黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は岩谷時子さんの誕生日なので

テイチク SL-1295

大正琴が奏う 今日からあなたと

発売: 1969年11月

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ジャケット

A1 今日からあなたと (いしだあゆみ) 🅲

A2 天使のスキャット (由紀さおり) 🅳

A3 おんな (森進一) 🅵

A4 山羊にひかれて (カルメン・マキ) 🅵

A5 禁じられた恋 (森山良子) 🅻

A6 雲にのりたい (黛ジュン) 🅷

B1 或る日突然 (トワ・エ・モワ) 🅿︎

B2 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅸

B3 フランシーヌの場合 (新谷のり子) 🅶

B4 大空の彼方 (加山雄三) 🅵

B5 白いサンゴ礁 (ズー・ニー・ヴー) 🅷

B6 愛して愛して (伊東ゆかり) 🅸

 

演奏: 吉岡錦正、吉岡錦英 (大正琴)/テイチク・レコーディング・オーケストラ

編曲: 福島正二

定価: 1,500円

 

一昨日のエントリ、アルバムの主題の特殊さにかまけて全然誕生日祝いにならなかったけど、元祖「あゆ」はそれこそ涼川真里さん以上に、自分史上では重要な人で、特に「ブルー・ライト・ヨコハマ」のタイトルを誤読したことがいかにその後の人生を狂わせたかは、一部の人ならよく知っているはずだ(汗)。一昨日取り上げたアルバムには岩谷時子さん作詞曲が3曲と、このアルバムより2曲多く入っているから、逆にした方が良かったのかもしれないけど、昨日の冒頭で語った話も含めて連続性を考えると、この順番で良かったのかなという気もする。ちなみに今日の盤に入っている岩谷作品は「大空の彼方」1曲のみだが、この曲の重要性が昨今語られにくくなっているのも、B面があれだからに他ならないのだな。中古レコードを探さない限り、そのB面を聴く手立ては、サブスクに於いてさえない。

そんなわけで、盤選出基準も気まぐれながら実は丹念に行い1年続けてきた黄昏みゅうぢっく。一昨日取り上げた『コンピューターが選んだ』24曲の中に、今日のアルバムと共通する選曲が実に10曲もあるのだが、この盤から選出されたヴァージョンはない。それだけでも、大正琴が醸し出す雰囲気が特異なものであるというのがわかろうものだ。要するに、他の音と混在しづらい。ハワイアン・ギターや琴や三味線と事情が違う。その立ち位置を必死で守りつつ、各社の要請に答え続けた吉岡父子の意地が、いつものように炸裂する1枚だ。

一昨日の盤で冒頭に選ばれた「天使のスキャット。イントロのギターの響きは例によって「こんなにこんなに愛してる」色が濃厚なのだが、流されやすい軽妙な演奏をリードする大正琴の響きで、一気に別の空気がもたらされる。例え同じ様なミュージシャンの演奏の気配を感じようがエレガントな山倉サウンドに包まれた一昨日のヴァージョンとは好対照である。「山羊にひかれて」も、右側に入っているリズムギターに濃厚な「こんなに~」色を感じるものの、この長閑さは他の福島アレンジヴァージョンと異質。この一音一音を丹念にピッキングしている様子が、孤高感を原曲と対照的な方向に導いているのだ。「禁じられた恋」は、7月発売されたクラウン盤(昨年7月14日参照)で一際特異なムードを醸し出していたが、そこでの演奏に比べると場を重ねたおかげか、遥かに安心感がある(というか、クラウンヴァージョンが異様すぎ)。こちらは相当テンポも早く、キハーダも使われているし。小編成コンボの音を執拗に押し込みまくったテイチクサウンドの方が、大正琴に対しては優しいのかも。随所で聞かれるタムの「ドコドンドン」というフィルは、涼川サウンドの名残という感じでニヤリとさせるが、わざとそれを強調してミックスしてるということはないだろう。「或る日突然」は実に16番目のヴァージョンだが、イントロまで大正琴で奏でられると天晴としか言いようがない。音を押し込みすぎた故のディストーション幻聴効果(?)で、うなされ寸前までトリップしそう。意外と「ベース弦」がサステイン効果を強調していることに、他の盤以上に気付かさせられる。「白いサンゴ礁のローファイ感もたまらないな。そして、3月も後半に入り、急激にヴァージョン数を伸ばしている「あの曲」もこの通り。そう、「あの日」が2日後に迫っている。

こんな楽器を身近に感じられることに、日本人としての幸せを感じる一瞬。この年出されたラスカルズの「シー」で、さりげなく使われたりもしていますが。