黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1978年、今日の1位は「微笑がえし」

ミノルフォン KC-5016~17

最新ヒット歌謡 BEST30

発売: 1978年7月

f:id:knowledgetheporcupine:20220312065904j:plain

ジャケット

A1 ダーリング (沢田研二) 🅳

A2 泣き上手 (野口五郎) 🅲

A3 プレイバックPart 2 (山口百恵) 🅴

A4 宿無し (世良公則&ツイスト) 🅴

A5 迷い道 (渡辺真知子) 🅴

A6 二十才前 (岩崎宏美) 🅰→9/19

A7 春の予感 (南沙織) 🅰→9/19

A8 津和野ひとり (森昌子) 🅱

B1 サウスポー (ピンク・レディー) 🅵

B2 微笑がえし (キャンディーズ) 🅴

B3 冬の稲妻 (アリス) 🅲

B4 かもめはかもめ (研ナオコ) 🅲

B5 ブーツを脱いで朝食を (西城秀樹) 🅰→9/19

B6 そんな女のひとりごと (増位山大志郎) 🅶

B7 潮どき (五木ひろし) 🅲

C1 あしたも小雨 (五木ひろし) 🅲

C2 かもめが翔んだ日 (渡辺真知子) 🅵

C3 夢追い列車 (小柳ルミ子)

C4 エーゲ海の旅 (平尾昌晃・畑中葉子) 🅱

C5 追いかけてヨコハマ (桜田淳子) 🅱→9/19

C6 時には娼婦のように (黒沢年男) 🅳

C7 UFO (ピンク・レディー) 🅳→9/19

C8 わな (キャンディーズ) 🅱→9/19

D1 あざやかな場面 (岩崎宏美) 🅱

D2 乙女座 宮 (山口百恵) 🅰→9/19

D3 愛よ甦れ (野口五郎) 🅲

D4 サムライ (沢田研二) 🅱→9/19

D5 失恋魔術師 (太田裕美) 🅲

D6 涙の誓い (アリス) 🅲

D7 あんたのバラード (世良公則&ツイスト) 🅲

 

演奏: ブルーナイト・オールスターズ&ストリングス

編曲: 無記名

定価: 2,000円

 

3月13日の日曜日…(こればフラグ)ということで、解散を控えて初の1位でお膳立てもバッチリのキャンディーズを見守る小梅ちゃん(のようなもの)といった趣の2枚。3月発売の「歌にキッス盤」からの引き継ぎが8曲あるけど、あちらも捨てがたいし(「教えてください、神様」が入ってるし)。77年以降のブルーナイト・オールスターズはもう、全部持ってても損はしませんな。

のっけの「ダーリング」から快調に飛ばす。最早この頃には載せられてないけど、初期のBNAS盤の帯に記されたキメのフレーズ「原曲の雰囲気が楽しめる」が上手く決まった一例。何せクラウン盤のこの曲がこけてしまってるからね。ジュリーを真似てアクション決めたくなります!続く数曲もこのペースを保ち、上出来のヒットパレード振り。「プレイバックPart 2」のシンセのシーケンスフレーズは、恐らくクラヴィネットの手弾きで再現されているが、左右にパンしまくり不気味な効果だ。2番がマリンバで奏でられているのも面白い。「津和野ひとり」は例によってオリジナルのオケ使用だが、スワンピーなサウンドが新鮮なアクセントになっている。「サウスポー」は相当飛ばしている演奏だが、魔球音を妙なエコーをかけたギターで再現しているのが妙。シンドラムもティンバレスで代用していて、シンセに対して多少及び腰になったのかなというニュアンス。微笑がえしはうつむき加減なフルートの音が、卒業していく乙女の心境を再現しているが、これは「二十才前」と共通するカラー。しかし、ハモリパートがないのが寂しいな。

1枚目と2枚目を跨ぐ五木曲もやはりオリジナルオケ使用だが、問題の瞬間は続くかもめが翔んだ日で訪れる。歌い出しに被さる効果音は、現代音楽で聴かれるような巧みなテープ操作で作られており、異様なムードを醸し出しているが、問題はそれではない。この効果音に決定的な既聴感を感じ、このヴァージョンが昨年10月27日登場した『カラオケレコード 青春のうた』に収録されたヴァージョンと、同じベーシックトラックを元に作られたことに気づくのである!異常に疾走感のある演奏は、完璧に同じテイクで、ここでフィーチャーされたサックスとギターを、カラオケ仕様の薄いシンセに差し替えているのみだ。あの盤には既にマーキュリー盤やマキシム盤とのベーシックトラック共有が確認されているけど、まさかミノルフォンまでとは…ここにもアレンジャーのクレジットがないし、益々謎が深まる。念には念を押して確認してみたら、「微笑がえし」と「UFO」も同じケースで、後者はイントロの飛行音の3回繰り返し、「UFO」コールをギターで再現しているという特徴が完全一致。さらに「涙の誓い」も。メジャーレーベルなのに、一体どうなっているのだ…一応、メロディの差し替えがあるので、ヴァージョンカウント上は別物とみなしますが。ちなみに「迷い道」は違うテイクでした。あっちの方がせこいサウンドだ(「シャープ」と書いてしまったけど、あくまでもミノルフォン比だと「せこい」んで)。

かもめミステリーで大幅に寄り道してしまったけれど、初盤で提示された勢いで最後まで駆け抜けるなかなかの好作なのは間違いない。クリスタル盤のそれには及ばないとは言え、「失恋魔術師」のカラフルな音選びに耳を奪われずにいられないし、 「夢追い列車」はもっとヒットしてよかったと思わせるいい曲だ。それより、何と言っても「あざやかな場面」が名曲すぎる。名曲中の名曲。この頃の曲ってほんと無敵ですよ。いかなる歌無歌謡レコードを聴こうが、思い知らされるのはその事実一点です。ここに選ばれないような、ヒットしなかった曲にも熱い眼差しを…