黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

もんたよしのりさんの誕生日は1月8日

東芝 TP-60394

ピアノによる 歌のない歌謡曲

発売: 1980年12月

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ジャケット

A1 私はピアノ (サザンオールスターズ高田みづえ)

A2 人生の空から (松山千春)

A3 青い珊瑚礁 (松田聖子) 🅱

A4 港町絶唱 (八代亜紀)

A5 愛はかげろう (雅夢)

A6 ヤング・ボーイ (河合奈保子)

A7 恋しくて (三沢あけみ)

B1 ダンシング・オールナイト (もんた&ブラザーズ) 🅲

B2 ブランデー・グラス (石原裕次郎)

B3 哀愁でいと (田原俊彦) 🅱

B4 天使(エンジェル) (甲斐バンド)

B5 万里の河 (チャゲ&飛鳥)

B6 酒場でDABADA (沢田研二)

B7 摩天楼 (岩崎宏美)

 

演奏: 秋満義孝グループ

編曲: 三保敬太郎・吉村浩二

定価: 2,000円

 

すっかり新しい喫茶店音楽としてフュージョンが定着し、「歌のない歌謡曲」がレコード文化として廃れようとしていた80年代初頭だけど、生き残る者は生き残った。ゴールデン・サウンズ消滅後の東芝も、時々単発ものを市場に送り込む活動に留まってはいたけれど、老舗の意地というのもあったのだろうか。歌詞掲載面を見ると、曲目のレイアウトが縦書きになっており、演歌というか大人歌謡の領域へと入ったという印象を残すこの盤だけど、大御所・秋満義孝氏(当ブログにはダイエーの童謡インスト集以来の登場)を起用しただけあって、アプローチはガチなものだ。主旋律をピアノ任せにすることは避け、フュージョン的なタッチを取り入れての軽い演奏で、80年歌謡の様々なスタイルに挑んでいる。アレンジに三保敬太郎を起用したのもポイントで、それこそ当ブログにはクリスマス・インスト盤以外では初登場のはず。「三人の会」の他の二人は、カテゴリまで用意して熱く迎えているというのに…。

このアルバムの企画を推進したのが「私はピアノ」のヒットであるとは思えないけど、確かにCD時代に入ると、歌謡曲やJ-popを素材とするインスト音楽の主軸はピアノになったという感があり、そんなトレンドを先取りしすぎたのがこれなのかも。クラウンの歌無盤のアレンジで大活躍した神山純(純一)も、90年代には「星座の音楽」などの大胆なアプローチと並んで、「Jazzで聴く~」シリーズで小粋なアレンジに取り組んでいたし。蛇足ながら、このシリーズのうち1枚の発売を差し止め要求した超ビッグ・アーティストがいたのですが、誰であるかは伏せておく(汗)。菊池桃子のピアノ・オーケストラ作品集『卒業記念』も彼の仕事だし(1曲は本人がピアノ演奏)。加羽沢美濃さんの『メモリー・オブ~』シリーズも、よく聴いたな。

サザンの原曲を聴いた時は、原由子のヴォーカルをフィーチャーした歌謡路線に新鮮な驚きを覚えたけれど、そのニュアンスをより小粋に音像化したのがここでのタイトル曲。ヴァイブやトランペットの音もフュージョンより大人な感じで、80年代型の歌謡カラーを出している。逆に「人生の空から」には疾走感を加え、青い珊瑚礁には落ち着いた色彩を。短い演奏になっているのが物足りなくはあるけれど、時代が変わったからとしか言えないか。愛はかげろう「天使」で聴けるアダルトなフルート(後者なんてめちゃ色っぽい)、あまりにもリリカルな演奏で臨んだため、「愛の水中花」みたいな感触になっている「ヤング・ボーイ」あたりにも、80年代なんだなぁという思いを投影してしまう。後者の作曲、水谷公生さんなんですよね。そこに、歌無歌謡黎明期から活躍している三沢あけみや裕ちゃんの曲が交わるから、余計雑種度が増している。

発売日の80年12月21日は、ジョン・レノン暗殺の13日後。東芝にとっては、こんなアルバムのプロモーションどころじゃなかったと思われるけれど、一つの時代が終わったのだなと考えさせられる1枚になってしまった。