黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

江見京子さんの誕生日は11月10日

テイチク SL-1323

バッキー白片 最新ヒット歌謡ベスト14

発売: 1970年7月

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ジャケット

A1 あなたならどうする (いしだあゆみ) 🅶

A2 私が生まれかわる時 (佐良直美)

A3 夜がわたしを誘惑するように (青江三奈)

A4 四つのお願い (ちあきなおみ) 🅶

A5 愛の旅路を (内山田洋とクール・ファイブ) 🅵

A6 花から花へ (江見京子)

A7 思いがけない別れ (小川知子) 🅶

B1 別れの誓い (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅲

B2 男ともだち (浅丘ルリ子)

B3 一度だけ (中山千夏) 🅲

B4 くやしいけれど幸せよ (奥村チヨ) 🅶

B5 燃える手 (弘田三枝子) 🅴

B6 結婚 (伊東ゆかり)

B7 ふりむいてみても (森山加代子) 🅷

 

演奏: バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ

編曲: バッキー白片

定価: 1,500円

 

3月26日の「ムフフ」の心を解き明かす時が来ました。

最初の1年間では、2枚組オムニバス盤の中の数曲でしか語るチャンスを与えられなかった、ハワイアン・サウンドの王者バッキー白片。ところが、昨年した最初の「箱買い」の際、どういうわけか彼のアルバムがまとめて舞い込むことになってしまい、その内歌謡曲のカヴァー盤に当たるものを「延長戦」のスケジュールに全て組み入れることになった。さぁ、果たして何枚登場するかな?部屋の空気が一気にリゾート気分に突入しますよ、聴く側にとってはですが(汗)。

これは70年集中的にリリースされた「クール・サウンド・シリーズ」の締め括りとして、7月キャンペーン終了目前に出た最新歌謡ヒット・コレクション。このシリーズの1枚『ハワイアン・ゴールデン・ヒッツ第1集』を小学生の時に手にして、めちゃくちゃ聞きまくっていたのを思い出します。元はと言えば、その音源のテープが父の仕事関係の施設の食堂にあったのを盗み聞きして、めちゃ惹かれたのがきっかけでハワイアンに夢中になり、適当に父におねだりしたらビンゴだったと。好奇心旺盛でめちゃおませだったけれど、そのジャケットに発情するなんてことはなかった。このシリーズのジャケット・デザインとレイアウトは統一されていて、思わずノスタルジックな気分になったけれど、裏を見たら「KOGA MELODY」の文字が。SL-28『古賀政男名曲集』のデザインをコピペして、写植し直し忘れたんでしょうか。歌無歌謡ジャケあるあるですけど、実は。付属の「デコレート・クール・ポスター」は3つ折りデザインでそれぞれ違う絵柄のものがアルバム別に用意されており、黄色いビキニで全身披露しているモデルはKEIKO OKUBO女史(ジャケットの方は当然違う)。まさか、「愛の卒業」を歌った大窪けい子さんじゃないだろうな、と思ったらその人でした。ユニチカキャンペーンガールを務めたと経歴にあるし、同社のロゴがポスターに入っているし。箱買いのおかげでこのポスターは3枚手元にあります。今更ながらコンプしたくなる…(汗)

そういうわけで、気軽にトロピカル気分を演出するには持ってこいのバッキー・ワールドに深入りして行くんですけど、女性歌手の曲を中心にグラマラスに誘惑するこのアルバムは特にうってつけ。シンプルなサウンド作りではあるが、決してオリジナル・ヴァージョンのルールに縛られず、独自の色に染め上げながらハワイの響きへと誘導する手腕が存分に味わえる。トップの「あなたならどうする」でも、規則的に打ち鳴らされるリズムの上を色っぽく舞うスチール。で、決めの「ジャララン」はやらない。ウクレレでやると気持ちよさそうではあるけれど、敢えてやらないところが漢なのだ。続く2曲は今まで出てきてなかったのが意外だけど、それぞれさわやかに情熱的に、ビクターの歌姫の曲を解釈。ここまで場末色を抜かれた青江三奈の曲も珍しいだろう。「四つのお願い」は軽快に、「愛の旅路を」は藤本ワールドを木陰の下に展開してみせる。「花から花へ」は、3日の「嘘に泣いた女」と同様、コロムビアLL品番に残されたオブスキュア曲だが、こちらはレコード持ってましたから調べるまでもなかったです(汗)。「こんなにこんなに愛してる」を手掛けた花礼二作品故、テイチクの音にも馴染むが、A面の中では最も地味か。最後は待ってました、の「思いがけない別れ」。ハワイアンに料理されても決して崩れない、活発な演奏だ。クレイジー・パーカッションもがんばっている。

B面は自社財産もご覧の通り、鶴岡公認の「別れの誓い」に始まり、相当ハードなタッチを加えている「男ともだち」、ムーディに攻めるかと思いきや賑々しい「一度だけ」、柴田晴代の女性的なタッチと対照的に背中からくすぐってくる「燃える手」など、なおも名演を連発。左側に固定しつつ、ボリュームコントロールを巧みに使い心理的に揺さぶるオルガンの健闘も光る。どの曲でも、エンディングでスライドバーをキューンとやらないところも潔い、個性全開のさわやかアルバムだ。