黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は田中ユミさん(シモンズ)の誕生日なので

テイチク ST-289~90

歌謡ポップス・ベスト・リクエス

発売: 1971年

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ジャケット

A1 ともだち (南沙織)Ⓐ 🅵

A2 悪魔がにくい (平田隆夫とセルスターズ)Ⓑ 🅶

A3 雨の御堂筋 (欧陽菲菲)Ⓒ 🅴

A4 ちいさな恋 (天地真理)Ⓐ 🅶

A5 長崎慕情 (渚ゆう子)Ⓓ 🅲

A6 雨のエアポート (欧陽菲菲)Ⓐ 🅶

A7 水色の恋 (天地真理)Ⓑ 🅵

A8 雨のバラード (湯原昌幸)Ⓔ 🅳

B1 さすらいの天使 (いしだあゆみ)Ⓐ 🅳

B2 お祭りの夜 (小柳ルミ子)Ⓒ 🅵

B3 望郷子守唄 (高倉健)Ⓐ 🅲

B4 長崎から船に乗って (五木ひろし)Ⓕ 🅵

B5 なのにあなたは京都へ行くの (チェリッシュ)Ⓑ 🅱

B6 雪あかりの町 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅴

B7 涙から明日へ (堺正章)Ⓑ 🅱

C1 誰も知らない (伊東ゆかり)Ⓑ 🅶

C2 かもめ町 みなと町 (五木ひろし)Ⓐ 🅵

C3 流れのブルース (森進一)Ⓑ 🅲

C4 遠くはなれて子守唄 (白川奈美)Ⓔ 🅲

C5 愛する人はひとり (尾崎紀世彦)Ⓑ 🅴

C6 おもいでの長崎 (いしだあゆみ)Ⓒ 🅴

C7 ちょっと待って下さい (サム・カプー)Ⓑ 🅱

C8 わたしの城下町 (小柳ルミ子)Ⓔ 🅸

D1 また逢う日まで (尾崎紀世彦)Ⓖ 🅰→5/17

D2 虹と雪のバラード (トワ・エ・モワ)Ⓒ 🅱

D3 雨の日のブルース (渚ゆう子)Ⓔ 🅴

D4 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦)Ⓗ 🅹

D5 よこはま たそがれ (五木ひろし)Ⓔ 🅹→11/8

D6 恋人もいないのに (シモンズ) 🅱

D7 さすらいのギター (小山ルミ)Ⓔ 🅳

 

演奏: 小泉幸雄 (エレクトーン)とクインテット

山内喜美子 (京琴・琴)、松島香代子、吉川富子 (琴)/テイチク・ニューサウンズ・オーケストラⒷ

石川晶 (ドラムス)、鈴木宏昌 (エレキ・ピアノ)とクイーンズ・ベストⒸ

テイチク・オールスターズ・オーケストラⒹⒻⒽ

カンノ・トオル (ギター&レキント)とオーケストラⒺ

松浦ヤスノブ (テナー・サックス)/テイチク・ニューサウンズ・オーケストラⒼ

編曲: 小泉幸雄Ⓐ、山田栄一Ⓑ、高見弘Ⓒ、竹田喬Ⓓ、福島正二Ⓔ、大野弘也Ⓕ、北野ひろしⒼ、土橋啓二Ⓗ

定価: 2,400円

 

衝撃の「太陽がくれた季節」から始まる72年盤の前作にあたる「LOVE & JOY」シリーズの1作で、例によってバラで出たアルバムからのよりぬきセレクション。当ブログではすっかり「チージーなオルガンサウンド」の人となってしまった小泉幸雄クインテット「ともだち」から始まるが、鄙びた感じが意外にこの曲の魅力を殺していない。絶妙なボリュームコントロールで聴かせるオルガンが、まさに「押して引いての美学」そのもの。聴きながら「琴のささやき」ヴァージョンに想いを馳せていたら始まるのが「悪魔がにくい」で、2台の琴を京琴が揺さぶる和風ヴァージョン。3日前紹介の『おんな』の演奏に比べると、より軽量化したタッチで、パーカッションの派手な音が次の年の大胆な音作りの予感を匂わせる。「太陽がくれた季節」などでは確かに、全ての琴の演奏を山内さん一人で賄っていたから、ここで聴ける演奏より実験的になるのもしょうがないといったところ。彼女の演奏にはコロムビア盤にも凄いものがあるので、徐々に解明して行きたいと思います(昨年のある時期に「和楽器もの」がまとめて巡ってきたので。既に「3ヶ月ルール」はクリアしていますし…)。まったりした純情和風ものに消化された「水色の恋」、「何をそこまで京都ディスらんでもええやないですか」と無言で主張する「なのにあなたは京都へ行くの」もいいけど、真打はやっぱり「ちょっと待って下さい」でしょう。和風美人がレイをぶら下げおもてなし。和風ソフトロックとはこれか。ちなみに当時競作されまくったこの曲、テイチク代表は蟇目良でした。

今作での「モダン」担当はコルゲン氏が率いる「クイーンズ・ベスト」で、5曲にフィーチャーされている。石川晶の叩き出す安定したビートに支えられ、洗練されたエレピでのコードプレイで曲に新鮮な魅力を与えている。先鋭的ジャズロックの合間にちょちょいといった演奏だけど、かえってこの流れにはテンションを与えているのだ。「長崎慕情」の演奏者クレジットは曖昧になっているが、山内さんの京琴と村岡実氏の尺八は確かに入っているし、それら以上に目立つのがはっきりした発声による女性スキャット。といっても「うー」「あー」と言っているのみだが、特に4ヶ所で歌われるポルタメントの効いた「うーう」が綺麗な笛の音みたいでめちゃ素晴らしい。名前位クレジットしてもいいでしょうに…ちょっと山倉っぽいこの竹田アレンジ布陣で選ばれたのが1曲だけとは寂しすぎ。もっと聴きたい。「望郷子守唄」ではまったりとしたオルガンの調べに食い込むディストーション音が、意外にも任侠風味をあぶり出す。また逢う日までは「BEST & BEST」からの抜粋だけど、このヴァージョン実は凄い好きです。場末感が強調されることで、また新しい魅力が引き出される、そんな印象。「さよならをもう一度」のオルガンは、この盤の小泉氏のどの演奏よりもチージーですな。

このカラフルなコレクション、唯一欠けている要素はそう、「山倉たかし」…もっとも、歌無歌謡における神通力は、71年あたりからフェイドアウトすることになるのですが。翌年の盤を聴くと、それが解ってしまうわけで。