黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は三田寛子さんの誕生日なので

RCA JRS-7279

アルプスの少女 さわやか!! 最新ヤングヒット

発売: 1973年12月

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ジャケット

 

A1 アルプスの少女 (麻丘めぐみ)Ⓐ 🅴

A2 空いっぱいの幸せ (天地真理)Ⓐ 🅴

A3 魅力のマーチ (郷ひろみ)Ⓑ 🅴

A4 ぎらぎら燃えて (山本リンダ)Ⓐ 🅲

A5 色づく街 (南沙織) 🅷

A6 ロマンス (ガロ)Ⓒ 🅴

A7 わたしの宵待草 (浅田美代子)Ⓑ 🅳

B1 ちぎれた愛 (西城秀樹)Ⓐ 🅲

B2 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二)Ⓐ 🅹

B3 草原の輝き (アグネス・チャン)Ⓐ 🅲→5/14

B4 夏色のおもいで (チューリップ)Ⓒ 🅴

B5 愛さずにいられない (野口五郎)Ⓑ 🅲

B6 記念樹 (森昌子)Ⓒ 🅴

B7 白いギター (チェリッシュ)Ⓐ 🅸

 

演奏: 森ミドリとレモン・ポップス

編曲: あかのたちおⒶ、小林南Ⓑ、さわはじめⒸ

定価: 1,800円

 

あれ、80年代アイドルの曲集じゃありませんよね…ええ、「色づく街」をシングルでカヴァーしてましたから(しかもB面が「ピンク・シャドウ」!)。というわけで森ミドリさん3回目の登場。すっかり「弾くアイドル」として確立された存在感をジャケットでも全開させている、RCAでの歌謡カヴァー・アルバム第2弾で、なぜか番号は第1弾より4つ前。発売が流れた欠番アルバムの跡を埋めでもしたのでしょうか。前作でハイライトの一つとなっていた、自らのスキャットと最低限の伴奏のみによる曲はここでは排し、ひたすらスカッとするバンド演奏をバックにビクトロンの魅力を伝導しているが、サウンド的なお楽しみ要素はこっちの方が豊富。

まずは、大抵の歌無歌謡盤での演奏が原曲の魅力に肉薄することなくこけてしまっている「アルプスの少女」だが、やっと理想的な解釈が出てきた感じ。ただでさえ大袈裟なイントロはさらにドラマティックに拡張され(彼女自身による「ヤッホー!」の絶叫はないが)、爽やかに駆け抜ける本編の序曲となっている。アコギやアコーディオン、木琴を効果的に配し、歯切れのいいベースとドラムに乗せてこだまする調べ、ラストの方ではメロディを弄ぶ中、遠方から鐘の音が聴こえてくる。間髪を入れずに「空いっぱいの幸せ」が始まる。2コーラス目への転換に勝負ポイントを持ってきたクリスタル・サウンズ盤に比べてもまだ爽快感いっぱい。控えめに入っているオーケストラ・ヒット的な音を足がかりに、そこに忍び寄るメロトロンの分厚い壁。最後のCメロではビクトロンとユニゾンで主旋律まで奏で、最後の音に至るまで自己主張を続けるが、これも「あ、面白い音がする!」みたいにはしゃぎながらミドリさんが弾いたのでしょうか。よく見たら、演奏楽器のクレジットがないよ。ビクトロン以外の鍵盤パートも全部弾いたのだ、という風に解釈しますね。

と思えば「魅力のマーチ」は、数あるヴァージョン中でも最強のハードロック化を行い、回転スピーカーをブンブン回してノリノリの演奏だ。「色づく街」は相当のエレガント化を行いつつ、ここにもメロトロンを大胆に流し込みまくる。添付された楽譜、この曲は「初見無理!」(あくまでもフルート脳ですが)な記され方なのだけど、このアレンジに即するのならもうちょっと簡素化してもよかったかも。「ロマンス」もお茶目な演奏にさりげなくメロトロンを絡めて、軽いタッチの乙女心満載。「わたしの宵待草」は転じてリリカルに。鍵盤の音を控えめにしつつ、2コーラス目でオカリナに主導権を譲る(こちらは彼女の演奏ではありませんよね…鍵盤と同時に演奏してはいないですけど…)。クリスタル・サウンズのリコーダー・ヴァージョンの次に心洗われる出来。

B面はメロトロンでプログレ色を強調しつつ、疾走するロックへと導く「ちぎれた愛」で、張り裂けそうな気持ちを演奏に託す。「夏色のおもいで」はテンポ上げすぎという感もあるが、続く愛さずにいられないのヘヴィなグルーヴへの入口としては効果的。ここでの攻めに攻めまくった演奏は、乙女が先導しているとはとても思えない…本編が終わって転調してコーダに突入すると、全てのバンド演奏が消え、ドライな音に転じる…この「ツンデレ」的構成が、いかにもファンサービスという感じで泣かせる。最後の2曲は、アンコール的な位置づけか。

RCAからはあと3枚アルバムが出ており、クリスマス・ソングを集めた『森ミドリと楽しいクリスマス』(RVL-6506)は、マイク・ネスミス追悼優先のため、惜しくも語られるチャンスを失ってしまった。洋楽に的を絞ったシリーズ第3弾『愛の休日』(JRS-7307)は、ポール・マッカートニー&ウイングス「ミセス・ヴァンデビルト」というまさかの選曲もあり、語れずじまいとなったのが惜しくてしょうがない。ミドリさんごめんなさい…