黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

和田浩治さんの誕生日は1月28日

東宝 AX-4030

おんなの運命/演歌ヒット・ベスト16 

発売: 1975年2月

ジャケット

A1 おんなの運命 (殿さまキングス) 🅶

A2 みれん (五木ひろし) 🅵

A3 あなたにあげる (西川峰子) 🅶

A4 あじさいの雨 (渡哲也) 🅵

A5 愛の執念 (八代亜紀) 🅳

A6 二人でお酒を (梓みちよ) 🅸

A7 久しぶりだね (和田浩治)* 🅲

A8 挽歌 (由紀さおり) 🅲

B1 冬の駅 (小柳ルミ子) 🅳

B2 北航路 (森進一) 🅵

B3 理由 (中条きよし) 🅵

B4 わたし祈ってます (敏いとうとハッピー&ブルー) 🅵

B5 別れの夜明け (石原裕次郎&八代亜紀) 🅲

B6 夫婦鏡 (殿さまキングス) 🅰→21/5/20

B7 命火 (藤圭子) 🅱

B8 あなたが欲しい (ぴんから兄弟)

 

演奏: 村岡実 (尺八)、山内喜美子 (琴)/ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 福井利雄

定価: 1,800円

 

ラストも近いのでこっそり明かしますが、ジャケ画像に大々的に登場する「訳あり」シール(い◯◯◯やさんごめんなさい…本当は「おつとめ品」シールが欲しかったところです…)が隠すものは、大抵の場合その盤を入手した店名入りのプライスシールなんです。そこに記された価格を晒してしまうと、これっぽっちの価値しかないのかよと勝手な悲しみを共有することになるけど、自分はそれの積み重ねでここまで来れたわけです。歌無歌謡アルバムがジャンクヤードに全く姿を見せなくなる事態に恐怖を覚えながら…(まさか)。より厳密に言えば、そのプライスシールの系統は二つしかない。真のコレクタブルなアルバムには、シールを貼ることさえ拒むはずですよ、いくらその手のお店であれ。

この盤の「訳あり」シールの下も、案の定今となっては懐かしさしかない、ここ3年の間に主要店舗が相次いで閉店した某大手ショップのプライスシールでした。よって、新たに入手したから延長戦で語ろうとなった1枚では当然なく、調べてみたらはまってから最初の1年のうちに買っていたのです。それが、新たな特筆すべきネタ入手やらなんやらで後回しにされて、最後から数えて9日目にやっと登場と。仕方ないです、天下の村岡&山内コンビなのに。でも、これを買った頃には既に『尺八ロック』とかも相当レア盤化していたので、村岡氏の尺八が聴けるだけでも有り難かったし、テイチク盤などの衝撃を前に、山内さんの偉業を味見できた1枚としても貴重。

ラクルサウンズの『最新ヒット歌謡』シリーズは、これの1つ前の番号で出た75年1月新譜で完結しており、以後はフォーク・演歌とカテゴリーを分けて続行したので、新展開に於ける第1作と見ていいかも。もっとも『演歌大全集』は既に別シリーズとして始まっていたけれど。この盤では、「夫婦鏡」がその第3弾から流用されているが、他の曲も従来のミラクルサウンズの延長線上にある演奏の中に、琴と尺八をはめ込んだ音になっている。エコーとコンプレッションが強めにかかり、かなり重厚なサウンド和楽器の響きを盛り立て、ミラクル名物の鍵ハモも意外にエモいプレイになっている。ど演歌の中に投げ込まれると相当異色な「二人でお酒を」は比較的ポップ寄りのサウンドの中、尺八と琴が交互にソロをとり、軽妙な仕上がり。「挽歌」「冬の駅」も同系統で、この中ではいいアクセントだ。東宝と言えば気になるユピテルとのヴァージョン被り(汗)だが、このアルバムに関しては特に認められなかった。曲が重なっていても、あちらには明確に池多氏のクレジットがあるし。

歌詞掲載面を見ると、実に泥沼だらけの演歌恋模様。ピースフルな時代に映し出された現実は、今もまだ現実のままなのかもしれない。こんな時代になっちゃったけれど。でも、数多の薄い言葉しかないラブソングを聴くくらいなら、たとえ歌無だろうが「命火」を聴く方をとるよ。

 

(*注)- 「久しぶりだね」のヴァージョンカウントには、黒木憲「別れても」(『ヴェルベット・サックス・ムード』収録)の分も含まれています