黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

その珍腐で強烈なる歌謡チック・Xタシー

テイチク SL-1385 

ニュー・ヒット歌謡14 京のにわか雨

発売: 1972年8月

参考画像(汗)

A1 京のにわか雨 (小柳ルミ子)Ⓐ 🆂

A2 赤色エレジー (あがた森魚)Ⓑ 🅳

A3 あなただけでいい (沢田研二)Ⓑ 🅹

A4 夏の夜のサンバ (和田アキ子)Ⓐ 🅲

A5 芽ばえ (麻丘めぐみ) Ⓐ🅺

A6 待っている女 (五木ひろし)Ⓐ 🅹

A7 もうすぐ…故郷 (林美果)Ⓑ 🅱

B1 鉄橋を渡ると涙がはじまる (石橋正次)Ⓐ 🅶

B2 夜汽車 (欧陽菲菲)Ⓑ 🅿︎

B3 裏窓 (湯原昌幸)Ⓑ

B4 青い日曜日 (野口五郎)Ⓑ 🅲

B5 心の痛み (朱里エイコ)Ⓑ 🅷

B6 旅路の果てに (森進一)Ⓐ 🅶

B7 あなたのためなら (ハニー・ナイツ)Ⓐ

 

演奏: 松浦ヤスノブ/オーケストラ・プラッツ

編曲: 竹田喬Ⓐ、柳ヶ瀬太郎Ⓑ

定価: 1,500円

 

テイチク祭りもついに、最も危険な区域に到達。何せジャケットがジャケットですから…帯が付いてて助かったとしか言えません。辛うじて顔と足をちょっとだけ、見せてあげましたが(汗)。行くとこまで行っちゃえという意思表示でしょうか。当時のレコード屋さんも、衒いなく置けたんでしょうかね。何事にも怯える必要なかった50年前の小売業のフリーダムさに恋焦がれます。逆に言えばそれだけ強靭な精神を求められたシビアな時代でした…今だからこそですよ、こんなこと(ブログ)ができてるのは。

まぁそんなジャケットのせいで、一部では物凄い値段がつけられていると思しきアルバムですが、所詮歌無歌謡ですから。評価すべきものは内容なのです。そんな内容をほのめかす重要な文字情報がジャケットに記されていたおかげで、このアルバムは聴いてみなければと思いました。その重要ポイントとは、スキャットでクレジットされている「加古城美」さんの存在。

当然、この個人名で情報検索しても、このアルバムの情報以外どこにもぶち当たりません。でも、名前が出るくらいなのだから、相当著名なセッション・シンガーなのだろうし。そんな薬指をより動かしてくれたのが、5日前にも引き合いに出したばかりの「長崎慕情」のヴァージョン。そこで「うーうー」歌っている魅力的な声の人こそ、加古城美さんじゃないかと読んだのです。その曲のアレンジをしている竹田喬氏が、このアルバムでも半数の曲に関わっていることを思うと、確実性が余計高まるし。

しかし、蓋を開けてみれば、彼女の「スキャット」が聴けるのは1曲のみ。その「あなただけでいい」を聴いてみると、イントロでサイケな演奏に乗って「あっ…あっ…あっ…あっ…あーーーーーん!」と唸っているのみ。それでクレジットに載ってしまってるのですよ。肩透かしすぎ。まぁ、この瞬間こそこのジャケットの世界の音像化なのかもしれないけれど。加古さん、見てたらお便りください。「長崎慕情」も私が歌ってるのよ、とか言われたら気を失います…

この一件を別にすると、これでもかと竹田・柳ヶ瀬マジックが効きまくったなかなかの力作。この「あなただけでいい」にしても、コロムビア盤の超強力アフロファンクに比べると軽量級ながら、相当ヘヴィなグルーヴが叩き出されているし、イントロの問題のサイケ演奏にしても、ギターが左右にパンするなどさりげない実験が生かされていて素晴らしい。「京のにわか雨」も月並みなアレンジから脱却しつつ、琴の響きを生かして原曲のコンセプトを一歩先に進めてるし、「赤色エレジーもカラフルな演出満載で不思議なサウンド作り。コルネットヴァイオリンと巻き舌フルートが相次いで出てくるとか、普通じゃ考えられない。かと思えば「夏の夜のサンバ」ではファンキー・グルーヴ全開でまさにハッシッシー。簡素化したと思いきや琴が乙女色を持ち込んでいる「芽ばえ」ベンチャーズ歌謡の最果てに挑んでみせる「もうすぐ…故郷」(オリジナルの歌唱者・林美果はあの「波」の林エイコと同一人物、という新規情報がありました)など力作揃い。コロムビア盤の破壊力には誰もかなわない「鉄橋を渡ると涙がはじまる」もイントロに効果音を配し、新鮮な演出だ。B面の後半に行くと多少勢いが衰えるところもあるけれど、ジャケットの誘惑に怯まない内容の好盤。