黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はやなせたかしさんの誕生日なので

東芝 RG20-5037

ビッグ・ヒット・マーチ “89”

発売: 1989年4月

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ジャケット

A1 パラダイス銀河 (光GENJI)Ⓐ

A2 リフレインが叫んでる (松任谷由実)Ⓑ

A3 人生いろいろ (島倉千代子)Ⓐ

A4 いい日旅立ち (山口百恵)Ⓑ 🅳

A5 こんなこいるかな (森みゆき、坂田おさむ)Ⓑ

A6 ff [フォルティシモ] (ハウンド・ドッグ)Ⓒ

B1 じれったいね (少年隊) Ⓒ

B2 乾杯 (長渕剛)Ⓑ

B3 Melody (浅香唯)Ⓐ

B4 アンパンマンのマーチ (ドリーミング)

B5 ジライヤ (串田アキラ)Ⓒ

B6 怪盗ルビイ (小泉今日子)Ⓒ

 

演奏: アンサンブル・アカデミア

編曲: たかしまあきひこⒶ、松山祐士Ⓑ、上柴はじめⒸ

定価: 1,830円 (税抜)

 

昨今のダンスミュージック的意識と区別するために、「今宵踊らん」シリーズが属するカテゴリを「ダンス・体育会系」に設定したのですが、なら「体育会系」とは何ぞや。その答えを出す時がやっと来ました。一度、徳間が出した「センチメンタル」の運動会用シングルに言及しましたが、その手のやつ、学校での行事やお遊戯会での使用を前提に制作されたレコードのこと。大抵はそのために作られたオリジナル曲(及び振り付け)が採用され、7インチ盤に4曲収録されるスタイルのものが殆ど。そのオリジナル曲の一部がなぜか「和モノ」の文脈で再発掘され、とんでもない価格で売買されるものもいくつか出てきたり。こういうのを掘り出すとほんとキリがないですが、イノセントな世界観と高度な音楽的表現術が、時には突飛なアイディアを伴って融合していたりで、案外「使い甲斐」あるものなんです。

その一方で、既製のヒット曲を行進曲や玉入れのBGMに適したアレンジで料理したレコードも制作され続け、その伝統は現在にまで引き継がれています。トレンドに乗らなきゃ、意味ないものね。所謂「YOSAKOI」での使用を前提とした音源に関しては、明確に分別したいところでありますが。近所の幼稚園でも「パプリカ」の緩いインストが鳴り響く中、かけっこが展開されているのを目にしたことがあります。売り物として売られているかどうかは未確認ですけど…探してみれば「東方アレンジ」の行進曲さえ見つかるかもしれません。

今日紹介する盤は、本ブログのスコープからは大幅に外れた1989年4月のリリースです。そう、平成元年ですよ!ジャケットにも税込(3%)定価の印刷がデフォルトであります。通常のJ-popのヴァイナル盤でさえ、リリース状況が淋しくなっていた時期なのに、こういう盤はちゃんと出ていたし、驚くべきことに手持ちの盤は相当使われた形跡があります。カセットならまだしも、こういう場にCDプレイヤーを持ち出す時代には、まだなっていなかったということでしょうか…ちなみに、発売日の4月8日は丁度、消費税初導入から1週間経過後に当たりますが、この盤は学芸用途のため、それ以前のレコード一般に課されていた物品税の課税対象外で、消費税が課されることでかえって値段が高くなった類のブツです。

内容に関してどうこういうスペースが圧縮されてきた…A面は「並足行進用」でまさに、想像された通りのサウンドが鳴っていますよ。冒頭2曲は違和感ないとして、問題は「人生いろいろ」ですが…ライナーを見て、このレコードの使用対象が別に児童に限られないことが判ります。即ち、当時でいうところの「実年」以上の世代にも対応した盤ってこと…しかしまた、この曲で行進するシチュエーションって想像するだけでも怖くなりませんか…歌無歌謡レコードの黎明期からヴァイナルの墓場(暫定的な)に至るまで、その曲が取り上げられることとなった島倉千代子さんの凄さを思い知ります。いい日旅立ちはトレンド的にもちょっと場違いですが、曲中でコロコロテンポが変わり、人生の走馬灯的一面を想起させる展開。こんなこいるかなは行進曲としては異色のアレンジ。数ヶ所に挿入されるスライドホイッスルに萌えまくります(こういう音であれば、何時間でも聴いていられる)。このアレンジなら「さよなら人類」もいけそう(爆)。ガチなブラスアレンジで奏でられる「ff」も痛快。

B面は対して「駆足行進用」。これで足並み揃って駆け抜けるのは怖い、というか、曲が「乾杯」ですから笑うしかないですね。アンパンマンのマーチは別に疾走系にリメイクされているわけでなく、別にこっちの面に入れなくてもという気もしますが。SNUFFのヴァージョンの方が快適に走れますね(笑)。高速フュージョン化した「ジライヤ」に続いて、ナイアガラー卒倒間違いなしの「怪盗ルビイ」で幕。これはネタにしていいのか、って感もありますが、是非アレンジャーの方(ちなみに芽瑠璃堂近辺で宗内の母体が間接的にお世話になっている、上柴とおる師匠のお兄さんです)に直撃して談話をお伺いしたいものです…他の二人も、ドリフグルーヴの育ての親たかしま氏、この手のレコードを語るには欠かせない存在の松山氏と、仕事人揃い。決して侮れない1枚なのです。