黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1971年、今日の1位は「望郷」(3週目)

テイチク BL-1004

ヒット・スタジオ・ベスト10 止めないで

発売: 1971年

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ジャケット

A1 止めないで (いしだあゆみ) 🅱

A2 京都慕情 (渚ゆう子) 🅲

A3 はっぴいロック (中山千夏)

A4 花嫁 (はしだのりひことクライマックス) 🅹

A5 長崎ごころ (ジ・アーズ) 🅱

B1 三人の女 (青江三奈) 🅱

B2 すべてを愛して (内山田洋とクール・ファイブ) 🅲

B3 望郷 (森進一) 🅵

B4 愛でくるんだ言訳 (安倍律子) 🅲

B5 知床旅情 (加藤登紀子) 🅶

演奏: 田辺信一とアルフレッド・ザ・グレイト・ブラス+琴

編曲: 田辺信一

定価: 1,000円

 

遅れに遅れてしまいましたが、まずは最後まで生き延びたベンチャーズのオリジナル・メンバー、ドン・ウィルソン氏のご冥福をお祈り申し上げます。歌のない歌謡曲を語る時、決して避けて通れない重要人物の訃報故、黙ってスルーできないのは当然承知でしたが、ラスト2ヶ月の更新予定も固まっているし、語れる盤にも限界があるということで、次にベンチャーズ絡みの曲が含まれた盤が回ってくるまで、敢えて保留することを選択致しました。ここで聴ける「京都慕情」は実にしみじみと、かつ洋風な風情が生きた演奏で、余計身に染みます。これでベンチャーズの栄光期を飾った主要メンバー5名が全員天国へ…現在もその遺志を引き継ぐメンバーの元、活発に活動が続きますが、このコロナ禍で伝統となった来日公演も2年途切れてしまい…辛うじて2019年、今住んでいる場所から徒歩2分の場所で行われたライヴを鑑賞できたことは、忘れ難い想い出となりそうです。その公演でも当然のように、この「京都慕情」は演奏されました。あの京アニ事件があった直後のこと故、余計メランコリックに我が耳を癒してくれました。その4年前までひたすらヴェンチャー道を貫いたドン氏に、そして栄光期のメンバーの皆様に、敢えてありがとうと言いたいです。

 

そんなわけで「望郷」の1位を盾に引っ張り出してきたこのアルバム。皮肉にも本家ビクターの名盤『望郷~12の楽器が歌う歌謡ヒット・メロディー』を語った日は、同じくベンチャーズ創始者ボブ・ボーグルの誕生日、そしてドンが亡くなる6日前でした。こちらのアルバムも負けず劣らず、聴いてて熱いものがこみ上げてくる1枚ですよ。トップは前後に6桁売上ヒットがずらーっと並ぶ当時のいしだあゆみの曲の中では、いまいち地味な結果に終わった「止めないで」ですが、個人的にはとても想い出深い曲の一つ。通常歌謡でも派手なアレンジ振りで大活躍した田辺信一氏の個性がブラス・アレンジに炸裂してますが、申し分程度に「+琴」となっているのがポイント。京琴も大フィーチャーされているので、当然山内さんの演奏だと思われますが、敢えて存在感を控えめにしたのでしょうか…「京都慕情」に続くのは、イレギュラーなシングルとして舞踊歌謡枠でリリースされながら、今や和モノ民の間で途轍もない人気を誇る1曲になってしまった「はっぴいロック」。これを取り上げるとは鋭いとしか言えず、このインスト盤も相当もてはやされているのかなと思いきや、あっさり我が手に。グルーヴィなノリを生かしながらジャパネスクな音も大回転している名演。「花嫁」も振袖が似合うお嬢様的ノリに消化されていて、ユニオン盤の破壊力とは無縁。例の実験作「三人の女」は1番にあたる部分だけ3コーラス分演奏されているせこい解釈でかなり惜しい。参考にした譜面には2番と3番の記載がなかったのだろうか…。なぜか知床旅情のみ、琴が登場せず、『惚れた/琴のささやき』にお預けという感じだ。コンパクトに最新曲を味わえる「BEST and BEST」の中では、A面の密度が濃い分楽しめる方の1作。