているし。3番でのカラーの変え方も意表を突き、オリジナルと一味違う。フルートがんばりすぎやで。
B面もその調子だが、「禁じられた恋」はサイケの領域に食い込んだ演奏で、ドラムの音が見事に逝っちゃった感を出している。この辺で過剰に和風ニュアンスを出した方が、海外のマニアは喜ぶんでしょうかね。TV主題歌として変則リリースされた「青空にとび出せ」の選曲は珍しい。これは「進めジャガーズの唄」を改作したもの、と言っていいのでしょうかね。ラブリーなフルートを従えて、和風な音が舞いまくる絶妙の出来だ。ラスト3曲は乙女ポップを和風舞曲へと変容。「恋の奴隷」の三味線によるリードが、まさに曲の主題をあぶり出すようで素敵だ。同じメロを琴が演ると、おしとやかにしか聞こえないのが不思議だけど。「愛して愛して」の不思議な音の融合が妙な余韻を残しながら、アルバムに幕をおろす。最後に1台取り残された琴の響きが、たまらなくラブリーだ。山内さんの音ではないけどね。